イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2012年に書かれたランドローバー・レンジローバー ヴォーグのレビューです。


Range Rover

ヘルシンキ空港は巨大だ。構内には人や店が溢れ、何kmと歩く羽目になるし、ようやくパスポートチェックブースに着いたかと思えば、手荷物は36番荷物受取場に届くと教えられる。

36番とは一体どういうことだ。どうしてフィンランドの空港にそんなにたくさんのコンベアが必要なのだろうか。しかし、実際に調べてみたところ、ヘルシンキ空港には本当は6箇所しかコンベアがないようだ。ナンバリングが31から始まっていたというだけの話だった。これに気付くと、あらゆる見せかけのイメージが崩れ去る。きっと空港にいた大量の人も、フィンランドが自国を勤勉な国に見せかけるために雇った役者なのだろう。

店についてはどうだろうか。実際に確認したわけではないが、ディオールやジャックダニエルの看板の裏側で実際に買えるのは、ハーフハンターの腕時計にNo.6のタバコ、それにキャンディくらいだろう。

多くの小国が同じことをしている。空港は国の玄関だということはどの国も理解しているし、巨大な空港を作れば年間6人しか来ない訪問客に対し、その国が成長しているというイメージを植え付けることができる。「ご覧ください。ここでは聞いたこともないような携帯電話や自動車を作っていますし、サンタもこの国に住んでいるんです。だからこの国の空港はロサンゼルスのLAXよりも18倍巨大なんです。ここは凄い国なんです。」

確かに空港自体が素晴らしいことは私も認めざるをえないのだが、訪問客がタクシー乗り場に着く頃には、アイアンマンレースを終えた状態になってくたくたになってしまう。

それに、冬期にヘルシンキを訪れると、午後12時3分から午後12時7分までの4分間以外はずっと空が真っ暗だ。それに、幸いにもその4分間の間にヘルシンキに着いたとしても、空はダークグレーだ。フィンランドは確かに素晴らしい国なのだが、調光システムは壊れているようだ。

ヘルシンキ空港を出たとき、私は疲れきっていて腹も減っていて、目からはもうココアを飲む時間だという情報が入ってきていたため、自分が乗り込んだ車が普通のレンジローバーだと思ってしまった。

ホテルに到着し、荷室から荷物を取り出そうとしてようやく異変に気付いた。私はレンジローバーを自分で所有しているし、Top Gearの撮影にも大量のレンジローバーが使われている。この車以上に私が熟知している車などない。テールゲートオープナーがどこにあるかもちゃんと分かっている。しかし、フィンランドで乗ったレンジローバーはそれが別の場所にあった。

市場ごとに車の仕様が変更されることもあるということは当然知っている。例えば、中国人は広大なリアシートを好むため、中国で販売される車は他の市場向けのものよりもホイールベースが延長されている。それに、アメリカ人やフランス人はステアリングを左側に付けろと騒ぐらしい。

しかし、このように車の仕様を変えるためにはコストがかかる。ランドローバーがフィンランドのためだけにテールゲートオープナーの位置を変えるとは考えられない。なので私はいくらかジャーナリズムを発揮して、15分くらい考え、空港からヘルシンキ中心部まで私が乗ってきた車が新型レンジローバーだったということに気付いた。世間待望の新型車だ。そして翌朝、朝食も半ばで済ませ、この車をよく見てみることにした。

レンジローバーには絶妙な味付けが求められる。もちろん、大半は都市住まいの人が田舎への憧れを理由に購入する。しかし本物の田舎住まいの人も購入する。つまり、何よりも田舎の人達にとって魅力的な車でなければならない。

旧型の最終モデルは明らかにちゃちだった。ランドローバーは主要な顧客、すなわちサッカー選手や薬の売人の意見は聞いたのだが、目的を見失ってしまった。例えば、田舎の人間はメッキグリルは好まない。

新型モデルはランドローバーの暴走により田舎の要素を完全に失ってしまうのではないかと恐れていた。しかしそうはならなかった。ちゃちさは抑えられた。確かに、ボディカラーはブラック(都会人の色だ)だったし、ルーフはシルバー(チェシャー用のオプションだ)だったが、フィンランドの薄暗さの中で見ると格好良かった。

一つだけ残念だったことがある。旧型ではフロントフェンダーに排熱用のグリルが付いており、ちゃんと意味があるように見えた。しかし新型ではそれがドアに移動してしまっており、明らかにフェイクだと分かって間が抜けている。

しかし、インテリアに関しては何の文句もない。今回試乗したのは完全に4人乗りのモデルで、リアシートは贅沢装備の操作用スイッチの備わった箱で左右に隔てられていた。これは素晴らしいのだが、狂人でもない限り、実際に購入する際にこのオプションを付ける人間はいないだろう。フロントは旧型モデルとそっくりで驚いた。分割開閉式のグローブボックスも、操作系の配置も、全部同じだった。ボタンのデザインが変更され、ジャガーのシフトレバーが付いただけだった。これは素晴らしいことだ。

しかし、新しいものもある。オーディオは私が今までに使ったものの中でも最高のものだった。シートは崇高な出来だった。それに、インテリアの照明の色まで選ぶことができる。青か赤かとかそういう次元の話ではない。デュラックス(※塗料)のフルラインアップの次元だ。私はパープリーブルー(紫紺)が気に入った。これはヘルシンキの調光システムの不具合を補ってくれた。

見た目もフィーリングもレンジローバーらしかった。それに、ドアハンドルは外れて落ちてしまったが、これもレンジローバーらしかった。

問題を明らかにするため、私はドアを20回開閉した。旧型モデルではこれによりバッテリーが上がってしまった。アンロックされるたびにコンピュータは発車するのだと勘違いして立ち上がり、ドアが閉まるたびにコンピュータの電源が切れたからだ。しかし、バッテリーがまともになったため、この問題は解決した。

オンロードではどうだろうか。新型の進化は素晴らしい。新型は旧型よりも大型化しているかもしれないが、モデルによっては0.5トン近く軽量化されている。この結果、軽薄になって日本車的になってしまうのではないかと危惧していたのだが、そんなことはなかった。加速性能も燃費性能も向上している一方で、旧型同等に頑丈だし、堂々としているし、快適だし、それに傲慢だ。

ではオフロードではどうだろうか。今回の試乗では実際に試すことはできなかったが、旧型についていたオフロード走行向けの装備は新型にも付いている。なので、旧型同等の実力はあるだろう。つまり、スタッドレスを履けば素晴らしい走りをしてくれるし、サマータイヤでは少し滑りやすい。

エンジンは3種類設定される。スーパーチャージャー付きの5.0L V8エンジンは少し狂った人にはぴったりだし、3L V6ディーゼルはこのサイズの車にしては驚異的に燃費が良い。そして今回私が試乗したのが、中間エンジンである4.4L V8ディーゼルだ。私ならこれを選ぶだろう。

この車を試乗して一番感じたのは、オリンピックの開会式の間に感じたことと同じだった。台無しにならずに安心した。それに、少し時間がたつと、台無しにならなかったどころではないということに気付いた。この車は素晴らしい車だ。確かに高価だが、それだけ価値のある車だ。

ランドローバーは10億ポンドかけて新しい軽量シャシを設計した。そしてそれを、好評だった先代のデザインを少し近代化させたボディで覆った。この車は、オフロードカーとして世界最高の車であるだけでなく、車全体の中でも指折りの存在だ。


The Clarkson review: 2013 Range Rover Vogue (2012)