イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
今回紹介するのは、2007年に書かれたリーバ(現: マヒンドラ・リーバ)・G-Wizのレビューです。

学生時代、物理の授業が好きだった。物理室には窓に向けて加速させられる物体がいくつもあったし、先生が反対を向いている時には先生に向けてそれを加速させることもできた。
物理以上に好きだった科目といえば化学くらいしかない。化学の授業では薬品を失敬して爆弾を作ることができた。
冗談を言っているわけではない。ナトリウムひと欠片を少量の水に入れれば他のクラスメートの宿題を吹き飛ばす程度の爆発力を得ることができる。水道の流しを水でいっぱいにしてナトリウムの塊を投入すればダービーシャーの半分を地図から消し去ることも可能だろう。学生時代は先生の髪にナトリウムの欠片をこっそり隠し、雨が降ることを心待ちにしていたものだ。
それに、化学の授業のおかげでタバコを吸っていることもバレなかった。「違いますよ先生。これはニコチンの染みじゃありません。僕の指が黄色いのは今朝過マンガン酸カリウムをこぼしたからです。」
しかし残念ながら、今ではそんなことは許されなくなってしまった。危険な薬品は鍵付きの場所に厳重に保管され、同級生の食事にポロニウムをふりかけることもできなくなってしまった。
その影響ははっきりと表れた。1996年以降、Aレベルの物理試験の受験者は5,000人減少し、79の大学で科学系の学部が閉鎖に追い込まれた。それに、今後数年間でイギリスの物理教師の半数が退職すると予想されており、埋められないギャップが生まれることになる。
我々は今、技術的に進歩し続ける世界に住んでいる。音楽を流すことのできる携帯電話や肥料を燃料とすることのできるジェットエンジン、鳩を細かく切り刻むことのできるゲーム機などの需要は指数関数的に増加している。その一方で、イギリスでそういった新しいアイディアを生み出すことのできる人は減少している。
それゆえ、サイエンス・ミュージアムは宝くじの助成金5,000万ポンドを獲得しなければならない。彼らはスコットランドに非核平和風車を製造したがっているフェアトレードベジタリアンとしのぎを削っていることだろう。それに、最近の世界の動向を考えれば、機械や技術、爆発物に熱狂する男性よりも、むしろ女性の方に権力が移ってきているように思える。
残念なことに、現在博物館に展示されているのは全収蔵品のわずか8%に過ぎない。それ以外の収蔵品はスウィンドンそばの荒れ放題の山の中にある倉庫に収容されている。
私は先週そこに行ったのだが、驚いて顎が外れそうになった。錆びてがたがたになったドアのすぐ左には、イギリス最初の核兵器であるブルースチールミサイルがひっそりと置かれていた。しかも、そのすぐ後ろにはポラリスまで置かれていた。
それに、世界初のホバークラフトや、『007 ユア・アイズ・オンリー』にも使われた小型潜水艦、ジェット練習機のホークがコメット旅客機の翼の下に隠れていた。他にも、1930年代の金属活字式の活版印刷機や、貴重な車達数台、それに初期のパソコンがたくさんあった。小型バン程度の大きさの青いキャビネットがそのパソコンで、それでも現代の腕時計程度の演算能力しかない。
別の倉庫には床から天井まで棚が並んでおり、その中には貴重な物品が詰め込まれている。失われた契約の箱もこの中に眠っているのではないかと期待してしまったくらいだ。
これはぞっとすることだ。まるで、我々の生活を変えてきた物達が本の中から飛び出してきたかのような体験だった。さらに不気味なことに、その場には私しか居合わせていなかった。
そんな現状を変えようという計画がある。宝くじの助成金を勝ち取ることができれば、25万の収蔵品をちゃんと展示できるようになる。そこで学んだイギリスの学生たちはきっと、地球温暖化から世界を救うのは環境保護団体でも政治家でもないということを理解できるだろう。世界を救うのは科学者だ。
サイエンス・ミュージアムが助成金を勝ち取れるよう、インターネット上で投票ができるので是非やってほしい。私もすでに投票している。
