イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2011年に書かれたメルセデス・ベンツ G350 BlueTECのレビューです。


G350

最近判明したのだが、現在販売されている車の中で最も信頼性が低いのはレンジローバーだ。調査によると、2002年に登録されたレンジローバーのうち、実に56%が何らかの不具合を起こしている。私自身の経験でも、新型にはバッテリーに問題があることが判明しており、乗り始めて数週間後にはバスを使わざるを得ない状況になってしまった。

しかも、ランドローバーのデザイナーは、落ち着いていて味のあるデザインをやめ、ずっとちゃちなデザインに変えようとしているようだ。フロントエンドはまるでラトナーズ(※宝石店)の店頭のようだし、いずれはピラーの代わりにローマ建築の豪奢な柱を付けてもおかしくない。それどころか、車すべてがオニキスに包まれなければ満足しないかもしれない。アルダリー・エッジに住んでいるような人間なら喜ぶのだろうが、派手さが悪だとみなされる大半の地域においては、この車はあまりにも低俗だ。

メルセデス・Gワーゲンが再び街で見られるようになったことにも納得がいく。この車は昔からイギリスで販売されているのだが、現在は2つのモデルが販売されている。いずれもロングホイールベースで、一方はスーパーチャージャー付きV8エンジンを搭載するAMGモデルで、もう一方は先週私が試乗したG350 BlueTECディーゼルだ。

見た目は非常に整っている。落ち着いている。威厳がある。威圧的な格好良さがある。銃で例えるならAK-47だ。つまり、ギャングが使っているダイヤモンドで飾られたコルトのような現代のレンジローバーとは正反対にある。このデザインは誰もが気に入ることだろう。そのため、8万1,700ポンドという希望小売価格の価値もちゃんとありそうだ。

しかし、実際にこの車を運転してみると話が変わってくる。以前に私がTop Gearで50万ポンドのジャガー・Eタイプについて紹介したことを覚えているだろうか。イースト・サセックス州にあるイーグルという会社が製造しているこの車は、私が今まで見た中で最も美しい人工物だ。ハンバー橋にも勝る。それどころか、リーヴァ・アクアラマにも勝る。しかし、走りは現代の車とは到底思えなかった。確かに新しい部品も使っているのだが、この車の基本設計が、まだ大衆が洗濯機に憧れていたような時代のものであることは隠し切れていなかった。

それから、ジェンセン・インターセプターという車もあった。アイディアは素晴らしかった。ルーンパンツや絞り染めTシャツの時代の美しいイタリアンデザインの車に現代のエンジンや現代のブレーキ、現代のサスペンションが付いた。しかし残念ながら、ABSやエアバッグやナビなどは付いていなかった。それに、まともなワイパーも付いていなかった。

多くの人々が復刻版ジェンセンやイーグル・Eタイプに興味を持つのは理解できる。こういった車は、現代のジャガーやアストン、メルセデス・ベンツなんかよりも1万8,000倍は魅力的だ。しかし、そのデザインが人を惹きつける一方で、マンホールに乗り上げるたびに苦しむことになる。あるいは、木に突っ込んでしまう。

Gワーゲンも同じだ。これは元々1970年代にドイツ軍のために設計された車であり、当然ながら技術レベルも1970年代の水準だ。そのため、たとえ路面状況が良好でも、まるで暴れ馬のごとくのたうち回ってしまう。私は1980年代前半にもGワーゲンを運転したことがあるのだが、その当時は、非常に洗練されていて乗り心地の良い車だと思った。しかし、現代の基準で考えればあまりにも酷い。

しかも、ステアリングはなお悪い。てこを使わなければ回すことすらできないし、もし奇跡的に回すことができたとしても正確には曲がってくれない。

インテリアを現代的にするため、この車にはカップホルダーやオートエアコン、自動防眩ルームミラーなどが装備されている。しかし、これらの装備は電気が開発されるよりも前に設計されたインテリアに無理やり押し込められている。この問題点は特にナビを使おうとすると顕著に露呈する。ナビが配置されているのはセンタークラスターの下、つまりドライバーの左足首の隣だ。たとえ操作系の使い方を知っていたとしても、操作しようとして左腕を足元まで伸ばそうとした途端に車が道路の砂に乗り上げ、RPGに攻撃されたかのように跳ね回ってしまう。

それからドライビングポジションにも問題がある。軍人は常に緊張状態を好むため(イギリス軍の兵器に尖っている部分が多いのもこれが理由だ)、シートはステアリングから5cmしか離れていない。そのため、まるでキッチンテーブルに座るような姿勢で運転しなければならない。

しかしそれでも、目的地にはずっと着かないで欲しいと思うはずだ。目的地に到着してしまえば、この車から降りてドアを閉めなければならない。イギリス最強人類の称号を持っている人間以外にはドアを閉めることなど不可能だ。それに、仮にイギリス最強の称号を持っていたとしても、銀メダリストと銅メダリストの手を借りなければドアを閉めることはできない。テールゲートの開閉はなお大変だ。これを開けるためには重機が必要だ。それに、そもそも荷室はさほど広くないのでテールゲートを開ける意味もない。

確かにエンジンの設計は新しいし、窒素酸化物の排出量も少ない。そいつは凄い。しかし、パワーも少なく、スコットランドよりも重いこの車には明らかに力不足だ。実際、最高速度は174km/hだ。これは大抵の自動車評論家が遅すぎると思うスピードだ。

この車の良いところを見つけるのは本当に難しい。正統派の装備が備わった正統派オフロードカーだという点については気に入っている。それに、1,940ポンドのオプションであるリアシートエンターテインメントシステムも気に入った。バックカメラも気に入った。ただこれも460ポンドのオプションだ。実のところ、試乗車にはあまりに多くのオプションが付いており、実際の価格は9万4,200ポンドまで膨れ上がっていた。

この車は手作りで組み立ての仕上がりも良いし、見た目は魅力的だ。しかし、現代的な装備が備わっていて、現代において発売されているからといって、この車を現代的な車だと考えてはならない。これは脂肪に包まれたオースチン・7だ。なので、私ならばレンジローバーを選ぶ。

確かに、レンジローバーは売店の前に2分間停めておくだけでバッテリーが切れてしまうかもしれない。それに、このフロントエンドを気に入るのはカラスくらいだろう。しかし、レンジローバーなら、少なくとも路面の凹凸に乗り上げて腰を痛めることもないし、クレーンを使わずにドアを開けることができるし、運転席に人間が乗れるだけのスペースがあるし、0-100km/h加速を人間よりも速くこなしてくれる。


The Clarkson review: Mercedes-Benz G 350 Bluetec (2011)