LDVはもともとイギリスの商用車メーカーであり、中国の自動車メーカーグループ上海汽車 (SAIC) により買収され、同社のバン部門となりました。

今回は、豪州「Car Advice」によるLDVのバン「G10」の試乗レポートを日本語で紹介します。


G10

LDV G10は中国製のバンで、価格は安いが、このような車は特に商用車ではそこそこ見られる。しかし、中国製で安い車といえば、大抵の場合、中身は最悪だ。

しかし、これまでに登場してきた他の大半の中国製の車とは違い、上海汽車が製造する価格わずか2万9,990豪ドルのLDV G10は、まったくのゴミ車とは言えないし、外見からしても何かのコピー車というわけでもなさそうだ。

事実、この車を最初に見た時のデザインに対する印象は非常に良かった。これまでの大抵の中国車とは違い、整っていて、シャープで、不細工には見えない。それに、運転席に乗り込んでも、インテリアデザインに関する印象はエクステリア同様に良かった。

しかし、操作系には既視感もある。例えば、ウインカーレバーはゼネラル・モーターズのパーツをそのまま使っているかのようだし、ツートンカラーのダッシュボードはキア・カーニバルにそっくりだ(現行カーニバルと旧型カーニバルをミックスしたようだ)。

ダッシュボードはクリーンで整っており、最上部には7.0インチのタッチスクリーンメディアシステムが付いていて、スイッチ類やダッシュボードの材質の質感はクラスの中で競争力のあるものに仕上がっている。タッチスクリーンはちゃんと反応するし、ディスプレイの画質も良い。

interior

ステアリングはテレスコピック調節ができないし、オーディオやクルーズコントロールの操作スイッチは夜間でも光らないが、シートポジションは十分良いと言えるし、調節幅も十分にあり、どんな体型の人でも比較的簡単に自分に合ったポジションをとることができるだろう。スピードメーターはデジタル式のため、計器類も読みやすいし、タイヤ空気圧計まで付いている。

助手席は1座で、ベンチシートを選択することも、前席3人乗りにすることもできない。

収納スペースは豊富で、ドアポケットは大容量だし、運転席と助手席の間には大型の収納トレーが付いていて、また下の方にはカップホルダーがうまく隠されている。しかし、競合モデルの多くが備えているようなダッシュボード上部の収納スペースは存在しない。ただ、サングラスを収納する場所は2箇所もある(ルームミラーの上に1つと、本来なら運転席側の手すりがある部分に1つ配されている)。

運転席からの視界は良い。着座位置は高いし、ミラーのおかげで側方もよく見通すことができる。ただ、パネルバンなのでリアサイドの窓は付いておらず、その点は厄介だった。

かつての中国車は安全性に重きを置いていなかったものの、LDV G10にはデュアルフロントエアバッグやスタビリティコントロールが標準装備されている。ただ、サイドエアバッグは設定されておらず、その点は残念だ。メルセデス・ベンツ ヴィトーやルノー・トラフィックにはちゃんとオプション設定されているし、フォード・トランジットにはフロントサイド・カーテンエアバッグが標準装備だ。

しかし、リアビューカメラやパーキングセンサーを標準装備した点は評価できる。この点では、ルノーやメルセデス、フォードに勝っている。

ボディサイズ的には前述の3台のライバルとなるほか、トヨタ・ハイエースやヒュンダイ・iLoad、フォルクスワーゲン・トランスポーターとも競合する。全長は5,168mm、全幅は1,980mm、全高は1,928mmで、ホイールベースは3,198mmだ。

荷室も広く、貨物スペース容量は5,200Lで、荷室長は2,365mm、荷室幅は1,235mm、荷室高は1,270mmと十分競争力のある数字だ。荷室と前席を隔てるバルクヘッドは標準装備ではないが(ヴィトーも同じだ)、オプションで装備することはできる。

メーカーによると、荷室には一般的なパレット(オーストラリアの標準パレットサイズは1,165mm x 1,165mm)を2つ並べて収容できるそうだが、リアドアは観音開きではなく上ヒンジのハッチなので、フォークリフトでパレットを積むのは実質的に不可能だ。ひょっとしたら、これがこの車最大の問題点かもしれない。それに、観音開きドアはオプションでも選択することはできない。

