イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
今回紹介するのは、2012年に書かれたアルファ ロメオ ミト TwinAirのレビューです。

いつか、叫びながらコーナーを高速で駆け抜けるのを卒業したら、アルファ ロメオの常務、最高経営責任者、親衛隊大将になりたい。そして素晴らしい車を世に出したい。私の独裁下で発売される最初の車は2ドアスポーツカーだ。マツダ・MX-5(日本名: ロードスター)よりもわずかに大きく、マニュアルトランスミッションで、車名はスパイダーだ。
ボンネットの下には、楽しい2Lツインカム4気筒エンジンが収まっており、回しすぎると弾けてしまう。この車にはキャブレターが付いているため、EUの排出ガス人間がホッキョクグマの保護が必要だと執拗に警告してくることだろう。
その警告に対し、私は強く反論するつもりだ。私はホッキョクグマや氷河、それに大気中の二酸化炭素濃度には興味がないし、キャブレター以上に洗練された繊細さ、シンプルさを持つものなど存在しない、と。私はその反論を書き綴った手紙をレンガに結び付け、オフィスの窓ガラスに投げ込んでやるつもりだ。
それから、車のデザインも考えなければならない。しかしこれも難しいことではない。アルファ ロメオのデザイン部門に銃を持って押し入り、史上最高のデザインの車を作れと脅せばいい。それでも駄目なら、AK-47を見つめながら慈悲はないと告げればいい。
そうして生まれるのは、きっと小さくなったフェラーリ・275 GTSのような車だろう。そこにはフィアット・124スパイダーの面影もあるし、マセラティ・3500GTの面影もあるかもしれない。そしてワイヤーホイールを履き、ポップアップヘッドランプも付いているかもしれない。もし歩行者保護がなっていないと文句を言うような人がいれば、そんな文句を言う人を実際に轢いてみることで実証してやろう。
そうして生まれた車は、見た目は美しく、運転しても素晴らしく、ジャック・リーチャーのように個性豊かで、裸の王様の写真くらいに手に入れたいと思うような車になることだろう。その結果大金が会社に転がり込み、それを資金に今度は昔のアルファスッドの形をしたハッチバックの開発に取り掛かる。続けて、今度は最近生産が中止されてしまった159を復活させる。159は良い車だし、生産をやめる理由などどこにもなかったはずだ。
先日、ジェームズ・マカヴォイの映画『ビトレイヤー』を観た。彼は映画の中で159を運転していたのだが、それがまた格好良く、ついストーリーを追うのを忘れてしまうほどだった。私はこの車が大好きだ。ずっと作り続けて欲しいと思っていた。惜しくてならない。
老婦人が愛猫を愛するように、私はアルファ ロメオを愛している。アルファは、信頼性が欠如し、間抜けで、頭がおかしいということは理解している。しかしだからこそ人間らしい。アーセナルのファンがチームを愛するように、私はアルファ ロメオを愛している。しかし、アーセナルのファン同様、私も人生の崩壊を目にすることとなる。
私の息子が17歳になったので、そろそろ車を買ってやろうと思っている。しかし何を買えばいいだろうか。おそらくは私の息子だからなのだろうが、息子は自動車に関する物事についてこれ以上ないくらいに無関心だ。車の知識よりもジューン・ホイットフィールドの知識の方が多いくらいだ。考えてみれば、ヘロデ大王に関する知識の方が多いかもしれない。
唯一、息子が言っているのは、姉と同じフォード・フィエスタにだけは乗りたくないということだけだ。姉と同じは嫌らしい。なので私はアルファを勧めた。例えばMiToはどうだろう。2気筒 0.9Lエンジンを載せたTwinAirは…。彼の目は眠たげになってきた。「イタリア車だぞ」と言うと、その響きが気に入ったようだった。息子はイタリアが好きだ。
なので私は実際に借りて試乗してみたのだが――なんてこった。衝撃的だった。信じがたいほど酷かった。ただ、コンセプトは非常に良い。100km/h以上を出すことのできる小さなエンジンというのは悪くない。それに、このエンジンが最初に搭載されたフィアット・500は大抵の人にとっては狭すぎた。
ミトに搭載されてもエンジンの良さは変わっていない。テリアのように回り、思わず笑顔になってしまうような音を上げる。しかし、エンジンが小さく、それにミトが非常に重いという事実から逃れることはできない。つまり、ヒステリックなほど回しておかしな音を上げても、実際に出ている速度は6km/hだったりする。
何度もプジョーを追い越すために車線を外れ、最初に来るパワーの波には満足するのだが、すぐに萎んで死んでしまい、そうこうしているうちに前に赤信号が迫り、ブレーキをかけてプジョーの後ろにまた戻ることになる。この車には速さがない。
