イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2013年に書かれたランドローバー・レンジローバーLWB 5.0 V8 スーパーチャージドのレビューです。


Range Rover

都市に住むアメリカ人は、普通の服を着て、普通のセダンに乗って、普通の仕事をしに行く。しかしその普通という見せかけの裏側で、多くの人がピックアップトラックをガレージに所有し、クローゼットには毛羽立ったシャツをしまい、階段の下にはアサルトライフルを隠している。

それがなぜかと言えば、アメリカ人は最先端技術の恩恵にあずかりながらも、その核心には依然として大草原で狩猟をして暮らしていた頃の精神が宿っているからだ。

ペトロチェリーを知っているだろうか。彼は有能な弁護士なのだが、仕事が無い時には自分の家を自分で建てている。それから、ボビー・ユーイングもいる。彼は石油企業で働いており、メルセデス・SLに乗り、複雑な家庭環境の中で暮らしている。しかし、休日にはタータンシャツを着て自分でフェンスの修理をしている。アメリカ人はフェンスの修理が大好きだ。

当然、海を挟んでこちら側では状況が全く違ってくる。しかしどうだろうか。大抵の人はロンドンのレストランでコルクの匂いを嗅ぎ、ルッコラを注文することに人生の大半を費やしている。しかし冬になると、ツイードのショーツを穿いて、雨の中でヤマウズラが飛び立つのを待ち構え、銃で撃とうとして失敗しているのをよく見かける。

それに、映画『ベイブ』に出てきたような農場で作られた農産物が売られているというだけの理由で、明らかに割高な農産物を農場直売所で喜んで買っていく人もたくさんいる。こんな農産物を買うことで、どこかぼんやりと温かい気分になる。

可処分所得があったとしても、街中に大きな家を建てようなどとは誰も考えない。干し草を積んだ荷馬車が道を走るような田舎に家を買いたいと考えることだろう。

それを考えればきっと理解できることだろう。田舎の魅力は強大であり、それでレンジローバーの著しい人気は説明できる。この車には砂利道どころか深い水たまりの中も走れるようになるスイッチが付いている。これは「私は時々田舎に行く必要があるんだ」と主張する車だ。納税証明書の付いたツイードだ。ヘッドランプの付いたバブアーのジャケットだ。

それから、ステアリングヒーターも、助手席側から見るとテレビになるナビも、気分に応じて色を変えることのできる室内灯も、柔らかなヘッドレストも、衝突しそうになったら教えてくれる警告システムも、後席用マルチメディアシステムも、それに、現代の技術の許す限りのあらゆる先進装備も付いている。

レザーが散りばめられたソフトタッチな室内に乗り込めば、そこはまるでスーパーヨットの上部デッキのようで、田舎らしさなどどこかへ置いてきてしまったかのように感じられる。しかし、スイッチのおかげで田舎らしさは残されている。おかげで、南アメリカの熱帯雨林も、アルプス山脈も走り抜けることができる。これはジャーミンストリートのハンドクラフトの靴のような車でありながら、その中身はいまだにウェリントンブーツだ。

婉曲的な言い方はやめよう。新しいレンジローバーは車として最高の出来だ。驚くほどに燃費が良く、快適性も高く、高級感もあり、厳しい天候にも笑って対応することができる。サリーの大半を停電に陥れた嵐の中で運転したのだが、日曜の昼寝くらいリラックスして運転することができた。ラジオは「どうしてもという場合以外は極力外出を控えるように」とドライバーに警告していた。しかし、ランドローバーの高みからそれを聴いていると、その理由が全く理解できなかった。

しかし、今回試乗したロングホイールベースの新型レンジローバーには1つか2つほど問題があった。

rear

確かに、ホイールベースが延長されたおかげでリアのスペースはヒステリックなほどに広大になった。パーティーの送迎に使われるリムジンと同じくらい広大で、唯一違うのはリアシートに乗る人間が酔い潰れていないということだけだ。人を乗せればきっと喜ばれることだろう。

しかし、そこには払うべき代償がある。何よりもまず、払うべき代金がある。最上級グレードは14万ポンドだ。ただ、これは広い目で見ればさほど高価ではない。同じくらい室内の広いロールス・ロイス ファントムはこの2倍の値段だ。

問題は、14万ポンドも払った車で森に特攻したいとは思わないという点だ。休日の隠れ家に泥だらけの人間を上がり込ませたくないと思うのと同じだ。

それに、サイズも問題だ。全長は5,200mmを超える。これは当然アメリカや中東なら何の問題もないのだろうが、ヨーロッパでも最も窮屈な国であるところのここイギリスでは大問題だ。3回の切り返しで済むところが6回切り返さなければならなくなってしまう。それに、森の中ではショートホイールベースなら行けるところにも行けなくなってしまう。

それに、ボディサイズの大きさと格闘していると、今度は心配性のパーキングセンサーが喚き始める。「フロントが障害物に近づいています。リアとサイドが障害物に近づいています。またフロントが障害物に近づいています。今度はリアが障害物に近づいています。」 結局、オフにせざるをえない。ところが、リバースに入れるとまたオンになってしまう。「死んでしまいますよ。本当に危ないですよ。」

他にも電子機器の問題がある。他の車同様、レンジローバーにも高速道路で車線を逸脱するとステアリングが振動するシステムが付いている。しかしこれもまた心配性で、白線に近づいただけで暴力的に振動する。そもそも、こんな巨大な車で白線に近づくなというのが無理な話だ。その結果、常に車線の中央に車をキープできるように神経を尖らせなければならない。

それからパワーテールゲートだ。これはありえない。弁解の余地もない。これは世界で一番いらない装備だ。

太っていて、運転手を雇っており、クウェートに住んでいる人にとっては、ロングホイールベースモデルも意味をなすことだろう。しかしイギリスではどうだろうか。いや、標準モデルを選ぶべきだ。こちらにも残念ながらパワーテールゲートは付いているが、こちらの方が扱いやすいし、値段も安い。

しかしここで終わるわけにも行かない。品質の問題が残っている。私は毎年農場でパーティーを開いている。ゲストは皆レンジローバーに乗ってそのパーティーに来る。昨年は27台のレンジローバーが並んでいた。ところが今年は25台しかいなかった。2台は壊れてしまった。

となると、トヨタかメルセデスか、他のメーカーの大型SUVを使うべきだと思う人もいることだろう。しかし、信頼性の高いどのライバルよりも、私ならば信頼性の低いレンジローバーを選ぶ。この車はそれほどに良い車だ。最高の車だ。


The Clarkson review: Range Rover LWB 5.0 V8 supercharged (2013)