イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2010年に書かれたマセラティ・クアトロポルテのレビューです。


Quattroporte

ここ6週間、室内で1速で横向きにしか車を走らせていない。ずっとTop Gear Live ワールドツアーの興行をしていたからだ。我々は世界中にスピード主義を広めているのだと勘違いされている節があるが、実際に我々がしていることと言えば、アナウンスで自分たちの名前が呼ばれるまで待機し、それから会場に現れて50mのタイヤ痕を作り、車から飛び出して叫ぶ。「ケープタウンの皆さん、こんにちは!」 しかし、オークランドでこんな挨拶をしてしまったら会場の雰囲気は最悪になる。

ショーが終わると、一番適切だと考えられる手段を選んで会場を去る。ヘリコプターを使うことが多いが、シドニーでは全長35mのスーパーヨットを使った。これは異様で馬鹿げていて、常識外れで、それでいて素晴らしかった。

車を使って会場を去ることもあるのだが、道も分からないし、大概は酔っ払っていて運転どころではないので、いつも運転手を付けている。

南アフリカではデンゼルという人が運転手に付き、9mmのセミオートマチック銃をベルトに下げ、渋滞が起きていると警察の先導まで付けてくれた。私がツアーのPRガールと結婚の真似事をすると、車に缶やティッシュペーパーなどで装飾を施してくれた。

オーストラリアではスコットという人が運転手に付き、夜中はずっと私のホテルの部屋の前に座り通し、怪しい人がいれば排除できるように準備していた。スコットは眉を上げるだけで14人もの人を追い払うことができる。

ニュージーランドでは、ナイジェルというプロのラグビー選手が運転手に付いてくれた。ナイジェルは二箇所に同時に存在することができた。私が不安にならないようにビーチにいてくれたのだが、同じ時刻、ジェームズ・メイがテーブルの上でダンスをしているバーにもナイジェルがいた。ナイジェルは身長が5.5mもあったため、こんな芸当ができた。脚もとても長く、ニュージーランドの島々を自力で飛び移ることができた。しかし、車に乗り込むとその長い足が仇になってしまう。

ナイジェルはリアシートからでも簡単に車を運転することができた。3列シートの車でも一番後ろの席で運転するため、プロの運転手としては失格だった。ダグラス・バーダーの運転手としてならやっていけるかもしれないが。

この話が、最近の高級4ドアセダンのリアシートの空間の問題の話に繋がる。リアにスペースなど存在しない。大型セダンを購入し、運転手を付けることができるほど裕福な人なら、きっと毎日美味しい食事をとっていることだろう。それに、お金を生み出すことに忙しいため、ジムに通う時間もなく、つまり非常に太っているのも当然だ。

それだけではない。背の低い人は大抵頭が悪く、富を築くことなどできない。つまり、運転手付きの車のリアシートに座るような人間は太っていて背が高いはずだ。それゆえ、選択肢が限られてしまう。

もちろん、ロングホイールベースのメルセデス・Sクラスやロールス・ロイス ファントムのリアシートはフィンガルの洞窟よりも広い。しかし、車にもっと楽しさや活力を求めた場合はどうだろうか。

ご存知の通り、アストンマーチンが以前、4ドアセダンのラピードを発表した。理論的には条件をすべて満たしていそうだ。おそらくは走りも良いだろうし、音も良いだろうし、質感も良いだろうし、アストンマーチンのバッジも付いているし、見た目も素晴らしい。しかしこの車には欠点がある。リアシートはくつろぐための場所ではない――あなたが豆でない限りは。それに、もしナイジェルを運転手として雇えば、身体を切り刻まなければ車に乗ることさえできない。

ポルシェ・パナメーラにも同じことが言える。この車にはヘッドルームを確保するためにルーフ形状が異常になってデザインが絶望的になっているのだが、それでもヘッドルームは狭い。会社に到着しても、こんな見た目の車から堂々と降りることなどできない。

ランボルギーニは賢明にもガヤルドの4ドア版の計画を取りやめた。コンセプトのデザインは衝撃的だったのだが、正直言ってリアシートに座れるのは子供くらいだろう。しかも、それは両親がマウスの場合の話だ。

残念でならない。リアにシートを付けるなら、そこには人が乗れるようにしなければならない。トラックに500個椅子を載せても、その車は500シーターにはならないはずだ。極端な例として、フェラーリ・カリフォルニアやアストンマーチン・DBSのリアシートを見て欲しい。

アメリカ人は2シーターだと買ってくれないということは知っているが、それでも人の座れないシートを付けるのは愚かでしかない。アストンのリアシートには足元空間に靴すら入らないし、フェラーリに付いているのはただの棚だ。

しかし幸いなことに、ロールスやSクラスと自分で運転したくなるようなクーペの間の位置にある車が1台だけある。ナイジェルがニュージーランドで使っていた車、マセラティ・クアトロポルテだ。

普通、ツアー時にはレンジローバーを使う。イギリスのテレビ番組なのだからイギリス車を使うのが筋だというのも理由の一つだが、なにより、レンジローバーが連なって走っていると遠くからでも目立つので防犯になる。ただ、正直なことを言うと、レンジローバーのリアシートはかなり狭い。

しかし、マセラティでは、ナイジェルの後ろに非常に背の高いディレクターさえ座ることができた。それに、助手席では複雑すぎて理解不能なナビをいじることもできるし、典型的なイタリア的エアコンを付けてバッタのくしゃみよりもかろうじて気持ちのいい風を受けることもできる。

これまでの経験から、クアトロポルテはそれほど運転して楽しくないということは知っている。この時に乗ったATモデルのトランスミッションはルーズで支離滅裂だったし、マニュアルは粗すぎて、特にスポーツモードにした時には許容できないレベルだった。しかし、運転手付きで酔っ払って乗っている時にはそんなことは気にならない。

重要なのは、快適性が高いことと、到着して車から降りるとき、自分が乗ってきた車が最高にいかした車だということだ。そうは思わないって? でも一度口に出して言ってみて欲しい。「今夜はマセラティで帰ろう。」 なんとも甘美な響きではないか。

結論は単純だ。自分で運転したいなら、ラピードか、あるいは醜悪なデザインが気にならないならパナメーラを選べばいい。しかし、運転手を付けるなら、マセラティ・クアトロポルテには必要な物が全て揃っている。それ以外のものまで付いている。

ちなみに、「クアトロポルテ」は「4ドア」を意味する。それはまさしく文字通り車を表している。