ランドローバー・ディフェンダーは2016年にその歴史を終えます。

今回は、米国「Car and Driver」による、ディフェンダーの最終モデルである特別仕様車3台と、ディフェンダーの前身に当たるモデル(ランドローバー・シリーズ)の試乗レポートを日本語で紹介します。


Heritage
ランドローバー・ディフェンダー ヘリテージエディション

ランドローバー・ディフェンダー以上にイギリスらしいものはない。イギリス王室よりも、ウォームビールよりも、クリケットよりも、ミルクティーよりもイギリス的だ。それゆえ、この生きた化石とも言える車の生産終了が公式に発表されると、イギリス中が悲しみに包まれた。元々は最終モデルが2015年中に生産を終える予定だったのだが、生産終了を惜しんで大量の注文が入ったため、急遽生産終了時期が2016年までずれ込むこととなった。

ディフェンダーはアメリカでは短い期間しか公式には販売されておらず、1997年以降は販売されていない。しかし、アメリカでも並行輸入車が多く取引されており、その人気が伺える。嬉しい事に、今回はスコットランドの小島、アイラ島で行われた試乗会に招待された。そこでは、ディフェンダーの有終の美を飾る3台の特別仕様車だけでなく、ディフェンダーの源流にあたるシリーズI以降の全世代に試乗することができ、その歴史を知ることができた。

第二次世界大戦中、ローバー社で管理職の立場にあったスペンサー・ウィルクス、モーリス・ウィルクス兄弟がアメリカのジープのような四輪駆動車の開発を提案し、最初のランドローバーは生まれた。会社沿革によると、ランドローバーの四角いデザインはウェールズ北部のビーチにおいて初めてスケッチされたそうだ。しかし、ウィルクス兄弟はイングランド人でありながらスコットランドとも繋がりを持っており、アイラ島に土地を所有していた。今回の試乗会場はそういう意味でこの車との縁があるようだ。

Series I
ランドローバー・シリーズI

シリーズIのピックアップを見ると、ランドローバーの進歩が日進月歩であったことがよく分かる。最新型のディフェンダーと並べると、シリーズIは幅が狭く角張っているように感じられるが、60年間の時を超えてもその2台には共通するものもはっきりと見て取ることができた。今回、この試乗会場に並んだシリーズIは個人が所有しているもので、登場から6年後の1954年式だった。そのため、この車は初期モデルよりもパワフルな53PSを発揮する2.0Lのサイドバルブ4気筒エンジンを搭載していた。

もともとの購入者はほとんどがトラクターからの買い替えだったため、運転席を中央に持ってくるという計画もあったそうだ。しかし、室内右方に配置されたクッション性の乏しい運転席に座っていても、1950年代に作られたのほかの欧州車に比べれば広々としている。ダッシュボードの中央部には何も刻字されていないレバーと最小限の計器類(燃料計、電流計、120km/hフルスケールの速度計)が並んでいる。

アイラ島の道は大半が狭くて路面状況も悪く、そんな道を個人所有の貴重な個体で走ったため、緊張の連続だった。今回の試乗は車のパフォーマンスをテストするものではないのだが、70km/h程度で巡航する限りでは快適性も高く、車内では叫ぶことなく会話をすることができた。操作感はどれも非常に軽く、予想以上に扱いやすかった。それに、アシストの付いていないステアリングは最初の遊びこそ大きかったものの、路面のフィードバックをしっかりと伝えてくれた。しかし、4速MTには1速と2速にシンクロメッシュ機構が付いておらず、ダブルクラッチ操作を行わなければならなかった。

Series II
ランドローバー・シリーズII

続いては、1965年式のシリーズIIのソフトトップに試乗した。こちらにはさらにパワフルな68PSの2.25L 4気筒エンジンが搭載されていた。このエンジンは以降20年間にわたってランドローバーに搭載されていくものなのだが、シリーズIのエンジンとの大きな違いは感じられなかった。実際、ショートなギアややかましいエンジン、やわらかなブレーキなど、動力性能の面で大きな進化はなかった。ちなみに、この車はスペンサー・ウィルクス自身が所有していた個体だそうだ。この車にはヒーターが付いていた。