続いて、無能に温室効果ガスの対策を任せたらどうなるかという話に移ろう。そうして生まれたのがG-Wizだ。私は何度もこの車を、遅くて醜く、安全性が欠如し、偽善的な車であると嘲ってきた。しかしつい先日までこの車を実際に運転したことはなかった。
まず最初に、この車は非常に小さい。車内に入るともっと小さい。狭すぎて4歳以上の人であれば左膝がウインドウウォッシャースイッチの手前にはまってしまい、運転中はずっとウォッシャー液を垂れ流し続ける羽目になる。
厳密に言えば、これは間違いだ。ウォッシャー液は右折時には止まる。どんなにゆっくりと右折しようと(そもそもG-Wizは非常に遅いのだが)、ドライバーは遠心力で左側に飛ばされてしまい、助手席に座る羽目になる。
しかしいろいろな意味でこちらの方がましだ。助手席からでも運転操作はできるし、助手席に座ることで周りの人からこの馬鹿げた車のオーナーだと思われることもなくなるからだ。
しかし残念なことに、助手席に座っていられるのも次の左折までだ。今度は運転席に戻り、ウインドウウォッシャー液が再び延々と吹き出すことになる。
しかも、ブレーキを踏むと、膝がラジオのボタンに当たり、ラジオの蓋が外れて落ちてしまう。
とはいえ、少なくともラジオは装備されている。それ以外に贅沢装備と言えるものは、2つのカップホルダーとドアに無計画に貼られたレザー風のファブリックしかない。石炭庫と比べればこの車の装備は非常に充実している。
リアシートはどうだろうか。確かにリアにはシートが2つ付いてはいるのだが、神はこのシートに座ることのできる生命体を生み出してはいない。マウスのサイズの荷室にも同じことが言える。
ではスピードはどうだろうか。0-100km/h加速は測定不能だ。そもそもこの車は100km/hを出すことさえできない。最高速度が存在しない車を見たのはこれが初めてだ。この車の速さは歩くのと同じで、快適性は歩くことにも劣る。
EUの基準でこれが自動車に分類されないことにも頷ける。この車は四輪自転車という区分に振り分けられる。このため、一般的な安全基準を通過することなく販売することができる。実際、Top Gear誌による最近のテストでは、どの速度域でも安全性に問題があることが判明している。
真面目な話、ユーロNCAPの手順に従った試験では人が死にかねない重大な構造的欠陥が明らかになっている。この車に乗れば地球を救うことはできるかもしれない。しかし、そのために脚を失うことになるかもしれない。
この車を買うためには7,000ポンド(ACモーター版は8,299ポンド)もかかる。それに、この車に乗るたび、友人に対して燃料を使わないことや夜間に(発電所からの電気で)充電できること、航続距離が64kmであることなどを声高に吹聴するため、友人を失うことになる。それに、64kmの航続距離を実現するためには、ライトもラジオも、それにウインドウウォッシャーも利用してはいけない。つまり不可能だ。もし電装類を使ってしまえば、航続距離は50kmに、あるいは40kmになってしまうし、どちらにしても雨が降れば立ち往生してしまう。レンジローバーを買った誰かが引き起こした雨のせいで。
それだけではない。道で遊んでいる子供達はレンジローバーが来れば音で気付いて避けることができる。しかし、G-Wizはほとんど無音なため、飛んでいったボールを取りに子供が飛び出してくるかもしれない。そして子供を轢いてしまい、車は崩壊し、ドライバーの脚も千切れてしまう。
もし私が熱心な環境保護主義者であったとしても、こんな車は買わないだろう。小さすぎるし、危険すぎるし、そもそも発電所からの電力で動いているのだから、理想的なエコカーとは言えない。
それに、もし車が本当に氷河を解かす原因だったとしても、ロンドンで数人がこの車に乗ったところで何も変わりはしない。後退することでは人類は救えない。人類を救うためには前進するための技術が必要だ。別の言い方をすれば、人類を救うためには、科学や数学、それに失われたイギリスの創造力が必要だ。
Reva G-Wiz DC
今回紹介するのは、2007年に書かれたリーバ(現: マヒンドラ・リーバ)・G-Wizのレビューです。

