イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2010年に書かれたアルファ ロメオ ジュリエッタ 1.4 MultiAirのレビューです。


Giulietta

誰もが名前を持っているというのは本当に不思議だ。子供に付けられる名前は星の数ほどにある。どんな名前でもいい。ただしアドルフだけは例外だ。

それに、多くの女性はナイトクラブの洗面所で種付けされるのに、大抵の女性は自分の夫とともに出産を行う。つまり、命名という儀式に関与するのは少なくとも2人いるということだ。あるいは、祖父母や友人まで関与することもある。

さらに困ったことに、実在しないものの名前を決めるというのは非常に難しい。仮に子供が実際に生まれてくるまで待っていたとしても、私の経験から言うと、生まれてきた赤ん坊は他のどの赤ん坊とも見た目は大して変わらない。「役立たず」とか「悩みの種」とか「騒音源」なんて名前を誰も付けないのが不思議なくらいだ。

一体どういうことだろうか。選択肢は何百万もあるし、16人もの人間が命名に関与するし、4kgの糞便と嘔吐物の塊が将来ファティマ・ウィットブレッドになるか、キーラ・ナイトレイになるかは誰にも分からない。それに、地理的な問題もある。ロザラムに住んでいる人は娘にシャーロットとかアラベラという名前をつけることは許されないし、南アメリカ以外に住む人は息子にジーザスという名前をつけることは許されない。

最初、妻と私は第一子にブーディカと名付けようとした。これは昔のイケニ族の女王と同じ名前だ。

しかし、ぎりぎりになってフォード・マスタングよりもキアに乗りたがるようなマウスを産んでしまうのではないかと心配しはじめた。なので日和ってエミリーという名前にした。しかしこれは許されざるべき決定だった。

トラウザー(ズボン)とかレトロロケット(逆噴射ロケット)という名前を子供に付けるのも問題だ。そんな名前を付けるような人間は子供が入学初日にどんな扱いを受けるかも想像できない馬鹿だ。子供にディフィブリレーター(除細動器)とかアストロフラッシュという名前を付けようと誰も面白い人だとは思ってくれない。残酷で愚かだと思われるだけだ。もし私の思い通りになるなら、誰も彼もジョンという名前にしてしまいたい。

しかし、上述したことはペットには当てはまらない。ペットにならどんな名前を付けてもいいし、面白おかしい名前のほうがむしろ好まれる。息子は亀にエンツォという名前を付けているし、私もその名前が気に入っている。

ここから先の話はきっとご想像の通りだ。そう、車に付けられる名前の話だ。

普通、高級車の名前はアルファベットと数字の記号的な組み合わせとなっている。XJ12もそうだし、7シリーズも、Sクラスもそうだ。しかし、必ずしもそうだというわけでもなく、ファントムという素晴らしい名前が付けられた例もあるし、フェートンというそれ以上に素晴らしい名前が付けられた例もある。また、フランスの道からとられたミュルザンヌという名前はあまり好きになれない。それに、BMWは速いモデルにイギリスの高速道路と同じ名前を付けており、なおのこと間が抜けている。

普通、一般的な名前が付けられるのは中級の車であり、それにより車に個性が生まれることが期待されている。これにはちゃんとした理屈がある。豚にウォルターとかツェッペリンという名前を付ければ、その豚の身体の一部分さえ口に入れられなくなってしまう。しかし、豚1、豚2と名付けたなら、躊躇なく冷蔵庫行きにできることだろう。

それゆえ、つまらない車に名前を与えるのは理に適っているのだが、巷に酷い名前の車が溢れていることについては驚きを禁じ得ない。モンデオ。メガーヌ。インシグニア。カローラ。どれも酷い。しかも、ゴルフという車まである。サートゥン・デス(絶体絶命)という名前の方がまだましだろう。

もちろん、世界中で販売される車に名前を付けることがいかに大変かということは理解している。例えば、トヨタはMR2という名前の車を売ろうとしたのだが、それはフランス語では「排泄物」という意味になってしまう。それに、ロールス・ロイスはシルヴァーミストという車を売ろうとしたのだが、ドイツ語でミストは「糞」だ。それに、アルバニアでフォードがKaを販売していたとしたらどうなっただろうか。――「ペニス」という名前の車など誰も運転したがらないだろう。

妙なことに、アメリカ人は車の名付けが上手い。マスタング。ファイアーバード。サンダーバード。これらはモンテゴとかマエストロとかメトロなんて名前よりもよっぽど良い。アメリカ人は素晴らしい生物から名前をとっている。一方、イギリス人はフランスの地下鉄から名前をとっている。

しかし、ネーミングセンスの無さという点では、イタリア人の右に出る者はいない。フィアットは1(ウーノ)だの、ポイント(プント)だの、道(ストラーダ)だの、ビッグ・ポイント(グランデプント)だのという名前を使っているし、マセラティは8万ポンドの車に4ドア(クアトロポルテ)という名前を付けている。

それから、今回紹介する車だ。アルファ ロメオは当初ミラノという名前を付けようとしたようだが、これでも何の問題もない。しかし、発売直前になって上層部がジュリエッタという名前に変更した。ジュリエッタという名前は素晴らしいし、車の名前としても悪くない。しかし、名前に惹かれたところで、こう思うことだろう。「素晴らしい5ドアハッチバックだな。でも私ならゴルフを買う。」 そういうものだ。自分の金で買うなら、信頼性に関する評価の高い会社から購入するのも当然だ。

アルファ ロメオは壊れないなどとは到底断言できない。ただ、ドライビングポジションは腕の付いた人間には合っていないし、Bピラーが邪魔なので窓側の肘掛けに肘を置くことはできないし、フロントシートはサイドサポートが欠けているし、シートバックは小さすぎる、ということは断言することができる。つまり、レッカー車が助けに来るまで待っている場所としても、大して快適な場所ではないし、室内が広いわけでもない。

ここまでは、これまでのアルファ ロメオと何ら変わりない。見た目が良く、気まぐれで、いずれは燃え散ってしまうかもしれない。しかし、実際はまったくアルファ ロメオらしくなどない。この車にはゴルフやフォード・フォーカス同様にマルチリンクリアサスペンションが付いているはずなのだが、まったくもって活き活きとしているようには感じられない。

この車に1970年代のアルファのような凄さを求めているなら、きっと失望してしまうことだろう。

エンジンについても同じことが言える。試乗車に搭載されていたのは1.4LのMultiAirとかいうエンジンだ。このエンジンは、優れたトルク、低排出ガス、低燃費の三位一体を実現しているそうだ。しかし、レッドラインまで回して加速しようとするとまるで運動会に出場する肥満児のようになってしまう。

この車の良いところとしては、アルファにしては異常なのだが、スピードバンプを何事もなくいなし、粗い路面も何事もなく通り過ぎて行く。シフトレバーの横にある「Dynamic」スイッチを押さない限り、乗り心地は素晴らしい。もし押せば、騒音が増して従順でなくなるか、ダッシュボードに「ダイナミックモードは使用できません」と表示されるかのどちらかだ。

これは奇妙な車だ。アルファであるのは確かだし、リアにもちゃんとアルファ ロメオと書かれている。しかし、中身はアルファとは到底思えない。まるで車のようだ。結局、これはただの車でしかない。


This Sunday: Clarkson drives the Alfa Romeo Giulietta