Series III
ランドローバー・シリーズIII

シリーズIIIでは劇的な進歩があった。ランドローバー所有の1980年式のステーションワゴンは、インテリアが金属剥き出しではなくなっていたし、ステアリングコラムにはワイパー・ウインカーレバーが付いており、4速MTはシンクロメッシュになった。

命名規則に準じれば次の車名はシリーズIVになるはずなのだが、1983年に登場した新型モデルは前後にコイルスプリングサスペンションを装着し、シャシを刷新し、大きな進化を遂げた。そうしてシリーズIIIの後継として誕生したのがディフェンダーなのだが、その名前が生まれるのは少し後の1990年のことで、それまでは車名に数字が用いられた。その数字はホイールベースの長さ(インチ単位)を表しており、90, 110, 130の3種類が設定された。

90
ランドローバー・90

今回の試乗会には、この世代のモデルが2台用意されており、いずれも1988年式だった。1台はランドローバー・90のソフトトップで、2.5Lのディーゼルエンジンを搭載しており、もう1台はランドローバー・110で、貴重な136PSの3.5L V8エンジン搭載車だった。どちらも外見は最新型のディフェンダーとほとんど変わりないのだが、昔ながらのインテリアはシリーズIIIのものに近い。90の走りは残念で、ディーゼルエンジンはやかましくて粗く、パワーもなかった。それとは対照的にV8は素晴らしく、元気のいい音や応答性の良さのおかげで、実際は大して速くないということがあまり気にならなかった。それに、マニュアルトランスミッションも比較的正確だった。ただ、アイラ島のガソリンはリッターおよそ1.3ポンド(約250円)と非常に高かったため、約5km/Lという燃費は問題だった。

130
ランドローバー・130

ここで"相対的"という言葉が頭に浮かんできた。我々は何時間も旧型車に乗っていたため、最新のディフェンダーの特別仕様車を非常に速いと感じるだろうことは想像に難くなかった。実際、まるでスポーツカーにでも乗っているかのように感じられた。ステアリングは随分しっかりしていたし、フォード製の2.2Lディーゼルエンジンは昔のV8エンジンに比べても全域でパワフルだった。

インテリアに関しても同じことが言える。全般的に出来が良かった。しかしこれはあくまで、昔のランドローバード比較しての話だ。昔のランドローバーにはなかったタコメーターが付いている。ヒーターだけでなく、クーラーまで付くようになった。

Adventure
ランドローバー・ディフェンダー アドベンチャーエディション

最終モデルは3種類用意される。ヘリテージエディションはランドローバーの伝統をよく表しており、レトロなグリーンとホワイトのボディカラーが塗られ、シリーズ風のフロントグリルが付いている。オートバイオグラフィーエディションでは、ボディカラーがツートンとなり、インテリアにはステッチレザーパネルが装備され、最高出力は122PSから150PSまでチューンアップされている(0-100km/h加速は"わずか"12.7秒だ)。そして最後の1台がオレンジ色のアドベンチャーエディションだ。見た目は最もタフで、オフロード走行用の装備が数多く備わっており、ルーフラックまで付いている。もし選べるならこれが欲しいと思う。

ランドローバーはイギリスの自動車文化に大きな影響を与えてきた。そうして後にはケータハムやモーガン、TVRのようなメーカーも誕生した。この車のゆっくりとした、それでいて着実な進化がなければ今のランドローバーはなかったことだろう。

この車の物語は終わろうとしている。ただ、公式には発表されていないものの、ディフェンダーの製造拠点をインドかどこか海外に移管して生産を続けるという噂もある。そうすれば、安全基準にうるさい世界からも逃れることができるだろう。


Defender of the Faith: Driving Every Generation of Land Rover Defender