学生時代、物理の授業が好きだった。物理室には窓に向けて加速させられる物体がいくつもあったし、先生が反対を向いている時には先生に向けてそれを加速させることもできた。
物理以上に好きだった科目といえば化学くらいしかない。化学の授業では薬品を失敬して爆弾を作ることができた。
冗談を言っているわけではない。ナトリウムひと欠片を少量の水に入れれば他のクラスメートの宿題を吹き飛ばす程度の爆発力を得ることができる。水道の流しを水でいっぱいにしてナトリウムの塊を投入すればダービーシャーの半分を地図から消し去ることも可能だろう。学生時代は先生の髪にナトリウムの欠片をこっそり隠し、雨が降ることを心待ちにしていたものだ。
それに、化学の授業のおかげでタバコを吸っていることもバレなかった。「違いますよ先生。これはニコチンの染みじゃありません。僕の指が黄色いのは今朝過マンガン酸カリウムをこぼしたからです。」
しかし残念ながら、今ではそんなことは許されなくなってしまった。危険な薬品は鍵付きの場所に厳重に保管され、同級生の食事にポロニウムをふりかけることもできなくなってしまった。
その影響ははっきりと表れた。1996年以降、Aレベルの物理試験の受験者は5,000人減少し、79の大学で科学系の学部が閉鎖に追い込まれた。それに、今後数年間でイギリスの物理教師の半数が退職すると予想されており、埋められないギャップが生まれることになる。
我々は今、技術的に進歩し続ける世界に住んでいる。音楽を流すことのできる携帯電話や肥料を燃料とすることのできるジェットエンジン、鳩を細かく切り刻むことのできるゲーム機などの需要は指数関数的に増加している。その一方で、イギリスでそういった新しいアイディアを生み出すことのできる人は減少している。
それゆえ、サイエンス・ミュージアムは宝くじの助成金5,000万ポンドを獲得しなければならない。彼らはスコットランドに非核平和風車を製造したがっているフェアトレードベジタリアンとしのぎを削っていることだろう。それに、最近の世界の動向を考えれば、機械や技術、爆発物に熱狂する男性よりも、むしろ女性の方に権力が移ってきているように思える。
残念なことに、現在博物館に展示されているのは全収蔵品のわずか8%に過ぎない。それ以外の収蔵品はスウィンドンそばの荒れ放題の山の中にある倉庫に収容されている。
私は先週そこに行ったのだが、驚いて顎が外れそうになった。錆びてがたがたになったドアのすぐ左には、イギリス最初の核兵器であるブルースチールミサイルがひっそりと置かれていた。しかも、そのすぐ後ろにはポラリスまで置かれていた。
それに、世界初のホバークラフトや、『007 ユア・アイズ・オンリー』にも使われた小型潜水艦、ジェット練習機のホークがコメット旅客機の翼の下に隠れていた。他にも、1930年代の金属活字式の活版印刷機や、貴重な車達数台、それに初期のパソコンがたくさんあった。小型バン程度の大きさの青いキャビネットがそのパソコンで、それでも現代の腕時計程度の演算能力しかない。
別の倉庫には床から天井まで棚が並んでおり、その中には貴重な物品が詰め込まれている。失われた契約の箱もこの中に眠っているのではないかと期待してしまったくらいだ。
これはぞっとすることだ。まるで、我々の生活を変えてきた物達が本の中から飛び出してきたかのような体験だった。さらに不気味なことに、その場には私しか居合わせていなかった。
そんな現状を変えようという計画がある。宝くじの助成金を勝ち取ることができれば、25万の収蔵品をちゃんと展示できるようになる。そこで学んだイギリスの学生たちはきっと、地球温暖化から世界を救うのは環境保護団体でも政治家でもないということを理解できるだろう。世界を救うのは科学者だ。
サイエンス・ミュージアムが助成金を勝ち取れるよう、インターネット上で投票ができるので是非やってほしい。私もすでに投票している。
続いて、無能に温室効果ガスの対策を任せたらどうなるかという話に移ろう。そうして生まれたのがG-Wizだ。私は何度もこの車を、遅くて醜く、安全性が欠如し、偽善的な車であると嘲ってきた。しかしつい先日までこの車を実際に運転したことはなかった。
