イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2009年に書かれたフォード・フレックス 3.5 EcoBoost AWDのレビューです。


Flex

休暇とはえてしてうまく過ごせないものだ。例えば、もしイギリスで365日雲ひとつない青空が広がっていたとしたら、誰もがビーチで一日を過ごして誰も仕事をしなくなってしまうことだろう。するとイギリス人は皆オーストラリア人になってしまい、海老くらいしか誇れることのない国になってしまうことだろう。

外国に休暇を過ごすための別荘を買っても駄目だ。以前にデイジー・ウォーが指摘したように、どれほど現地語をうまく話せようと、いざプールが壊れて現地の金物屋に行くと、ペンチを現地語で何と言うか分からずに困り果ててしまう。

ジャンプリード (jump leads) をフランス語で何と言うか知っている人がいるだろうか。私の友人は、カンヌの雑貨屋で吠える真似をして30分間犬を演じた。そして彼はジャンプをしながら自分の首を指さして「リード」という言葉を伝えようとした。実に想像力に富んだ行動なのだが、これは間違いだ。ジャンプリードはフランス語ではバッテリーコネクター (batterie connecteur) という。もしジャンプリードを求めて隣人の家に行き、犬の真似などしようものなら、頭がおかしいと思われてしまうだろう。

それにビールも問題だ。1984年に中国に行ったのだが、そこはいつも気温が50℃で雨が降っていた。そのため、喉が非常に乾いてしまい、一日の大半を青島という中国のビールを飲んで過ごした。これは美味しく、とても気に入った。しかし、イギリスに戻って青島を飲んでみると、本当は薄めたネズミの小便と同じ味だったことに気付いた。

それに、レンタカーもある。ヨーロッパのレンタカーは酷いので問題ない。嘔吐物の臭いが漂うディーゼルエンジンのルノー・セニックを寄越され、別荘までの山道を登ることができずに懲りてしまう。スペインやフランスでレンタカーに使われているような車など誰も欲しがったりはしない。

しかしアメリカは違う。かつて、ベガスでコルベットを借りたことがあるのだが、乗りながら是非とも愛車にしたいと考えるようになった。他にはマスタングもある。確かにこの車はリアサスがライブアクスルだし、5L V8エンジンのパワーはルクセンブルクの牛乳販売量よりも少ない。しかしそれでも、ディーラーに行ってこの車を注文してしまいたいと毎晩思い悩んだ。

しかし今年はマスタングを借りなかった。先日行ったカナダではフォード・フレックスを借りたのだが、この経験からある考えが浮かんできた。

interior

アメリカ車では普通なのだが、フレックスはステアリングの一部が木目になっていた。これはアン・ハサウェイのコテージにいるような気分に浸るためのものだ。アメリカ人はアン・ハサウェイのコテージが大好きだ。そこから生きている実感を得ることができる。それに、木目(ただ、ここで言う木目は見たところからしてハリボテだ)はダッシュボードにも広がっていたし、シートはキルトされていた。ただ、これを縫ったのは親指が10本ある盲人だろう。

それに、ドアは巨大で、サイドシルまで一緒に開くようになっている。つまり、横に縁石などがあればドアを開くことはできない。

4WDにも同じような問題がある。この車は、バラク・オバマに脅威であると思われないようにローライダー風にデザインされている。それはいいのだが、荒れた道を走ろうとすれば車体の底を擦ってしまうことになる。

それに、操作系は酷い。他の大半のアメリカ車同様、操作系はまるで2.50ポンドの廉価品のようだ。結局、内装の作りや装備内容はノースダコタのモーテルと変わらず、居場所としては最悪だ。それに、iPodを繋げることはできるのだが、トラックやプレイリストを選択することはできない。

しかし、こんな欠点もヘッドレストのおかげで忘れ去ることができる。これは1990年代のアストンマーティン・ヴァンテージのヘッドレスト同様、まさしく"ヘッドレスト"だ。これは衝突時に髪を守るための安全装備ではない。長距離を走る中で、頭部を休めることのできる場所だ。

走りは快適志向だ。試乗したフレックスにはスポーティーなサスペンションが付いていたのだが、クルージングしているとそんなことには一切気付かず、時折眠りについてしまう。しかし、小さなくぼみに乗り上げると、米国フォードの不器用なシャシ部門がこの車にスポーティーさを加えようとしたことに気付く。そして、まるで撃たれたかのような衝撃が走る。そのたびに起こされるので、非常に不快だった。

つまり、この車は技術的に遅れている。リアに書かれたEcoBoostというバッジに騙されてはいけない。この文字からはどこか先進的な雰囲気を感じるかもしれないが、実際は違う。これは、V8の代わりに360PSの3.5L ツインターボV6エンジンが搭載され、0-100km/hを7秒でこなすことを意味している。つまり、EcoBoostとはリアに付いているただのバッジであり、それ以上の意味はない。

にもかかわらず、私はこの車がイギリスにおける学校の送り迎えに最適な車だと感じた。それは一体何故なのだろうか。

rear

答えは単純だ。この車は7人とその荷物と犬を乗せることができる。しかも、その犬が世界最大のウルフハウンドであっても大丈夫だ。

この車は外から見ればさほど大きく見えないし、運転していても大きさを感じることはないのだが、この車以上に7人がゆとりを持って乗れる車は存在しない。子供同士の距離が15cm以内になると喧嘩が始まってしまうような家庭にはぴったりの車だ。別の言い方をすれば、子供のいる家庭にぴったりの車だ。

フレックスはミニに似ている。見た目は生意気で、ルーフは白く、ユマ・サーマンがつけている腕時計のように過剰な装飾がうまい具合に散りばめられている。しかし、室内には持ち物全てを詰め込むことができる。

どうしてそんなことが実現できたのかは分かりづらいのだが、私はそれを解明した。アメリカ(ここにはカナダも含む)では感覚が変わってしまう。道路の幅は一見するとイギリスと変わらないように見えるのだが、実際は違う。よっぽど幅が広い。ウォルマートの駐車場にも同じことが言える。

アメリカでは、白線の間でフレックスを走らせるのは簡単なので、イギリスに戻っても同じように運転できると勘違いしてしまう。ウォルマートもグローバル展開しており、あらゆる部分が統一化されているので、駐車スペースも一緒だと勘違いしてしまう。しかし実際は違う。チッピングノートンの駐車場にフレックスを停めるのは、バックラーズ・ハードにニミッツ級航空母艦を収めようとするのと変わらないだろう。つまり、この車がボルボ・XC90よりも広いのは、実際にボルボ・XC90よりも巨大だからだ。

そうなると、話の筋が狂ってしまう。この車には何もない。駐車する場所を探すのは大変だし、そもそも駐車できるスペースがないため、たとえ空いていたとしてもしぶしぶG-Wizに譲る羽目になってしまう。

なので、この車をわざわざ輸入する必要はない。女の子が旅行中、一夜を共に過ごしたチュニジアのウェイターをイギリスに連れて来ないのと同じだ。


Ford Flex 3.5L EcoBoost AWD