今回は、2005年に書かれた英国「AUTOCAR」によるブリストル・ファイターSの試乗レポートを日本語で紹介します。

ブリストル・カーズ以上に謎に包まれた会社はない。この会社は金持ちのために毎年少数の車を製造し、本来なら必要不可欠なはずの広報活動すらまともに行わず、ずっとマイペースに歩んできた。
厳しい時代にも、社員一丸となって会社の柱であるトニー・クルックのために働き、会社の修復に努めた。車は創業以来ブリストル近郊のフィルトンで製造され、販売はケンジントンのみで行われている。このショールームはあまりにも有名になり、今やロンドンの観光名所にまでなっている。
しかし、1997年になると状況が変化したのだが、それでも会社自体は変わらなかった。ブリストルは長年の交渉の末、車好きの資産家トビー・シルヴァートンが買収した。しかし、創業者であるトニー・クルックは自分のやりかたを変えようとはしなかった。
そして1999年後半、ブリストルはダッジ・バイパーのコンポーネンツを用いた300km/h超えのスーパーカー、ファイターを発表し、2001年末の発売を約束した。年間製造台数はわずか20台で、価格は20万ポンドをわずかに下回る程度だと公表された。
それに先立って、クルックとシルヴァートンは5分の1スケールのモデルを公開した。これはメルセデスの300SLRを彷彿とさせるような滑らかなデザインなのだが、ライバルとなるような現代の他のクーペと比べると、車高は高いし幅は狭いしとかなり異色だった。
この車は2シーターで、小型・超軽量を目標に設計され、ガルウィングドアを何よりの特徴としていた。これは一時絶大な反響を生んだのだが、同時に疑問の声も多数聞かれた。というのも、この車は40年以上ぶりのブリストルの完全な新モデルだからだ。ブリストルにまだ新車を開発する力があったのだろうか。
発売は先延ばしになったが、2003年のグッドウッド・フェスティバルで完成版のシャシが公表された。これはマックス・ボクストロムの手掛けたもので、彼は1989年のル・マンで11位入賞を果たしたアストンマーティン・AMR-1も手掛けている。
最初に発表された構想ではオールアルミシャシになる予定だったのだが、実際は強度を要する部分がスチール製となり、アルミニウムはハニカム状のフロア構造とロールバーに用いられるに留まっている。また、サスペンションは前後ともスタビライザー付きのコイルスプリングダブルウィッシュボーンで、車の性能の信憑性も生まれてきたように感じられた。
また、それと一緒に発表されたハンドメイドのアルミニウム(ウイング、ルーフ、ボンネット)・カーボンファイバー(ドア・テールゲート)製のボディも大きな注目を浴びた。Cd値は0.28と非常に低く、また車重は1,540kgと、重量級のライバルと比べれば400~500kgは軽い。
しかし、その時には誰もその車を実際に運転することはできなかった。532PSの8.0L V10エンジンや6速MTはおそらく開発途中だったのだと思われる。
そんなこんなで発売に至った市販モデルは、最高速度は330~350km/h程度になると発表されており、0-100km/h加速は4.0秒で、価格は22万9,000ポンド(637PSのSは25万6,000ポンド)なのだが、購入者以外は乗ることさえ許されなかった。しかしそれはつい数週間前までの話だ。
イギリスでも有名な自動車コレクターであり、超高級車に関する書籍を発行するロンドン パラワン・プレス社の重役でもあるサイモン・ドレーパーが12月にブリストル・ファイターを購入した。その後、彼は初期不良にも苦しんだ。
しかし、それを乗り越え、彼はオートカーのテストに快諾してくれた。もし彼が製造第8号車である愛車を貸してくれなければ、我々がファイターを試乗することはほとんど不可能だっただろう。なにせ、今現時点でブリストルが製造しているのが10台目であり、そのカウントにはプロトタイプも含まれているのだから。
ファイターは少なくとも1ダース以上の数の車が眠る彼のガレージの中に収められていた。しかし、どの車も傷ひとつなく綺麗に管理されていた。

ファイターと対面すれば、他の車とは違うことに気付くことだろう。他のGTカーと比べれば車高は数cm高く、車幅も狭い。実際、基幹部品を共有しているダッジ・バイパーと比べると、車幅は115mm狭くなっている。
