イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、1999年に書かれた1996年式トヨタ・ランドクルーザーのレビューです。


LandCruiser

クライスラー・ボイジャーはまるでハロウィンの化け物だ。刃物で刺し、銃で撃ち、窓から追い出すことができても、6ヶ月もすると再び舞い戻ってくる。

1997年には、ブレア首相と口の大きな蛙たちがボイジャーで子どもたちを送迎しているという話が広まった。しかし、ブレアが戦犯であるということを知りながらも、多くの人はボイジャーを買うのをやめなかった。

昨年には、ボイジャーがイギリスで最も環境に悪い車に選出された。それに、6ヶ月前、私はヴォクスホール・ベクトラがある栄誉を他の車に譲ったと書いた。「現在購入することのできる最悪の車」の称号だ。その称号はクライスラー・ボイジャーへと渡った。それくらい私はこの車が嫌いだ。

にもかかわらず、ボイジャーを買おうとする客の列はディーラーの外まで伸び、店の敷地を外れてスーパーの敷地にまで続いている。

しかし先週、ようやく変化の時が来たように思えた。政府が後援する公式の衝突安全性試験でボイジャーは最低の評価を獲得した。60km/h前突ではステアリングコラムがドライバーの頭に突っ込み、足元空間が見事に裂けた。得点は0点だった。この車はピープル・キャリアーと言うよりむしろピープル・キラーと言った方がいいだろう。

きっと、もうボイジャーが道を走ることはなくなるだろうと思った。もう化け物を前に刃物を突き立てる必要もないだろう。もう死んでしまったのだから。

しかし現実はそうではなかった。先日、ボイジャーのオーナーと話したのだが、死ぬのはドライバー1人だけで、後部座席に座る子供たちは無事なのだから、ボイジャーを手放すつもりはないそうだ。

これほどまでの狂気は他に類を見ないのではないだろうか。この車はドライバーも、その家族も、地球も殺す。快適性も低いし、見た目も酷い。それに、ブレア首相の愛車だ。にもかかわらず、ミニバンの中で2番目に売れる車であり続けている。

もちろん、子供が4人いる人なら、代わりになる車など存在しないし、ミニバンなんてトヨタ・ピクニック以外はどれも安全じゃないし、ピクニックなんて車なんか絶対に乗り回したくないと反論することだろう。それはどうしようもなく正論だ。

しかし、私はつい最近、8人乗りで、60km/hで家に突っ込んでも乗員が傷ひとつ負わない車を購入した。

その車こそ、トヨタ・ランドクルーザーだ。この車はあまりに巨大ゆえ、リアに乗せた犬がもし死んだとしても、運転席にその臭いが届くのはきっと3ヶ月後だ。先日、巨大なオフロードカーが普通乗用車と衝突する場面を見たのだが、実に衝撃的だった。オフロードカーは何事もないように普通車のボンネットに乗り上がり、屋根をむしり取って乗員全員の首を切断した。

ニュースのコメンテーターはこの場面を見ながら、オフロードカーなど危険だから皆ゴルフを買うべきだと主張していた。しかし私は、ソファの上で飛び跳ねながら「オフロードカーを買わないと」と叫んだ。私は買うことのできる中で一番巨大なオフロードカーが欲しいと思った。世の中には、ランドローバーUZIやショーグン(日本名: パジェロ)AK-47に乗っている人間もいる。ならば、私はトヨタ榴弾砲を購入しなければならない。

ランドクルーザーは新車だと4万4,000ポンドするのだが、私は1996年式の走行距離5万kmの中古車を購入した。価格は2万2,000ポンドで、保証は付けなかった。アデレードからダーウィンまでを走破するために設計された車なら、学校の送り迎え程度でどうこうなることはないだろう。

戦車を例外とすれば、ランドクルーザーは子供を乗せる車としては、最も安全で、最も信頼できる車だ。おかげで安心できるし、母親にもなれそうな気さえする。ケーキを焼いたり掃除機をかけたりしてもいいくらいだ。

しかし、それには代償もある。一番の代償はランニングコストの高さだ。学校までの距離は29kmあるため、1日2往復で合計116km走らなければならないのだが、この結果、1週間でガソリン代が150ポンドかかってしまう。もしこの車で近所まで新聞を買いに出かけたとすれば、新聞に50ペンス、ガソリンに60ペンス、歯科治療に400ポンドかかってしまう。

ナラボー平原を走り抜けるためには硬いサスペンションが必要だが、A44を走るためにはそんなものは必要ない。ランドクルーザーはまるでサンドペーパーでできたスーツのようだ。エアコンやレザーシートが備わり、一見すると快適な車のようなのだが、ごく小さな路面の凹凸を乗り越えただけで絆創膏が必要になってしまう。

この車はあまりに乗り心地が悪く、それに燃費が悪いため、この車を運転したいとは思わなくなってしまった。しかも困ったことに妻も同じことを思ったようで、この車は醜くて巨大なグレーの箱だと言って、近付くことさえ嫌がった。

先週、妻は自分のBMW Z1で4歳の子供を学校に送った。この車にはまともなドアすら付いておらず、クリネックスと同等の防御力しかない。

その後、昨日は近所の人がやってきて、子供を一緒に送ってあげようかと申し出てくれたので、私はおやつを与えられた犬のように喜んでお願いした。

さて、彼女は一体何に乗っていただろうか。そう、クライスラー・ボイジャーだ。


20 years of Clarkson: Toyota Land Cruiser Amazon (1999)