イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2007年に書かれたレクサス・LS460のレビューです。


Lexus LS460

アルファベット三文字の略語は忙しい人間が時間を節約できるように作られたはずだ。それゆえ、三文字略語がよく使われるようになったのだろう。戦争中に通信で20秒もかけてと武器の正式名称を言っている暇などない。

しかし、軍人は普段から三文字略語を使いすぎて、家でも何を言っているのか理解できなくなってしまう。

さらに困ったことに、略される前の単語を言うよりも三文字略語を言うためにかかる時間のほうが長いことまである。かつて、故ダグラス・アダムズはwww(ダブリューダブリューダブリュー)は略される前の言葉(ワールドワイドウェブ)よりも長い唯一の三文字略語だというジョークを言っていた。しかし彼はIEDについては言及しなかった。これは即席爆発装置 (Improvised Explosive Device) の略だが、要はただの爆弾だ。

それに、装甲戦闘車両 (Armored Combat Vehicle) を略したACVという略語もある。これは要するに戦車だ。それに、防空警報 (Air Defence Warning) を略したADWという略語もある。これは要するにただのサイレンだ。

ビジネスマンも同じ問題を抱えている。中国と言わずにわざわざPRC (People's Republic of China) と言っている。あるいは、P2Pなどという意味のわからない言葉を使ったりもしている。

要するに、簡単な単語で言い換えられる言葉をわざわざアルファベット三文字に略し、結果まともな会話が成立しなくなる。クリス・エヴァンスのラジオ番組に出演した人は「イファ」と言う言葉まで使っていた。後にこれが独立系ファイナンシャルアドバイザー (Independent Financial Adviser) の略であるIFAのことを言っていたのだと知ったのだが、これは要するにただの泥棒だ。

私が一番嫌いな略語はPLUだ。これは、同性愛者の間で使われる言葉で、同類 (People Like Us) を意味する。こんな言葉を使う人間とは関わり合いになりたくない。

こんな話をしたのは、今週一週間レクサス・LSの試乗を行っていたからだ。この車には略語が多すぎて何度も事故ってしまいそうになった。

例を挙げてみよう。この車には車の進路を監視するシステムが付いている。もし車線からはみ出してそれが検知されると、シトロエン・C6のように丁寧にシートを振動させて伝えるわけではなく、腹立たしいブザーが警告してくる。

当然この機能を切ることもできるのだが、どのボタンを押せば良いのだろうか。困ったことに、それを探そうと目線を下にやると、つい車線をはみ出してしまってまたやかましい警告音が鳴り出す。

TCS OFFというボタンを見つけたので、これではないかとも思ったのだが、ひょっとしたら車からタイヤを切り離すスイッチなのかもしれない。そんな風に悩んでいるとまた警告音が鳴った。じゃあ、右膝のあたりにあるAFS OFFというボタンはどうだろうか。また警告音が鳴った。ふざけるな。

とりあえずそのボタンを押してみたのだが、何も起こらなかった。なので深呼吸をしてTCSのボタンも押してみたのだが、これでも何も変わらなかった。そして警告音がまた鳴った。なので、この車に付いている何百というボタン全てを押しまくり、ステアリングに配された15のボタンのうちの1つのLKAと書かれたボタンを押してようやく警報は収まった。

LKAとはなんだろうか。おそらく、Lはレーンのことだろうし、Aはアラートのことだろう。しかしKとは一体なんだろうか。カーキ色だろうか。キップリングだろうか。それとも、クウェートだろうか。いろいろな単語を考えてみたのだが、どれもしっくりこない。分かる人がいたら是非教えてほしいものだ。

広報用の資料までわざわざ見たのだが、2ページほど読んでなおのことわけがわからなくなってしまった。D4-SはVVT-iEと協調しており、PCSによりVGRSやAVS、VDIMが起動するそうだ。この意味を理解するためには准将になる必要があるだろう。

レクサスの人間は三文字略語を使いすぎて普通の言葉が使えなくなってしまったのだろう。最近読んだレクサスの広告にはこう書かれていた。「レクサスが8速ATを開発しなければ、誰が8速ATを求めただろうか。」

もはや意味が分からない。しかしそれでもあえてその問いかけに答えるとしたらこうだ。「メルセデスの7速ATでもギアが多すぎると感じたのだから、8速ATなんて誰も必要としていない。」

それだけではない。この車には顔を監視して眠りにつくと警告する装置も付いていた。エアバスのような衝突防止システムも付いていた。滑りやすい道路や封鎖されている道路を教えてくれるナビも付いていて、どうして封鎖されているのかまで教えてくれた。これだけ装備があれば略語が多いのも当然だ。これは技術の粋を集めた最先端の家電製品だ。

しかし、理解不能なボタンに包まれた車自体はちゃんと満足のいく出来だった。

この車が素晴らしいのは、メルセデスやアウディやBMWと違って、LSはスポーティーさを全く求めていないからだ。この車はちゃんと走るが、ドライバーズカーでは決してない。そして、スポーティーさを無視することで快適性だけに集中することができ、驚異的に快適で静かな車が生まれた。

本当に静かだ。ボンネットの下には4.6LのV8エンジンが積まれているはずなのだが、アイドリング時にはほとんど音がしない。それに、サスペンションは残念ながらエアサスなので、ノーマルモードではろくに使えないが、コンフォートモードにすればこのリヴァイアサンは宙に浮いて滑空する。

運転席にも良さがある。まるで相撲取りの上に座っているかのようだ。トランスミッションは変速が感じられないほどスムーズであり、この車はロールス・ロイス ファントムとさえ比較できる車だ。

当然、価格は比較にならない。5万7,000ポンドという価格は、スペックの近いメルセデス・S500よりもおよそ1万3,000ポンド安い。

しかし欠点もある。まず燃費が悪い。それに、デザインにも問題がある。確かに見た目はハンサムなのだが、運転中にタバコを吸うことはできない。普通、窓を開けてタバコを吸えば灰は車外に飛んで行くのだが、この車では車内に舞い戻ってくる。

この結果、車内には煙が充満し、それを車外に出そうと奮闘しなければならない。当然、そうすればLKAが騒ぎ出す。

それにトランクリッドにも問題がある。リモートキーのボタンを押せば自動的に開くのだが、この速度はアメリカ大陸がヨーロッパ大陸から離れていくのと同じ速さだ。特に雨天ではかなり苛立たしい。

おそらく、これは必要のない機能なのだろう。しかしこの機能はカタログに書かれたどれなのだろうか。LBJだろうか。ACUだろうか。DDTだろうか。誰かご存知だろうか。

interior

しかし最大の問題はインテリアだ。まるでハイアットリージェンシー バーミンガムのエグゼクティブスイートルームのようだ。非常に快適で、様々な装備が付いているのだが、とにかくセンスが悪い。特にステアリングなど古臭いことこの上ない。

ここまで読んで私がこの車を気に入らなかったように感じるかもしれないが、そんなことはない。昔のレクサスは、信頼性があって、静粛性が高く、快適ではあったが、魂のない車だった。しかしこのレクサスはAFBだ。


Lexus LS 460 SE L