音は速そうだ。見た目も速そうだ。それに、アルファ ロメオというブランドを考えても速くてしかるべきだ。しかし、DNAシステムをどうセッティングしようと速くはならない。「Dynamic」ではパワーが不十分だし、「Natural」はそれを下回る。「All-weather」は特に意味がない。
しかしそれでも問題はない。息子は車に興味がないし、まだ10代だ。なのできっと、どれほど車が遅かろうと気にしないはずだ。
しかし、この車にはそれ以上の問題点がある。ギアチェンジは悲惨だし、乗り心地は壊滅的だし、ドライビングポジションはクリント・イーストウッドと共演したオランウータン向けのセッティングとしか思えない。ペダルがステアリングの真下にあるため、快適なドライビングポジションを取ることができるのは腕と脚の長さが同じ人間だけだ。
それに価格はいくらだろうか。当ててみてほしい。いや、不正解だ。しかし落ち込まないでほしい。私にも当てられなかった。だいたい1万3,000ポンド程度だと思っていた。しかし、今回試乗した車は、ちょっとしたオプションが1つか2つしか付いていなかったのだが、それでも1万6,500ポンドだった。この値段はそもそも車全般として考えても高価だし、このサイズの車だともはや冗談にしか聞こえない。
もちろん、バッジには価値がある。アルファのバッジにかなりの価値があるのは確かだ。アルファのバッジは様々なものを象徴している。蛇と赤十字のロゴはエルサレムの城壁を最初に登った十字軍戦士に由来している。それだけではない。かつて、アルファ ロメオはF1で毎回のように勝利し続けたことがある。エンツォ・フェラーリが表舞台に登場した頃の話だ。アルファには他の自動車メーカーが一緒になってかかっても敵わないほどの伝統と想いがある。
しかし、アルファは厚顔無恥にもMiTo TwinAirにそのバッジを付けた。街角の商店にロールス・ロイスのバッジを付けるのと変わらない。いや、それよりも酷い。アン王女を消費者金融のテレビCMに出演させるようなものだ。やってはいけないことだ。
なので、もし私がアルファを手に入れたら、MiToの生産を即刻やめさせ、この車について言及している本やインターネットサイトはすべて焚書することだろう。
The Clarkson review: Alfa Romeo MiTo Twin Air (2012-on)
今回紹介するのは、2012年に書かれたアルファ ロメオ ミト TwinAirのレビューです。

いつか、叫びながらコーナーを高速で駆け抜けるのを卒業したら、アルファ ロメオの常務、最高経営責任者、親衛隊大将になりたい。そして素晴らしい車を世に出したい。私の独裁下で発売される最初の車は2ドアスポーツカーだ。マツダ・MX-5(日本名: ロードスター)よりもわずかに大きく、マニュアルトランスミッションで、車名はスパイダーだ。
ボンネットの下には、楽しい2Lツインカム4気筒エンジンが収まっており、回しすぎると弾けてしまう。この車にはキャブレターが付いているため、EUの排出ガス人間がホッキョクグマの保護が必要だと執拗に警告してくることだろう。
その警告に対し、私は強く反論するつもりだ。私はホッキョクグマや氷河、それに大気中の二酸化炭素濃度には興味がないし、キャブレター以上に洗練された繊細さ、シンプルさを持つものなど存在しない、と。私はその反論を書き綴った手紙をレンガに結び付け、オフィスの窓ガラスに投げ込んでやるつもりだ。
それから、車のデザインも考えなければならない。しかしこれも難しいことではない。アルファ ロメオのデザイン部門に銃を持って押し入り、史上最高のデザインの車を作れと脅せばいい。それでも駄目なら、AK-47を見つめながら慈悲はないと告げればいい。
そうして生まれるのは、きっと小さくなったフェラーリ・275 GTSのような車だろう。そこにはフィアット・124スパイダーの面影もあるし、マセラティ・3500GTの面影もあるかもしれない。そしてワイヤーホイールを履き、ポップアップヘッドランプも付いているかもしれない。もし歩行者保護がなっていないと文句を言うような人がいれば、そんな文句を言う人を実際に轢いてみることで実証してやろう。
そうして生まれた車は、見た目は美しく、運転しても素晴らしく、ジャック・リーチャーのように個性豊かで、裸の王様の写真くらいに手に入れたいと思うような車になることだろう。その結果大金が会社に転がり込み、それを資金に今度は昔のアルファスッドの形をしたハッチバックの開発に取り掛かる。続けて、今度は最近生産が中止されてしまった159を復活させる。159は良い車だし、生産をやめる理由などどこにもなかったはずだ。
