イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2007年に書かれたマツダ2(日本名: デミオ) 1.3のレビューです。


mazda2

私は遅刻をしたくない。厳密に言えば、遅刻をしたことがないので遅刻をするのがどういうことなのかということを知らない。私は普段からパワーのある車に乗っているため、ちゃんと時間に間に合わせることができる。

しかし先週、問題が起こった。バーミンガムでの待ち合わせがあり、午前11時45分に家を出るつもりだった。ところが、携帯の充電器が見つからなかった。家の鍵もどこかへ行ってしまった。犬も1匹行方不明になった。ようやく家を出ると、今度はパソコンの電源を切ったかどうかが気になりだした。そんなこんなで時計を見ると、針は11時55分を指していた。

その結果、平均100km/hで走らなければ間に合わない状態になった。ケーニッグゼグやキャパロであれば何の問題もないのだが、困ったことに私がその時乗り込んだのはブルーのマツダ2だった。しかもさらに困ったことに、その車は1.5Lモデルでさえなかった。その車は1.3Lであり、1.3Lといえば水でもかろうじて喉の渇きを癒やすことしかできない。1.3Lエンジンでは緊急時にバーミンガムまでの足として使うには明らかに力不足だ。

自動車を、やかましくて危険で、反社会的で非文化的なものだとみなし、嫌っている人間がいるが、その理由は理解できない。もちろん、そんな人間の中には髪は縮れて葉っぱしか食べないような変人もいるが、中にはごく普通の人もいる。

当然、運転の楽しさが理解できない人がいることは分かるのだが、少なくとも道具としての自動車の便利さは認めて然るべきなのではないだろうか。その理由はマツダに乗るまでは理解できなかった。

コンパクト5ドアハッチバックを欲しいと思う人がこの車に惹かれる理由はいくつもあるだろう。この車は旧型モデルよりも小型化されている。それに軽量化までされている。実際、車重は1トンを切っており、おかげで燃費性能と速さのどちらも期待できる。インテリアもよく、装備も充実しているし、車重は軽いのに作りは他のコンパクトカーとさほど変わらない。それに室内空間も他のコンパクトカーと同じくらいに広い。

それに、マツダ車なので信頼性も高いだろう。保険料も安いし、9,999ポンドという価格やそれなりに魅力的なデザインを考えれば、この車は道具として考えても魅力的に見えるのは当然だ。

しかしここで問題がある。コンパクトハッチバックとしていくら優秀でも、現実世界では不足がある。チッピング・ノートンとシップストン・オン・ストゥールの間には、わずかな登り坂のロングストレートがあり、そこでは行き先もわからずに5km/hで走っているようなボケ老人を追い越すことができる。

しかし、1.3Lのハッチバックではそれすらできない。5速MTをシフトダウンし、アクセルを床まで踏み込んで反対車線まで出る…のだが、10分後になっても、汗を掻きながら、直線が終わるまでに追い越せるか、それともブレーキを踏んで負けを認めるかと悩み続けることになる。

負けを認めたほうが良いように思えた。なのでアクセルを緩め、爺さんの車の後ろに戻ってから落胆しつつ悟った。こういう車では追い越しという選択肢はそもそも存在しないのだと。その結果、こんな車に乗っていると道を走っている最も遅いドライバーと同じスピードで走らなければならなくなる。

結局、幸いなことに前を走っていた爺さんはご臨終し、マツダを加速させることができたのだが、それは恐怖だった。この車はコストを抑えて、車を道具としか思わない運転が嫌いな人のために作られているため、何もかもが安っぽくて酷かった。電動パワーステアリングの動きは神経質過ぎだったし、サスペンションはまるでゴムのようだったし、ブレーキはシャープ過ぎだった。そのため、普通のスピードで走っていても、この車は不安定で車との一体感もろくに掴めず、神経質にならないと運転できなかった。

この車はサービスエリアのサンドイッチのようだ。これは世界最高のサンドイッチを目指して作られているわけではない。シェフには大した取り柄もない。ただシェフは可能な限り安く、サンドイッチという商品を作ろうとしているだけだ。トリュフオイルも、自家製のチーズも使わない。要するに、この車には車好きを喜ばせるようなものは何もない。

高速道路に入って合流前に加速をしようとすると何ヶ月にも感じられた。この車は86PSだ。1957年ならこの数字でも凄かったのだろうが、2007年ではどう考えても足りない。本線に合流する時にはまだ80km/hしか出ておらず、このスピードでは走行車線を走る大型トラックにさえブレーキを掛けさせてしまう。

なので私はパイを満載にしたトラックとエディ・ストバートのトラックに挟まれて90km/hで走った。中央車線に入れる可能性などそもそも存在すらしなかった。今の高速道路は常に車が走っており、1.3Lエンジンでは車線を変更して他の車の隙間に入って追い越しを完了させることなど不可能だった。

こんな車に乗っている人間が、車を楽しいものだとか便利なものだと考えられるはずがない。運転は面倒で恐ろしいものでしかない。

バーミンガムのホテルに着くと、従業員は私がこんな車から出てきたことに驚いていた。しかも困ったことに、車の鍵を預けてこの車をホテルの駐車場に停めた従業員は、4日後の私が帰る日には非番でいなかった。そのため、私は自力で自分の車を探さなければならなかったのだが、車についてあまり思い出せなかった。従業員がやってきて探すのを手伝ってくれたのだが、どんな車だと聞かれてもうまく言葉にできなかった。「車の形をしていて、色は確か青だったと思います。…いや、赤だったかな。」

マツダ2はスモールカーとしては確かに良い車だが、今の道路では、特にBMW M3や飛ばし屋のトラックドライバーが走る高速道路では運転するのが怖い。まだバスや電車に乗った方がましだ。それどころか、裸で歩いたほうがまだましだ。

要するに、生きるためにはパワーが必要だ。政府はオービスやら渋滞税やらにかまけている場合ではない。

そんなことをしている暇があるなら、150PSに満たない車は道路を走ることを禁じるべきだ。そうすれば、ランボルギーニに乗る私を嫌う人はいなくなるだろうし、ランボルギーニに乗る私が嫌う遅いドライバーもいなくなるだろう。そうすれば、イギリスはより心の広い、人の心を理解できる国になることだろう。それに、こうすれば運転時の最大の危険をなくすことができる。その危険とは大きな速度差だ。

そうすれば、誰もが速く走り、犬を探す時間もできるだろうし、時間通りに到着することもできる。マツダ2も良い車だ。しかし、もし私が運輸大臣なら、こんな車は禁止するべきだと考えるだろう。