イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
今回紹介するのは、2003年に書かれたダイハツ・テリオスのレビューです。

ダイハツ・テリオスを近くで見ると、まるで普通のSUVを15m離れたところから見ているようだ。普通のSUVと同じようにがっしりとしたボディスタイルで、同じように地上高も高いのだが、何もかもが小さい。例えばアンテナを見ると、ラジコンのアンテナなのではないかとさえ思ってしまう。それに、ボンネットを開けると、その中にあるのは3.1Lエンジンではなく1.3Lエンジンだ。
特に小さいのが値段だ。今回試乗した「スポーツ」にはABSやパワーウインドウやエアコンも付いているにもかかわらず、価格は1万2,000ポンドを切る。ベースグレードの「トラッカー」はわずか9,995ポンドだ。今世紀のお買い得品としては、マクドナルドに比肩する。
燃料を満タンにするためには30ポンドもかからないし、5秒もあれば満タンにできる。この車は、X5やランドクルーザーといったガリバーの住むリリパットへと連れて行ってくれる。そして、狩りをすることもできる。
この車で行った狩りは今までで一番楽しかった。その理由は、鳥でも景色でも一緒に行った人でもなく、酒だった。
普通の狩りでは、誰もが近くのランドローバーのところに集い、ソーセージを食べたりウォッカやシェリーをスープにちょっと投入したりする。しかし、今回の狩りでは、それがまるで映画『カクテル』でのトム・クルーズとブライアン・ブラウンのアウトドアバージョンのようだった。
例えば、タルトマティーニというマティーニの代用品がある。これはジンとシェリーのミックスであり、酷いものだった。けれど、スロー・ジンやウイスキー、オックステールスープも混ぜてしまえば、そんなことはどうでも良くなった。それを少し飲んだのだが、ほとんど味が理解できなかった。まるでわさびかホースラディッシュのようで、口直しにビールを飲まなければならなかった。
この時点でもう私は自分の名前すら忘れ、その後でキングスジンジャー・リキュールとやらを貰った。朦朧とする意識でボトルを見ると、この酒はオランダでロンドンのベリー・ブラザーズ&ラッドのために特別に作られたものらしい。
これがまた良かった。熱々の蜂蜜を喉に流し込まれながら、体中の血液がホットロバミルクとペチジンのカクテルに入れ替わっていくような感覚だった。それを1杯か2杯、いや5杯だったかな、飲むと誰もが親友になり、私は狩猟番に深い親愛の情を示した。
しかし一番興味深かったのは酒の後ろのラベルに書かれていたことだった。この酒はエドワードVII世の統治下に、王家の医師の要望で、王がまだ出来たばかりの自動車で外出をする際に体を温められるようにと誕生したそうだ。
別の言い方をすれば、これは医師が車を運転するお供として特注した酒だ。しかし、数杯飲むと、何をするのも難しくなってしまう。実際、これを飲んだ後は射撃など到底できたものではなかった。酔っ払ってしまって運転すらできる状況ではなかった。これは別にテリオスの問題ではなかった。
スポイラーはもはやスポイラーとは言えない。酔った時に車を家に持って帰るための取っ手だ。
ともかく、この車の走破性は高く、スタックすることもなかった。当然、今夏は雨が多く、ぬかるんだ道ではどうなるか分からないが、少なくとも轍のできたような道を走り抜けるのに十分なだけの地上高はあるし、1回もセンターディファレンシャルをロックする必要に駆られることはなかった。
それに、荷室は撃ち殺した鳥(2羽だけだが)を収納するのに十分だったし、銃をしまうのに十分なだけの幅もあった。つまりこの車は、農場の車として、田舎の足として最適だ。
しかし、それ以外の点ではいくらか欠点もある。まず、この車は三輪車以上に小さく、街中を走るにも適していそうに思えるのだが、リアにはシートベルトが2つしかなく、子供が3人いると使いものにならない。
それに、運転しやすい車でもない。カタログには0-100km/h加速が12秒そこそこと書かれているのだが、これは信じがたい。このエンジンはトヨタ・ヤリス(日本名: ヴィッツ)に搭載されているものと同じエンジンなのかもしれないが、4,000rpmを超えた時の音は痛々しい。5,000rpmに至る前に機械に対する同情でいたたまれなくなってしまう。