先日、ジェームズ・マカヴォイの映画『ビトレイヤー』を観た。彼は映画の中で159を運転していたのだが、それがまた格好良く、ついストーリーを追うのを忘れてしまうほどだった。私はこの車が大好きだ。ずっと作り続けて欲しいと思っていた。惜しくてならない。
老婦人が愛猫を愛するように、私はアルファ ロメオを愛している。アルファは、信頼性が欠如し、間抜けで、頭がおかしいということは理解している。しかしだからこそ人間らしい。アーセナルのファンがチームを愛するように、私はアルファ ロメオを愛している。しかし、アーセナルのファン同様、私も人生の崩壊を目にすることとなる。
私の息子が17歳になったので、そろそろ車を買ってやろうと思っている。しかし何を買えばいいだろうか。おそらくは私の息子だからなのだろうが、息子は自動車に関する物事についてこれ以上ないくらいに無関心だ。車の知識よりもジューン・ホイットフィールドの知識の方が多いくらいだ。考えてみれば、ヘロデ大王に関する知識の方が多いかもしれない。
唯一、息子が言っているのは、姉と同じフォード・フィエスタにだけは乗りたくないということだけだ。姉と同じは嫌らしい。なので私はアルファを勧めた。例えばMiToはどうだろう。2気筒 0.9Lエンジンを載せたTwinAirは…。彼の目は眠たげになってきた。「イタリア車だぞ」と言うと、その響きが気に入ったようだった。息子はイタリアが好きだ。
なので私は実際に借りて試乗してみたのだが――なんてこった。衝撃的だった。信じがたいほど酷かった。ただ、コンセプトは非常に良い。100km/h以上を出すことのできる小さなエンジンというのは悪くない。それに、このエンジンが最初に搭載されたフィアット・500は大抵の人にとっては狭すぎた。
ミトに搭載されてもエンジンの良さは変わっていない。テリアのように回り、思わず笑顔になってしまうような音を上げる。しかし、エンジンが小さく、それにミトが非常に重いという事実から逃れることはできない。つまり、ヒステリックなほど回しておかしな音を上げても、実際に出ている速度は6km/hだったりする。
何度もプジョーを追い越すために車線を外れ、最初に来るパワーの波には満足するのだが、すぐに萎んで死んでしまい、そうこうしているうちに前に赤信号が迫り、ブレーキをかけてプジョーの後ろにまた戻ることになる。この車には速さがない。
音は速そうだ。見た目も速そうだ。それに、アルファ ロメオというブランドを考えても速くてしかるべきだ。しかし、DNAシステムをどうセッティングしようと速くはならない。「Dynamic」ではパワーが不十分だし、「Natural」はそれを下回る。「All-weather」は特に意味がない。
しかしそれでも問題はない。息子は車に興味がないし、まだ10代だ。なのできっと、どれほど車が遅かろうと気にしないはずだ。
しかし、この車にはそれ以上の問題点がある。ギアチェンジは悲惨だし、乗り心地は壊滅的だし、ドライビングポジションはクリント・イーストウッドと共演したオランウータン向けのセッティングとしか思えない。ペダルがステアリングの真下にあるため、快適なドライビングポジションを取ることができるのは腕と脚の長さが同じ人間だけだ。
それに価格はいくらだろうか。当ててみてほしい。いや、不正解だ。しかし落ち込まないでほしい。私にも当てられなかった。だいたい1万3,000ポンド程度だと思っていた。しかし、今回試乗した車は、ちょっとしたオプションが1つか2つしか付いていなかったのだが、それでも1万6,500ポンドだった。この値段はそもそも車全般として考えても高価だし、このサイズの車だともはや冗談にしか聞こえない。
もちろん、バッジには価値がある。アルファのバッジにかなりの価値があるのは確かだ。アルファのバッジは様々なものを象徴している。蛇と赤十字のロゴはエルサレムの城壁を最初に登った十字軍戦士に由来している。それだけではない。かつて、アルファ ロメオはF1で毎回のように勝利し続けたことがある。エンツォ・フェラーリが表舞台に登場した頃の話だ。アルファには他の自動車メーカーが一緒になってかかっても敵わないほどの伝統と想いがある。
しかし、アルファは厚顔無恥にもMiTo TwinAirにそのバッジを付けた。街角の商店にロールス・ロイスのバッジを付けるのと変わらない。いや、それよりも酷い。アン王女を消費者金融のテレビCMに出演させるようなものだ。やってはいけないことだ。
なので、もし私がアルファを手に入れたら、MiToの生産を即刻やめさせ、この車について言及している本やインターネットサイトはすべて焚書することだろう。
The Clarkson review: Alfa Romeo MiTo Twin Air (2012-on)