かつて飛行機メーカーだったブリストルは、いつでも他のスポーツカーメーカーとは一線を画していた。空気抵抗を生みかねないダウンフォースは無視され、スタビリティや流線型、ゼロリフトが追求されてデザインされており、190km/h以上でのパフォーマンスは圧倒的だ。
全高の高さや全幅の狭さは、実用性を考慮してのものだ。しかし何より、この車は美しい。ラインはアヴァンギャルドとは到底言えないものの、対称的でバランスがとれている。写真で見るよりも実物を見たほうがよっぽど良い。
運転席のドアを上げ、少し苦労しつつ実際に車内へと乗り込むと、そこは狭くなどなかった。これには、腰を落ち着けた大きなレザーバケットシートがリアタイヤの先端と30cmも離れておらず、しかもフロントタイヤとの距離が2m近いことが関係しているのかもしれない。着座位置はかなり高いが、ヘッドルームが狭いわけでもないし、ボンネット越しの視界も良い。
飛行機メーカーの系譜もそこかしこに散見される。ダッシュボードや天井に並ぶ計器類や、戦闘機のように小さな開口部の付いた窓などがそうだ。
しかし、何よりも凄いのは室内空間だ。ヘッドルームもショルダールームも足元空間も広く、ペダルの間隔もちょうど良く、ステアリングの大きさも適度だし、シート後方、フルサイズのスペアタイヤの上には広い荷室スペースが広がっている。この車は居心地が良く、その点こそ他のメーカーには真似できない点だ。
エンジンをかけると、馴染み深い轟音が聞こえてくる。クライスラー製V10エンジンのポテンシャルは疑いようのないものだ。ブリストルは旧設計の8.0Lエンジンを使い続けているが、これでも出力・トルクともに現行の8.3L版に勝っている。
莫大なトルクに対処するため、クラッチは軽い。それでもクラッチの噛みは強力で、加速からはこの車がまるでフェザー級であるかのように感じられる。0-100km/h加速が4秒であることも疑いようがない。100km/h程度ならギアチェンジせずとも簡単に達してしまう。
パフォーマンスは圧倒的としか表現しようがない。どんなスピードからでも、6速以外ならどのギアでも、エンジン回転数が2,000rpm程度であれば強力に加速することができる(6速では60km/hで1,000rpm)。レッドラインは6,000rpm付近にあるのだが、5,000rpm以上回す必要などどこにもない。
ブリストルはシフトレバーを改良し、ストロークを短くしてレバーをドライバー側に傾けている。このトランスミッションは変速が非常に速いというわけでもないし、癖があって慣れるためには少し時間を要するのだが、それでも十分に満足の行くものだ。私はこれが気に入った。
操作性も高く、ハードなコーナリングをしても穏やかだし、ホイールベースが十分長いのでいざというときにテールが暴れるということもない。それに、この車にはスタビリティコントロールも付いている。
乗り味に関する印象はあまり良くはない。酷いというわけでもないのだが未成熟で、ソフトすぎるし、コーナリング時にはスタビライザーが付いているにもかかわらず過剰なロールが感じられた。それに、路面の凹凸にはうまく対処できていなかった。既にこの車で数千km走っているサイモン・ドレーパーもこのことは気になっているようだ。
しかし、トビー・シルヴァートンによると、この車には標準の硬めのショックアブソーバーが付いているにもかかわらず、コンフォート志向のスプリングが使われているそうだ。乗り味の違和感はそこに原因があるのかもしれない。スプリングもショックに合わせたものにすれば走りが良くなるだろうし、フロントキャスターを追加すればもともとフィールのよかったステアリングのセンター付近でのフィーリングが改善されるそうだ。
では、まとめに移ろう。私はブリストル・ファイターに大きな感銘を受けた。少数生産のモデルとは考えられないほどの実力を持つ車だった。他の自動車メーカーはこの車よりも多い台数を実利のために製造している。しかし、この元飛行機メーカーは個性と実力のある魅力的な車を製造しており、他とは違った車を求める車好きを惹きつけることだろう。
