イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、ヒュンダイ・i40 1.7 CRDiのレビューです。


i40

1960年代中頃、韓国の建設会社のヒュンダイは自動車製造事業に参入することを決定した。ヒュンダイには絶大な資金力があったため、新企業設立に際してあらゆる人材を確保することができたのだが、どうしたわけかヒュンダイはジョージ・ターンブルというイギリス人を迎え入れた。

ジョージはオースチン・モーリスのトップとして有名で、酔っぱらいの落書きを基にモーリス・マリーナの製造を行った。

ジョージはショックアブソーバーとルバーブの違いも分からないような韓国人と協力することを諦め、イギリス人を多数引き連れて韓国での自動車開発を開始した。その中にはアン王女の愛車としてもおなじみのリライアント・シミターを開発した人間もいた。

そうして開発されたのがポニーという車だ。この車はイギリスにも輸出されたはずなのだが、この車について聞いた記憶も見た記憶もない。

しかし、エジプトやエクアドルでの販売は成功した。ターンブル氏はヒルマン・ハンターの製造を行うためにヒュンダイを離脱したが、その後ヒュンダイは後継車を発売した。しかし、想像力が欠如していたため、車名はポニーのまま変わらず、カタログには「長方形ハロゲンヘッドランプ」、「読みやすいメーター」といった文字が踊っていた。

この車には他に大したものがなかったため、こんな細かいことに言及するほかなかった。私は大昔にこの車を運転したことがあるのだが、今でもその恐怖を鮮明に思い出すことができる。ビニール製のシートも不格好なエクステリアも酷かったが、何より最悪だったのは、各部品がしっかり結合していないかのように感じられた点だった。

rear

フロアからはレバーが生えていたのだが、それを使ってギアを繋げるのは至難の業で、ギアチェンジが成功する前に車が止まってしまい、また1速に入れなければならなかった。恐らく、レバーとトランスミッションは糸かなにかで繋がっていたのだろう。

それにステアリングにはヨーグルトが詰まっていた。ステアリングを早く回せばヨーグルトも回って遠心力により前輪が向きを変える。時々左右のタイヤが別の方向を向くこともあったが、ドライバーは疲れきっていたし、小石を踏んだだけで背骨がやられるほどに乗り心地が悪かったため、そんなことに気づく余裕もなかった。

それにエンジンは…なんてこった。数km走ってようやく10km/hかそこらまでしか加速しなかったことをよく覚えている。唯一この車でよかった点といえば、スピードが出ないのでまともに作動しないブレーキの心配をする必要がなかったことだけだ。

しかし、これ以上を期待する方がおかしい。当時の韓国人に車を作れと要求するのは、アルジェリアの団地の住人にスペースシャトルを作れと要求するようなものだ。ましてや、モーリス・マリーナの父を招き入れて開発したのだからうまくいくはずなどない。ところが、数十年が過ぎた今、多くの欧米の自動車メーカーが不調にある中で、ヒュンダイは世界で5番目に大きい自動車メーカーにまで成長した。

その最新モデルがi40であり、この車は全く悪くない。ボディサイズはヴォクスホール・インシグニアやフォード・モンデオに近く、それに見た目はこの2台よりも良いし、エコモデルを選べば経済性でも劣らない。それに、価格は少しだけ安い。とはいえ、韓国製というタグが格安を意味する時代は終わった。今は韓国車に欧州車と同じくらいの価格を払わなくてはならない。なぜなら実力も同等だからだ。

今回の試乗車に搭載されていたディーゼルエンジンは超優秀というほどではなかったが、パワーも十分だったし、燃費も悪くなかった。ステアリングは少しぎこちなかったものの、少なくともステアリングを回せば前輪は左右とも同じ方向を向く。それに、ブレーキペダルを踏めば車はちゃんと減速する。この車に大きな欠点は存在しない。インテリアはホンダ車と同じくらいの質感だ。サスペンションは普通だ。トランスミッションも気にならない。

interior

ヒュンダイによると、i40の開発ではフォルクスワーゲン・パサートやトヨタ・アベンシスをベンチマークとしたらしい。その結果は言うまでもない。無味と無臭のブレンドだ。この車はただの車だ。道具として見れば素晴らしい。つまり、私から見れば全く素晴らしい車ではない。

韓国が戦争をしていてまだ国ではなかった頃、イギリス人は誰もが4ドアセダンに乗っていた。ハッチバックをフランス的で疑わしい車だと考えていた。しかし、今やセダンの市場はほとんどなくなった。我々は背の高い車に巨大な車、屋根のない車に1950年代のような車を好んでいる。我々は面白い車が好きだ。そのため、前輪駆動のディーゼルセダンなど流行るはずがない。そんな車に乗るのは、プライベートブランドの服を着て出かけるようなものだ。

4ドアセダンが欲しい人間など稀だし、ましてやヒュンダイの4ドアセダンが欲しい人間などなおのこと稀だろう。

最大の問題は、偉大な自動車メーカーにははっきりとした目標を持ったリーダーがいたという点だ。コリン・チャップマンにエンツォ・フェラーリ、ウィリアム・ライオンズなどだ。しかしヒュンダイはどうだろうか。ヒュンダイを創業したのは、現在の北朝鮮にあたる場所で貧しい農家に生まれた鄭周永という男だ。彼は父親の牛を盗んで売り払い、その金で村を飛び出した。

その後、彼は都会に出て職を転々とした。港湾労働者になったかと思えば、次は便利屋になった。そして彼は自動車修理業を始めたのだが、当時韓国を植民地化していた日本政府により、彼の会社は日本の製鉄会社と合併させられた。その後、彼は生まれ故郷へと戻った。牛を失った田舎の父の元へと。

戦争が終わると、彼は復興ニーズを見込んで建設会社を始めた。彼の予想は正しく、今やヒュンダイは多国籍コングロマリットとなった。今や、ヒュンダイに比べればメルセデス・ベンツは弱小企業だ。ヒュンダイは1つの工場で年間160万台の車を製造することができる。

彼のサクセスストーリーは驚異的だが、だからといってヒュンダイの車が欲しいと思うだろうか。そんなはずがない。同様の理由で、私はウォルマートよりもデリカテッセンでチーズを買いたい。確かに、材料は同じかもしれない。味も似通っているだろう。それでも、金儲けのためにチーズを売っている会社よりも、チーズを作りたくて作っている会社から買いたい。


Hyundai i40: Amazing where bottle tops and string will get you