最高速度は145km/hらしいが、それも信じがたい。物凄く長い助走距離があればひょっとしたら145km/h出せるのかもしれないが、現実の道路では、どんなに長い下り坂でも130km/h出せるかどうかだ。
それに、スピードバンプは避けたいと思うようになる。乗り越えた時の衝撃は名状しがたい。骨のない人間を想像してみて欲しい。この車の挙動はそれくらいに異常だ。
最初、この車の足回りが柔らかすぎることが問題なのだと思ったのだが、尖りのきついスピードバンプに乗り上げると、なんてこった…。せいぜい25km/hくらいのスピードだったのだが、柔らかさが問題ではなかったということは理解できた。歯にも衝撃がしっかり伝わってきた。
つまりこの車は、農業用品としては使えるかもしれないが、狭いし、遅いし、快適性も欠如しているしで街乗りには到底使えない。
それだけではない。何年も前に私は日本で行われたダイハツの試乗会に赴き、シャレードをぶつけてフロントを潰して台無しにしてしまったことがある。しかしそれでも、ダイハツの担当者は怒ることもなかった。私が謝ると、彼はこう言った。「そう気に病まないでください。我々は23秒に1台車を作っているんですから。」
その時からずっと、ダイハツは車を愛するがゆえに車を作っているわけではなかった。ダイハツはただ金を稼ぐために車を作っている。これは残念ながらホンダを例外として日本のメーカーすべてに言えることで、それゆえに日本車は魂が抜けている。
けれど、テリオスからは魂が感じられる。この車は女性が言うところの「可愛い」車であり、私もそう思う。くりっとした目をしていて可愛らしく、欠点さえも学芸会の拙い劇のようで許せてしまう。冬の寒い日にはテリオスを家の中に入れて温めてやりたいとすら考えることだろう。これは好きにならずにはいられない車だ。
この車は恰好良くはない。先進的でもない。実用的でもない。欠点はたくさんある。けれど、それは私の愛犬と同じだ。鳥が鳴けば吠え、ロバのうんちを咥え、しっぽを机の脚にぶつけて眼鏡を落とし、金はかかり、客人を舐め、土の付いた足で家に入ってくる。それに、私の愛犬はエホバの証人が大好きだ。それでも私は、自分の愛犬はかけがえのない存在だと思っている。
テリオスも同じだ。この車は酔っ払ってでもいなければ買う気にすらならないだろう。けれど、それを後悔することはきっとないだろう。
Daihatsu Terios
今回紹介するのは、2003年に書かれたダイハツ・テリオスのレビューです。

ダイハツ・テリオスを近くで見ると、まるで普通のSUVを15m離れたところから見ているようだ。普通のSUVと同じようにがっしりとしたボディスタイルで、同じように地上高も高いのだが、何もかもが小さい。例えばアンテナを見ると、ラジコンのアンテナなのではないかとさえ思ってしまう。それに、ボンネットを開けると、その中にあるのは3.1Lエンジンではなく1.3Lエンジンだ。
特に小さいのが値段だ。今回試乗した「スポーツ」にはABSやパワーウインドウやエアコンも付いているにもかかわらず、価格は1万2,000ポンドを切る。ベースグレードの「トラッカー」はわずか9,995ポンドだ。今世紀のお買い得品としては、マクドナルドに比肩する。
燃料を満タンにするためには30ポンドもかからないし、5秒もあれば満タンにできる。この車は、X5やランドクルーザーといったガリバーの住むリリパットへと連れて行ってくれる。そして、狩りをすることもできる。
この車で行った狩りは今までで一番楽しかった。その理由は、鳥でも景色でも一緒に行った人でもなく、酒だった。
普通の狩りでは、誰もが近くのランドローバーのところに集い、ソーセージを食べたりウォッカやシェリーをスープにちょっと投入したりする。しかし、今回の狩りでは、それがまるで映画『カクテル』でのトム・クルーズとブライアン・ブラウンのアウトドアバージョンのようだった。
例えば、タルトマティーニというマティーニの代用品がある。これはジンとシェリーのミックスであり、酷いものだった。けれど、スロー・ジンやウイスキー、オックステールスープも混ぜてしまえば、そんなことはどうでも良くなった。それを少し飲んだのだが、ほとんど味が理解できなかった。まるでわさびかホースラディッシュのようで、口直しにビールを飲まなければならなかった。
この時点でもう私は自分の名前すら忘れ、その後でキングスジンジャー・リキュールとやらを貰った。朦朧とする意識でボトルを見ると、この酒はオランダでロンドンのベリー・ブラザーズ&ラッドのために特別に作られたものらしい。