Bristol Fighter V10 S first drive review

ブリストル・カーズ以上に謎に包まれた会社はない。この会社は金持ちのために毎年少数の車を製造し、本来なら必要不可欠なはずの広報活動すらまともに行わず、ずっとマイペースに歩んできた。
厳しい時代にも、社員一丸となって会社の柱であるトニー・クルックのために働き、会社の修復に努めた。車は創業以来ブリストル近郊のフィルトンで製造され、販売はケンジントンのみで行われている。このショールームはあまりにも有名になり、今やロンドンの観光名所にまでなっている。
しかし、1997年になると状況が変化したのだが、それでも会社自体は変わらなかった。ブリストルは長年の交渉の末、車好きの資産家トビー・シルヴァートンが買収した。しかし、創業者であるトニー・クルックは自分のやりかたを変えようとはしなかった。
そして1999年後半、ブリストルはダッジ・バイパーのコンポーネンツを用いた300km/h超えのスーパーカー、ファイターを発表し、2001年末の発売を約束した。年間製造台数はわずか20台で、価格は20万ポンドをわずかに下回る程度だと公表された。
それに先立って、クルックとシルヴァートンは5分の1スケールのモデルを公開した。これはメルセデスの300SLRを彷彿とさせるような滑らかなデザインなのだが、ライバルとなるような現代の他のクーペと比べると、車高は高いし幅は狭いしとかなり異色だった。
この車は2シーターで、小型・超軽量を目標に設計され、ガルウィングドアを何よりの特徴としていた。これは一時絶大な反響を生んだのだが、同時に疑問の声も多数聞かれた。というのも、この車は40年以上ぶりのブリストルの完全な新モデルだからだ。ブリストルにまだ新車を開発する力があったのだろうか。
発売は先延ばしになったが、2003年のグッドウッド・フェスティバルで完成版のシャシが公表された。これはマックス・ボクストロムの手掛けたもので、彼は1989年のル・マンで11位入賞を果たしたアストンマーティン・AMR-1も手掛けている。
最初に発表された構想ではオールアルミシャシになる予定だったのだが、実際は強度を要する部分がスチール製となり、アルミニウムはハニカム状のフロア構造とロールバーに用いられるに留まっている。また、サスペンションは前後ともスタビライザー付きのコイルスプリングダブルウィッシュボーンで、車の性能の信憑性も生まれてきたように感じられた。
また、それと一緒に発表されたハンドメイドのアルミニウム(ウイング、ルーフ、ボンネット)・カーボンファイバー(ドア・テールゲート)製のボディも大きな注目を浴びた。Cd値は0.28と非常に低く、また車重は1,540kgと、重量級のライバルと比べれば400~500kgは軽い。
しかし、その時には誰もその車を実際に運転することはできなかった。532PSの8.0L V10エンジンや6速MTはおそらく開発途中だったのだと思われる。
そんなこんなで発売に至った市販モデルは、最高速度は330~350km/h程度になると発表されており、0-100km/h加速は4.0秒で、価格は22万9,000ポンド(637PSのSは25万6,000ポンド)なのだが、購入者以外は乗ることさえ許されなかった。しかしそれはつい数週間前までの話だ。
イギリスでも有名な自動車コレクターであり、超高級車に関する書籍を発行するロンドン パラワン・プレス社の重役でもあるサイモン・ドレーパーが12月にブリストル・ファイターを購入した。その後、彼は初期不良にも苦しんだ。
しかし、それを乗り越え、彼はオートカーのテストに快諾してくれた。もし彼が製造第8号車である愛車を貸してくれなければ、我々がファイターを試乗することはほとんど不可能だっただろう。なにせ、今現時点でブリストルが製造しているのが10台目であり、そのカウントにはプロトタイプも含まれているのだから。
ファイターは少なくとも1ダース以上の数の車が眠る彼のガレージの中に収められていた。しかし、どの車も傷ひとつなく綺麗に管理されていた。

ファイターと対面すれば、他の車とは違うことに気付くことだろう。他のGTカーと比べれば車高は数cm高く、車幅も狭い。実際、基幹部品を共有しているダッジ・バイパーと比べると、車幅は115mm狭くなっている。