しかし、サイドドアは標準で左右両側スライドドアだし、開口部は広大だ。このため、荷室へのアクセス性も高いし、フロアには6箇所に貨物用の固定具が付いており、ホイールアーチの部分にも4箇所にフックが付いている。また、最大積載量は1,093kgで、この数字も十分競争力がある。

rear

要するに、この車は日常的な配送業務にはあまり向かないかもしれないが、配管業業者や画家、電気工事業者、造園業者などには良き相棒になることだろう。

搭載されるパワーソースは、このクラスとしては珍しくガソリンターボエンジンだ。2.0L 4気筒ガソリンターボエンジンは最高出力224PS、最大トルク33.7kgf·mを発揮する。この出力はガソリンエンジンを載せるバンとしては大きい部類に入る。トランスミッションはご存知ZFがサプライヤーの6速ATのみが設定される。

他のガソリンモデルのバンには、ヒュンダイ・iLoad(2.4L NA, 175PS/23.2kgf·m, MTのみの設定)やトヨタ・ハイエース(2.7L NA, 160PS/24.8kgf·m, MT/AT)などがあるが、どれもG10にはパワーで敵わない。

しかし、その代償として、燃費は上述の競合車よりも悪い。G10のカタログ燃費は8.5km/Lで、一方ハイエースは10.2km/L、iLoadは9.9km/Lだ。ただ、少なくともカタログ燃費は試乗時の実燃費に近く、実測値は高速・一般道どちらも走行して8.7km/Lを記録した。ただし、推奨燃料は95RONのハイオクガソリンだ。

ちなみに、トラフィックやトランジット、トランスポーターはディーゼルエンジンしか設定されておらず、中でもフォードとルノーはMTのみの設定となる。

LDVによると、この車は後輪駆動で(フォルクスワーゲンやフォードのバンとの相違点だ)、十分なパワーとスムーズなギアチェンジ、十分なステアリングレスポンスを兼ね備えているという。それは事実だ。

エンジンは元気がよく、スムーズに回り、スロットルに対する応答性も早く、多くの場面で速く走ることができる。1,907kgという車重に枷を感じることもない。

6速ATも走りの良さに大きく貢献している。トランスミッションはスムーズで基本的に動作も早く、ギアをホールドしたいような場面でも大抵の場合は意に沿ってくれる。時折、シフトダウンして1,400-2,000rpmの一番良い回転域に持って行きたいと思うことはあったものの、必要とあればマニュアルモードにして自分で変速することもできる。

それに、乗り心地も実に良い。こういったタイプの他のバンの多くと同じように乗り心地が良く、サスペンションは小さな衝撃はうまくいなすし、スピードバンプの衝撃も即座に抑え込んでくれる。

乗り心地の良さの理由の1つとしては、G10にはミニバンモデルも存在し、バンもそれと足回りを共有していることにある。そのため、このクラスのバンの大半はリアサスペンションにリーフスプリングを使っている一方で、G10のリアサスペンションには5リンクコイルスプリングが採用されている。

油圧パワーステアリングは低速域では理想よりも重く、駐車場内での操作は大変だが、速度に乗ってしまえばレスポンスは良い。

ブレーキは四輪ディスクのため制動力が問題になることもないし、ペダルのレスポンスも十分だ。

荷室とコックピットを隔てるバルクヘッドが付いておらず、高速道路ではやかましいのだが、フロアやルーフにはライニングが施されているため、それほど酷いわけではない。また、横風にはどうしても揺られてしまう。この点では、ヴィトーには先進的なクロスウインドアシストの付いたスタビリティコントロールが付いているため、横風に大きく揺られることはない。

この車は上海汽車のバン部門が生み出した驚異的な車だ。確かに価格は安いし、中国製であることに変わりはないのだが、かつての中国車のような出来の悪さはなく、使いやすくて快適で、検討する価値のある車に仕上がっている。


LDV G10 Review