まず最初に、この車は非常に小さい。車内に入るともっと小さい。狭すぎて4歳以上の人であれば左膝がウインドウウォッシャースイッチの手前にはまってしまい、運転中はずっとウォッシャー液を垂れ流し続ける羽目になる。
厳密に言えば、これは間違いだ。ウォッシャー液は右折時には止まる。どんなにゆっくりと右折しようと(そもそもG-Wizは非常に遅いのだが)、ドライバーは遠心力で左側に飛ばされてしまい、助手席に座る羽目になる。
しかしいろいろな意味でこちらの方がましだ。助手席からでも運転操作はできるし、助手席に座ることで周りの人からこの馬鹿げた車のオーナーだと思われることもなくなるからだ。
しかし残念なことに、助手席に座っていられるのも次の左折までだ。今度は運転席に戻り、ウインドウウォッシャー液が再び延々と吹き出すことになる。
しかも、ブレーキを踏むと、膝がラジオのボタンに当たり、ラジオの蓋が外れて落ちてしまう。
とはいえ、少なくともラジオは装備されている。それ以外に贅沢装備と言えるものは、2つのカップホルダーとドアに無計画に貼られたレザー風のファブリックしかない。石炭庫と比べればこの車の装備は非常に充実している。
リアシートはどうだろうか。確かにリアにはシートが2つ付いてはいるのだが、神はこのシートに座ることのできる生命体を生み出してはいない。マウスのサイズの荷室にも同じことが言える。
ではスピードはどうだろうか。0-100km/h加速は測定不能だ。そもそもこの車は100km/hを出すことさえできない。最高速度が存在しない車を見たのはこれが初めてだ。この車の速さは歩くのと同じで、快適性は歩くことにも劣る。
EUの基準でこれが自動車に分類されないことにも頷ける。この車は四輪自転車という区分に振り分けられる。このため、一般的な安全基準を通過することなく販売することができる。実際、Top Gear誌による最近のテストでは、どの速度域でも安全性に問題があることが判明している。
真面目な話、ユーロNCAPの手順に従った試験では人が死にかねない重大な構造的欠陥が明らかになっている。この車に乗れば地球を救うことはできるかもしれない。しかし、そのために脚を失うことになるかもしれない。
この車を買うためには7,000ポンド(ACモーター版は8,299ポンド)もかかる。それに、この車に乗るたび、友人に対して燃料を使わないことや夜間に(発電所からの電気で)充電できること、航続距離が64kmであることなどを声高に吹聴するため、友人を失うことになる。それに、64kmの航続距離を実現するためには、ライトもラジオも、それにウインドウウォッシャーも利用してはいけない。つまり不可能だ。もし電装類を使ってしまえば、航続距離は50kmに、あるいは40kmになってしまうし、どちらにしても雨が降れば立ち往生してしまう。レンジローバーを買った誰かが引き起こした雨のせいで。
それだけではない。道で遊んでいる子供達はレンジローバーが来れば音で気付いて避けることができる。しかし、G-Wizはほとんど無音なため、飛んでいったボールを取りに子供が飛び出してくるかもしれない。そして子供を轢いてしまい、車は崩壊し、ドライバーの脚も千切れてしまう。
もし私が熱心な環境保護主義者であったとしても、こんな車は買わないだろう。小さすぎるし、危険すぎるし、そもそも発電所からの電力で動いているのだから、理想的なエコカーとは言えない。
それに、もし車が本当に氷河を解かす原因だったとしても、ロンドンで数人がこの車に乗ったところで何も変わりはしない。後退することでは人類は救えない。人類を救うためには前進するための技術が必要だ。別の言い方をすれば、人類を救うためには、科学や数学、それに失われたイギリスの創造力が必要だ。
Reva G-Wiz DC
時間がありましたら、ジェレミーのレンジローバーロングのレビューをお願いします
http://www.driving.co.uk/car-reviews/the-clarkson-review-range-rover-lwb-5-0-v8-supercharged-2013/