かつて飛行機メーカーだったブリストルは、いつでも他のスポーツカーメーカーとは一線を画していた。空気抵抗を生みかねないダウンフォースは無視され、スタビリティや流線型、ゼロリフトが追求されてデザインされており、190km/h以上でのパフォーマンスは圧倒的だ。
全高の高さや全幅の狭さは、実用性を考慮してのものだ。しかし何より、この車は美しい。ラインはアヴァンギャルドとは到底言えないものの、対称的でバランスがとれている。写真で見るよりも実物を見たほうがよっぽど良い。
運転席のドアを上げ、少し苦労しつつ実際に車内へと乗り込むと、そこは狭くなどなかった。これには、腰を落ち着けた大きなレザーバケットシートがリアタイヤの先端と30cmも離れておらず、しかもフロントタイヤとの距離が2m近いことが関係しているのかもしれない。着座位置はかなり高いが、ヘッドルームが狭いわけでもないし、ボンネット越しの視界も良い。
飛行機メーカーの系譜もそこかしこに散見される。ダッシュボードや天井に並ぶ計器類や、戦闘機のように小さな開口部の付いた窓などがそうだ。
しかし、何よりも凄いのは室内空間だ。ヘッドルームもショルダールームも足元空間も広く、ペダルの間隔もちょうど良く、ステアリングの大きさも適度だし、シート後方、フルサイズのスペアタイヤの上には広い荷室スペースが広がっている。この車は居心地が良く、その点こそ他のメーカーには真似できない点だ。
エンジンをかけると、馴染み深い轟音が聞こえてくる。クライスラー製V10エンジンのポテンシャルは疑いようのないものだ。ブリストルは旧設計の8.0Lエンジンを使い続けているが、これでも出力・トルクともに現行の8.3L版に勝っている。
莫大なトルクに対処するため、クラッチは軽い。それでもクラッチの噛みは強力で、加速からはこの車がまるでフェザー級であるかのように感じられる。0-100km/h加速が4秒であることも疑いようがない。100km/h程度ならギアチェンジせずとも簡単に達してしまう。
パフォーマンスは圧倒的としか表現しようがない。どんなスピードからでも、6速以外ならどのギアでも、エンジン回転数が2,000rpm程度であれば強力に加速することができる(6速では60km/hで1,000rpm)。レッドラインは6,000rpm付近にあるのだが、5,000rpm以上回す必要などどこにもない。
ブリストルはシフトレバーを改良し、ストロークを短くしてレバーをドライバー側に傾けている。このトランスミッションは変速が非常に速いというわけでもないし、癖があって慣れるためには少し時間を要するのだが、それでも十分に満足の行くものだ。私はこれが気に入った。
操作性も高く、ハードなコーナリングをしても穏やかだし、ホイールベースが十分長いのでいざというときにテールが暴れるということもない。それに、この車にはスタビリティコントロールも付いている。
乗り味に関する印象はあまり良くはない。酷いというわけでもないのだが未成熟で、ソフトすぎるし、コーナリング時にはスタビライザーが付いているにもかかわらず過剰なロールが感じられた。それに、路面の凹凸にはうまく対処できていなかった。既にこの車で数千km走っているサイモン・ドレーパーもこのことは気になっているようだ。
しかし、トビー・シルヴァートンによると、この車には標準の硬めのショックアブソーバーが付いているにもかかわらず、コンフォート志向のスプリングが使われているそうだ。乗り味の違和感はそこに原因があるのかもしれない。スプリングもショックに合わせたものにすれば走りが良くなるだろうし、フロントキャスターを追加すればもともとフィールのよかったステアリングのセンター付近でのフィーリングが改善されるそうだ。
では、まとめに移ろう。私はブリストル・ファイターに大きな感銘を受けた。少数生産のモデルとは考えられないほどの実力を持つ車だった。他の自動車メーカーはこの車よりも多い台数を実利のために製造している。しかし、この元飛行機メーカーは個性と実力のある魅力的な車を製造しており、他とは違った車を求める車好きを惹きつけることだろう。
Bristol Fighter V10 S first drive review