イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2012年に書かれたミニ クーパーS ロードスターのレビューです。


Cooper S Roadster

背の高い人は、エコノミークラスのシートに乗るときや既成品のズボンを購入するときにしか自分の身長の高さを自覚することはない。しかし、背の低い人は違う。彼らはいつでも身長のことを考えている。私のような背の高い人間は、身長の低い人間を貶すためにわざわざ身長を伸ばしているものだと考えている。これが医学的に言うところのナポレオンコンプレックスであり、一般的に言うところの癇癪持ちだ。

パーティーでは頭をコーヒーテーブルにぶつけ、疎外感を覚える。満員電車に乗ると、自分がいじめられているかのように感じる。女の子と一緒にいると、置いて行かれてしまったかのように感じる。服を買おうとするたびに子供服コーナーに誘導されることにうんざりしてしまう。バーで喧嘩をしているような人間が大抵上下方向に不足しているのはこれが理由だ。

進化論的には、身長の低い人々はアメーバに近く、一方で身長の高い人は文明の先頭に立っている。しかし、私は常日頃からこんなことを考えているわけではない。頭部が天に近いというだけの理由で背の低い人に対して優越感を抱いてなどいない。しかし、背の低い人は常に劣等感を抱いている。それゆえ、背の低い人々は常に苛立ち、自らの優位性を示そうとしている。

犬にも同じことが言える。私の愛犬のウエストハイランドテリアはいつも怒っている。レンジローバーに自力で登ることも、フェンスを飛び越えることもできず、それゆえに郵便配達員や新聞配達員やコンピュータを修理しに来た人に噛み付く。私が飼っている他の犬にも噛み尽くし、最近牛乳配達員を見ないので、ひょっとしたら彼は犬に食べられてしまったのかもしれない。それに足の短さを補おうとするかのようによく吠えもする。

それに、リチャード・ハモンドについての話もしなければならない。彼は先日、フィアット・500に乗っている時に他のドライバーに嫌がらせをされ続けたと語っていた。左側から追い越され、ベタ付けで煽られ、合流では普段以上に道を譲ってもらえなかったそうだ。背の高い男であるところの私は溜息をつきながら思った。「それは車の問題じゃなく、君の劣等感のせいだろう。」

しかし、ミニロードスターとともに1週間を過ごし、彼の言い分にも一理あるのではないかと思うようになった。小型車は嫌がらせをされる。実際とは違うもののふりをしている小型車は特にそうだ。

私の末娘は非常に背が高いのだが、彼女は試乗車としてやってきたミニを見て「これじゃあミニじゃない、ミニなんておかしい」と言った。運転中、娘のその言葉が思い出された。それに、ミニロードスターはミニのもともとのコンセプトの対極のものであり、なおのことおかしい。もともとのミニのコンセプトは、わずか3mのボディにエンジンと4人の人間を詰め込むという効率的なパッケージングにあった。その後、ラリーやミニミニ大作戦が生まれた。ところが、新型ミニロードスターは全長がノルウェーの海岸線くらい長いにもかかわらず、2人しか乗ることができない。効率的なパッケージングとは真逆だ。

当然、この車はスポーツカーだと考える人もいるだろう。しかし、たとえストライプが付いていようと、大径ホイールを履いていようと、マツダ・MX-5(日本名: ロードスター)のようなスポーツカーとは似ても似つかない。見た目はミニにほかならない。首を切られたミニだ。

インテリアもミニと変わらない。発売当初はミニのインテリアも新鮮に見えた。けれど、今や使いづらいインテリアだとしか言えない。例えば、スピードメーターはエリック・ピックルズの顔と同じくらい大きいにもかかわらず、今どれだけの速さで走っているのかを知るためには数分間凝視しなければならない。それに、パワーウインドウスイッチは見た目はいいものの場所がおかしい。オーディオのボリュームコントロールも同じだ。まるで100人の子供に意見を出させ、それを吟味もせず全て採用したかのようだ。

それに値段も問題だ。今回試乗したクーパーSは2万905ポンドだった。これは、より実用的で見た目もまともな4シーターのコンバーチブルよりも500ポンド近く高い。それに、ミニの本来あるべき価格よりも5,000ポンドは高い。道を走る他のドライバーも無意識的にこれを理解しているからこそ、試乗期間中ずっといじめられ続けたのだろう。おかげでリチャード・ハモンドになったかのような気分だった。

何より、この車の最大の問題は、上述のような種々の欠点があるにもかかわらず、車自体は非常に優秀だという点だ。困ったことにこの車は非常に素晴らしい。プラスティックと韓国製の模造品に紛れ込んだ本物の宝石だ。私はこの車が大好きだ。

圧倒的に素晴らしいのがエンジンだ。1.6Lターボエンジンは184PSを発揮するが、この数字だけを見れば世界最高のエンジンとは到底思えない。しかし、ターボラグはかろうじて感じ取れる程度しかないし、トルクは莫大だ。ボンネットの下には永遠に疲労することのない筋肉が詰まっているかのようだ。

現実的な唯一の問題は高速道路での走りだ。これは他のどのミニにも言えるのだが、自然なクルージングスピードは180km/hになる。着座位置やアクセルペダルの角度、ギア比、乗り心地などを総合して、漫然と運転していると自然とこの速度になってしまう。つまり、この車で高速を走るためには、常に気を付けるか、そもそも高速に乗らないかしかない。しかし、高速に乗らないというのも良い手だ。この車は大パワーFF車なので当然トルクステアも生じるのだが、シャシは素晴らしい。フォルクスワーゲン・ゴルフGTIやプジョー・205 GTiのような昔ながらのホットハッチのようだ。どんなスピードでコーナーに進入してもいい車だ。

ハンドリングが優れている上に、屋根がないのだから、補強のために乗り心地は相当に悪くなっているはずだと思う人もいることだろう。しかし違う。確かにこの車は硬いのだが、最悪な路面状況でも暴れまわったり振動したりすることはない。快適性を失うことはない。この車は楽しい。それに、さほど燃費が悪いわけでもない。

オープン状態で走るといかに素晴らしいかということも書きたかったのだが、残念ながらそれは叶わない。試乗期間である7日間は一瞬たりとも止むことなく雨が降り続けた。ただ少なくとも、ルーフは半自動であり、一部の操作には自分の手を使わなければならないとは言える。それに、荷室は想像以上に広い。

最後に、最も意外なことを書いて終わりにしよう。この車は真剣に購入を検討する価値のある車だ。この車はマツダ・MX-5ほどにバランスがいいわけではないが、MX-5よりも速いし、より魂が感じられる。この車は多くの点でリチャード・ハモンドに似ている。小さいし、鬱陶しいし、間抜けな服を着ている。けれど、知れば知るほどに良い笑いを提供してくれる。


The Clarkson review: Mini Cooper S roadster (2012)