今回は、英国「Auto Express」によるホンダ・シビックタイプRの試乗レポートを日本語で紹介します。

Top GearによるシビックタイプRの試乗記はこちら



Civic Type R

新型シビックタイプRの登場まで5年間という長い年月を待たねばならなかったが、ようやく登場目前の新型シビックタイプRに試乗することができた。ホンダは大幅な遅刻を犯してしまったが、きっと待っただけの甲斐はあることだろう。

何よりもまず、従来のタイプRよりも派手になったボディの内側に積まれているエンジンが変わっている。従来の高回転志向の自然吸気に取って代わり、新設計の2.0Lターボエンジンが搭載されている。従来モデルの特徴はまさしくこの自然吸気エンジンであり、ホンダの熱狂的ファンならこの変化を歓迎してはくれないかもしれない。とはいえ、新型も立派な後継車だ。

ホットハッチとはパフォーマンスと現実的な実用性の融合であり、シビックタイプRもその点でどちらも秀でているのだが、まずは前者の話をしよう。

新設計の4気筒ターボエンジンは最高出力310PS、最大トルク40.8kgf·mを発揮し、そのパフォーマンスは圧倒的だ。0-100km/h加速タイムはわずか5.7秒で、最高速度は269km/hなのだが、この車の一番の見所はエンジンの中域だ。

アクセルを踏み込むと莫大なトルクが車を引っ張って行き、ギアを変えずとも走ることができる。とはいえ、この6速MTはパワーユニットに見事に調和しており、シフトストロークは短いし、変速挙動は素晴らしくて正確だ。

もうVTECによる盛り上がりを感じることはできないが(新型ではVTECが1,200rpm周辺ではたらき、低回転域のレスポンスを向上している)、それでもトップエンドまで回すのは楽しく、エンジンは7,000rpmのレッドラインまで綺麗に回っていき、かつてのタイプRのキャラクターは依然として残っている。それに、ターボチャージャーからの音も加わることで、ホンダのエンジンサウンドに新しい要素が生まれた。

engine

ただ、四本出しのエグゾーストパイプはアイドリング時には低音を奏でてくれるのだが、走行時にはエンジン音の方が大きくなってしまい、特に長距離移動の際にはかなり鬱陶しく感じることだろう。

しかし、高速道路を降りて山道に入るとシビックの本領を発揮することができる。+Rボタンを押すとダッシュボードが白から鮮やかな赤に変貌し、ダンパーが30%硬くなり、スロットルの応答性が高くなり、そしてステアリングも重くなる。

それによりタイプRはさらにハードコアになり、より尖って、よりしなやかに、より俊敏になる。350mmのブレンボ大径ブレーキは強大な制動力と素晴らしいフィーリングをもたらしてくれるし、重くなったステアリングはかなり正確だ。豊富なステアフィールがあるわけではないのだが、コーナーをアクセルとステアリングを細かく調整しながら走り抜けるためには十分に正確だ。コーナーを抜け、アクセルを踏み込むと、LSDとハイグリップ低扁平タイヤが絶大なトラクションを生み出す。

動力性能をさらに高めるため、ホンダは先進的なフロントサスペンションシステムを生み出している。これはデュアルアクシスストラットと呼ばれるもので、これによりトルクステアが50%も減弱されている。トルクステアが完璧になくなったというわけではないのだが、ハードな加速をしても、タイヤが暴れてステアリングに手をとられることは確実に少なくなっている。

シャシ性能が高く、グリップも良く、車との一体感も掴みやすいため、パワー全てをしっかりと使い切ることができる。アジャスタブルダンパーは+Rモードにすると明らかに硬くなるのだが、それでも走り味は悪くならない。舗装が悪い道だと少し跳ね気味になってしまうのは確かなのだが、そんな道でもちゃんと車をコントロール下に収めることができる。

タイプRはクルージングのための車ではないのだが、ノーマルモードにすると乗り心地は驚くほど良い。スポーティーなバケットシートはサポート性が高いが、快適性も高く、完璧なドライビングポジションをとることができる。

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Bluetooth接続機能、キーレスエントリー、クルーズコントロール、オートエアコン、リアパーキングセンサー、ホンダコネクトマルチメディアシステムなど、標準装備は豊富だ。ダッシュボードの並びは完璧とは言えないものの、大きな問題もない。

2万9,995ポンドという価格は一部の競合車よりも高くつくが、2,300ポンド追加でGTパックを選ぶこともできる。これには、カーナビのほか、ブラインドスポット警報、前方衝突警報、車線逸脱警報、クロストラフィックアラートなどの安全装備が含まれている。

いずれにしても、この車は非常に実用性が高い。巨大なリアウイングを付けているにもかかわらず視界は良いし、リアシートも広いし、マジックシートという工夫のおかげで荷室スペースは広く取ることができる。リアシート利用時で荷室容量は498Lだが、リアシートを畳むと容量は1,427Lまで拡大する。

それだけ実用性が高い上に、経済性も十分だ。燃費性能やCO2排出量についてはまだ正式には発表されていないものの、予測値は燃費が16.5km/L、CO2排出量が170g/kmとなり、これはルノースポール・メガーヌよりも4g/km優れている。

筋肉質なデザインも実用性には影響しておらず、むしろベントなどがうまく配置されたおかげで空気抵抗が抑えられ、パフォーマンスや経済性が向上している。それに、フロントスプリッターやほぼフラットなアンダーフロア、リアディフューザー、大型ウイングのおかげでかなりのダウンフォースが生まれ、高速旋回時のグリップやバランスが向上しているそうだ。

結局、新型シビックタイプRからはかつてあったような高回転志向の楽しいキャラクターが失われてしまっているものの、パフォーマンスや実用性は大幅に向上している。しかし、エンジン、シャシ、それに広大な室内をもたらす効率的パッケージングのすべてを考慮しても、他のライバルと比べるとあと一歩足りない。

新型タイプRは高価だし、スリルやフィーリングの面でルノースポール・メガーヌには敵わない。


New Honda Civic Type R 2015 review