イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、ジープ・ラングラーのレビューです。


Wrangler

ブリストル刑事法院は先日、バスをわざと自転車にぶつける姿を監視カメラに撮影されたバス運転手に懲役17ヶ月を言い渡した。私もその映像を見たのだが、実に衝撃的だった。バスは自転車と並走し、続いて急に左に進路を移して3mほど突き飛ばし、自転車乗りの脚と大切な自転車を傷つけた。これは明らかな狂気だ。運転のストレスが手に負えなくなって生まれた暴力だ。

しかしもう一度よくその映像を見てみると、最初の場面で自転車がバスの正面を非常にゆっくりと走っていることに気付く。続いてバスがそれを追い越そうと右に出ると、自転車も進路を右に移した。これは自転車側の挑発に問題があったのではないだろうか。

長らくの間、バスの運転手は政府関係者やガーディアン紙の読者から路上の騎士と讃えられ、神から与えられた任務を遂行する崇高な環境活動家であると評されてきた。バスには専用の車線が与えられ、政府は一般ドライバーにその領域に入らないように命じている。

この結果、バスの運転手は調子に乗り出した。乗客が乗り終われば、すぐ近くを車が走ってていてもバスは走り出す。突然バスが指示も出さずに走り出したため、対向車線に飛び出して避けなければならないようなことを何度も経験した。それに当然ながら、もし裁判があれば、世界中のホッキョクグマを不幸にしている乗用車のドライバーが戦いのために使えるのは木の枝か豆腐くらいだろう。

ところが、ガーディアン紙は通勤手段としてバスよりも自転車のほうが優れているという結論に達した。その結果、自転車に専用の車線が与えられ、交差点には専用のスペースができた。そして、どのような状況であっても、エンジン付きの乗り物と自転車では前者が非難されるようになった。

その結果、突如として道路に自分が正しいと信じきった人間の集団が溢れ出した。すべての動物は平等だが、彼らは他の人間よりも平等であることを望んでいる。結果はどうしようもない。1人は牢獄へ、もう1人は脚を骨折した。

唯一の解決策は、彼らの特別な車線と優位性を剥奪することしかない。道路を使うならば慎重にならなければならないということを理解させるほかない。なぜなら、道路は"人々"のものなのだから。そして、大半の人々は自動車に乗っている。

先日、ロンドンでツール・ド・フランスの乱痴気騒ぎに巻き込まれた。その日の午後7時には、派手な色の服を着て髭を蓄えた大量の人が自転車で赤信号を突っ切り、制限速度を超えて走っていた。

私は赤信号をしっかり守り、走る時もせいぜい40km/h程度しか出していなかったのだが、周りの人間は私に対して悪態をついて叫んだ。ドアを叩いてきた人もいた。歯を剥き出しにして威嚇してきた人もいた。それはあまりにも酷かったため、彼らに文句を言ってやろうとも考えた。

ただ、彼らの怒りには、私が乗っていたのが巨大なアメリカ製オフロードカーのジープ・ラングラーだったということも関係していたのだろう。彼らがこの車を嫌いなのは明らかだったし、私は彼らに反論することはしなかった。なぜなら、私もこの車が嫌いだからだ。

ご存知の通り、ジープは1941年に本格的な軍用4WD車を作り始めた。ドワイト・D・アイゼンハワー将軍はジープの努力なしでは第二次世界大戦の勝利はなかったと述べている。ジープの構造は非常に単純で、"必要十分"な車だと評されていた。

長年をかけ、オリジナルのジープがラングラーへと徐々に姿を変えていった。ジープのファンは車高を上げ、ドアや屋根を取ってV8エンジンを載せた車に改造したりもしていた。フロリダ州のキーウエストを走れば、ボンネットに巨大な紫色のワシが描かれたジープを時折見かけることだろう。しかし、この車の主戦場は依然としてオフロードだ。実際、シエラネバダ山脈をルビコン川沿いにラングラーに乗って超えた時は非常に楽しかった。ラングラーの核心はサンフランシスコにあるのかもしれないが、その魂はまだ奥地に残っている。

しかし残念なことに、ジープはアメリカ以外でも車を売り始めた。巨大な紫のワシなど車に描いたらまずいような国だ。例えば、イギリスにはランドローバーがある。ドイツにはメルセデス・Gワーゲンがある。そのため、ジープはラングラーをより落ち着いた、より実用的な、よりヨーロピアンな車にしようとした。しかし失敗した。なにより、見た目が非常に悪い。それに、車内から外が見えない。死角が広すぎて自転車を見ることもできない。同様にバスも見ることができない。アルバート・ホールすら見ることができない。

それだけではない。ジープにリアシートやリアドアを付けるためには、フロントシートを物凄く前まで出さなければならず、結果、操作系は顔を使って操作しなければならない。さらに困ったことに、ナビ画面が明るすぎるため、UFOのサーチライトに照らされながら運転しているような気分になる。

もちろん、この車にはたくさんのスイッチやレバーが付いており、ちゃんとオフロードを走らせることはできるのだが、オンロードは苦手だ。2.8Lディーゼルエンジンはエンジンとはどうあるべきかということを全く知らない人間が開発したかのようだ。そういう人間のことをこう言う。アメリカ人だ。

それにサスペンションは非常に柔らかい。あまりに柔らかすぎてスピードバンプをどんなスピードで乗り越えても全く気付くことはない。しかしその代償として、曲がり角のたびに格闘しなければならない。ステアリングも酷い。それに、高速道路の乗り心地は落ち着きがない。

確かに、ランドローバー・ディフェンダーもオンロードは苦手だ。しかし、ディフェンダーはラングラーと違って贅沢品のふりはしていない。ラングラーには(工学の博士号がある人には)脱着可能な屋根が付いているし、クルーズコントロールなどの贅沢装備が満載だ。まるで偽造ダイヤの散りばめられたウェリントン・ブーツだ。金メッキされた牛糞だ。

ダッシュボードには"Since 1941"と書かれていた。これが意味するのはきっと、1941年から何ら進歩していないということなのだろう。

残念でならない。私は昔のラングラーが好きだった。確かに欠点はたくさんあったが、4x4としては良く出来ていて面白い車だった。

しかし新型ではその魅力が失われた。快適性を兼ね備えたランドローバーになろうとして失敗した。それに、2万8,000ポンドという価格を考えれば、他にもっといい選択肢はたくさんある。もちろん、バスを使うという代替手段は除くが。


The Clarkson review: Jeep Wrangler (2012)