これがまた良かった。熱々の蜂蜜を喉に流し込まれながら、体中の血液がホットロバミルクとペチジンのカクテルに入れ替わっていくような感覚だった。それを1杯か2杯、いや5杯だったかな、飲むと誰もが親友になり、私は狩猟番に深い親愛の情を示した。
しかし一番興味深かったのは酒の後ろのラベルに書かれていたことだった。この酒はエドワードVII世の統治下に、王家の医師の要望で、王がまだ出来たばかりの自動車で外出をする際に体を温められるようにと誕生したそうだ。
別の言い方をすれば、これは医師が車を運転するお供として特注した酒だ。しかし、数杯飲むと、何をするのも難しくなってしまう。実際、これを飲んだ後は射撃など到底できたものではなかった。酔っ払ってしまって運転すらできる状況ではなかった。これは別にテリオスの問題ではなかった。
スポイラーはもはやスポイラーとは言えない。酔った時に車を家に持って帰るための取っ手だ。
ともかく、この車の走破性は高く、スタックすることもなかった。当然、今夏は雨が多く、ぬかるんだ道ではどうなるか分からないが、少なくとも轍のできたような道を走り抜けるのに十分なだけの地上高はあるし、1回もセンターディファレンシャルをロックする必要に駆られることはなかった。
それに、荷室は撃ち殺した鳥(2羽だけだが)を収納するのに十分だったし、銃をしまうのに十分なだけの幅もあった。つまりこの車は、農場の車として、田舎の足として最適だ。
しかし、それ以外の点ではいくらか欠点もある。まず、この車は三輪車以上に小さく、街中を走るにも適していそうに思えるのだが、リアにはシートベルトが2つしかなく、子供が3人いると使いものにならない。
それに、運転しやすい車でもない。カタログには0-100km/h加速が12秒そこそこと書かれているのだが、これは信じがたい。このエンジンはトヨタ・ヤリス(日本名: ヴィッツ)に搭載されているものと同じエンジンなのかもしれないが、4,000rpmを超えた時の音は痛々しい。5,000rpmに至る前に機械に対する同情でいたたまれなくなってしまう。
最高速度は145km/hらしいが、それも信じがたい。物凄く長い助走距離があればひょっとしたら145km/h出せるのかもしれないが、現実の道路では、どんなに長い下り坂でも130km/h出せるかどうかだ。
それに、スピードバンプは避けたいと思うようになる。乗り越えた時の衝撃は名状しがたい。骨のない人間を想像してみて欲しい。この車の挙動はそれくらいに異常だ。
最初、この車の足回りが柔らかすぎることが問題なのだと思ったのだが、尖りのきついスピードバンプに乗り上げると、なんてこった…。せいぜい25km/hくらいのスピードだったのだが、柔らかさが問題ではなかったということは理解できた。歯にも衝撃がしっかり伝わってきた。
つまりこの車は、農業用品としては使えるかもしれないが、狭いし、遅いし、快適性も欠如しているしで街乗りには到底使えない。
それだけではない。何年も前に私は日本で行われたダイハツの試乗会に赴き、シャレードをぶつけてフロントを潰して台無しにしてしまったことがある。しかしそれでも、ダイハツの担当者は怒ることもなかった。私が謝ると、彼はこう言った。「そう気に病まないでください。我々は23秒に1台車を作っているんですから。」
その時からずっと、ダイハツは車を愛するがゆえに車を作っているわけではなかった。ダイハツはただ金を稼ぐために車を作っている。これは残念ながらホンダを例外として日本のメーカーすべてに言えることで、それゆえに日本車は魂が抜けている。
けれど、テリオスからは魂が感じられる。この車は女性が言うところの「可愛い」車であり、私もそう思う。くりっとした目をしていて可愛らしく、欠点さえも学芸会の拙い劇のようで許せてしまう。冬の寒い日にはテリオスを家の中に入れて温めてやりたいとすら考えることだろう。これは好きにならずにはいられない車だ。
この車は恰好良くはない。先進的でもない。実用的でもない。欠点はたくさんある。けれど、それは私の愛犬と同じだ。鳥が鳴けば吠え、ロバのうんちを咥え、しっぽを机の脚にぶつけて眼鏡を落とし、金はかかり、客人を舐め、土の付いた足で家に入ってくる。それに、私の愛犬はエホバの証人が大好きだ。それでも私は、自分の愛犬はかけがえのない存在だと思っている。
テリオスも同じだ。この車は酔っ払ってでもいなければ買う気にすらならないだろう。けれど、それを後悔することはきっとないだろう。
Daihatsu Terios