イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、アストンマーティン・ラピードのレビューです。


Rapide

世界には、住民が特定の場所に置かれた自転車に自由に乗ることができ、指定された場所であればどこでも乗り捨てることができるという共同利用システムを採用している都市がいくつかある。

このシステムは1960年代にアムステルダムで初めて採用されたのだが、当然ながら最初はあまりうまくは行かなかった。1ヶ月もしないうちに大半の自転車は盗まれてしまったか、運河に流されてしまった。

ところが、残念なことに、現実という概念を知らない共産主義者のせいで、このシステムは多くの都市に広まっていった。人々は少額のデポジットを払わされるようになった。しかしこれでも盗難は減らなかった。

共有というシステムは子供達の間では、あるいは売春業界では機能するかもしれないが、乗り物の世界ではどうだろうか。機能するはずがない。にもかかわらず、アストンマーティンが似たようなシステムに手を出したため、非常に驚かされた。このアイディアはシンプルだ。アストンマーティンの車を購入すれば、街で見かけたどのアストンマーティンにも乗って構わないようだ。

ちゃんと説明しよう。先日、私は美しくて滑らかなラピードという4ドアセダンで家に帰り、リモートキーで鍵をかけた。ところが、この結果私の妻のヴァンテージの鍵が開いた。

驚いたことに、どちらの鍵を使っても2台両方のエンジンを掛けることができた。つまり、理論的には、中古のヴァンテージを買えば見かけたアストンをどれでも好きに乗ることができるということだ。

当然、4人を乗せたい時にはラピードを選ぶことだろう。これはメーカーによると初の4シーターのアストンだそうだ。しかし当然これは誤りだ。昔のV8は4シーターだったし、DB9やDBSもそうだった。しかし、昔のラゴンダを除けば、これは実際に4人が乗ることのできる初のアストンであることは間違いない。それに、これは初のオーストリア製のアストンだ。ただ、この点については深くは突っ込まないでおこう。

ドアが非常に小さいため、リアシートに乗り込むのは普通の人間には難しいし、身長が180cm以上の人間はリアシートでくつろぐこともできない。しかし、リアシートはレザーに覆われたセンタートンネルやブラッシュトアルミに包まれており、背の低い人にとっては最高の空間だ。まるでテレンス・コンランの理想郷だ。

しかし、テレンス・コンランの理想はハッチバックではないはずだが、ラピードはハッチバックだ。そのため、リアシートを畳んで元々広いトランクをさらに拡大し、スキーを載せることもできる。

ここで大きな疑問が生じる。4シーターハッチバックであるこの車には、アストンの走りの魔法がちゃんと残っているのだろうか。

その答えはイエスともノーとも言えない。普通の道で普通に運転していると硬すぎるように感じる、路面状況が必要以上に感じられる。路面のあらゆる凹凸がこと細かに感じられる。これはシートを介してというよりもステアリングを介して感じられる。ステアリングは常時振動している。大人のおもちゃ代わりにも使えそうだ。

ドライバーが女性で、ステアリングに腰掛けて運転をするならいいのだろうが、そうでないならうんざりしてしまう。しかし解決策はある。少しスピードを上げてやればいい。そうすれば車は浮き始める。レモンシャーベットのように軽くなり、路面状況を伝えるステアリングの恩恵に預かることになる。この車は速く、そして落ち着いて走ることのできる車だ。

しかし、この車の走りには問題もある。この車には6速ATが付いているのだが、どうしてかシフトダウンに躊躇いがちだ。ただ、代わりにパドルシフトを使えばましになる。逃亡中の泥棒のように走ってくれる。

しかし、パドルシフトを使ったとしても、5.9L V12エンジンのパワーを十分に引き出すことはできない。このエンジンはDBS(現時点で世界最高の車だ)とV12ヴァンテージにも使われている。しかし、ラピードにはその2台にある獰猛さ、凶暴さが欠けている。

つまり、ラピードは快適で静かな長距離クルージングのために設計されているのだろう。その点ではこの車は非常に優秀だし、このような優雅な4シーターにはそんな性格が合っている。しかしならばどうして、ステアリングはこんなにもダイレクトで自己主張が激しいのだろうか。この車はリンカーン・タウンカーでもないし、レース仕様の911 GT3でもないはずだ。

それだけではない。アストンの車内はまるでデザイナーの天国だ。シートは紳士的な暖かさを、あるいは快適な涼しさをもたらしてくれる。それが左右のシートそれぞれに付いているので、普通ならば4つのボタンが付くはずだ。しかし4つもボタンがあるのはセンスがないので、代わりに美しいが複雑な操作系が1つだけ付いている。

確かにこの車にはバング・アンド・オルフセンの素晴らしいオーディオシステムが付いている。しかし、これで選曲をしようとすると、12本の指とルーペを使って10分間かかる。

おかしな話だ。普通の2シーターのアストンならばそんなことは気にもならない。そういうとき、我々は、小さな会社が作る破茶滅茶な車を欲しがっている。カシオよりも信頼性に劣り、カシオよりも使いづらい高級腕時計をわざわざ買うのと同じだ。

しかし、4シーターとなると話は変わる。4シーター車は賢明で実用的な車でなければならない。そのため、アクセルペダルとブレーキペダルの感覚が狭すぎるとかそんなちょっとしたことでさえ気に障るようになる。

マセラティ・クアトロポルテだって同じように問題だらけだ。それに、ポルシェ・パナメーラはもっと酷い。これはラピードやクアトロポルテよりはずっと論理的な車だが、見た目が酷すぎてショーウインドウの前を通りたくなくなる。

しかしそれでも、アストンには切り札がある。ラピードのオーナーなら、近場の駐車場にDB9が停まっていればそれに乗って帰ることができる。総合的に考えれば、これは素晴らしいことだろう。


Aston Martin Rapide: Press go and run off with my wife