イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、フォルクスワーゲン・ビートル 1.4 TSIのレビューです。


Beetle

エンツォ・フェラーリはかつて、ジャガー・Eタイプこそ史上最も美しい車だと言った。例え発売から51年以上が過ぎた今であっても、街中でEタイプを乗り回せば、恐竜を乗り回す以上に視線を集めることだろう。

Eタイプはファッションを超越し、マリリン・モンローすらも凌駕する。彼女は当時、世界で最も美しい女性と言われ、その美しさが衰える前に死んだ。しかし、今の若者は彼女を少し太っていると言う。

建物もEタイプには敵わない。グランド・デザインズ(※イギリスの建築番組)に出てくるようなモダンで格好良い建物も、20年後には時代遅れになってしまうことだろう。1970年代に設計された家が間抜けに見えるのと同じだ。とはいえ、100年後にはその価値が認められ、日本人が写真を撮りにやって来ることだろう。

人々の嗜好は日々変化している。サングラスはかつて丸がトレンドだったが、今は違う。かつて、ズボンはハイウエストに穿くのがトレンドだったが、今は違う。にもかかわらず、Eタイプはそんな中で最高のデザインの車の栄光を保ち続けている。この車は発売時から高く評価され、販売中も高く評価され、今でも人々を夢中にさせている。

それゆえ、ジャガーが発売する新型Fタイプには、Eタイプのモチーフを取り入れようという誘惑があったことだろう。しかし、現実はそうならなかった。Fタイプは曲線的でもなければ小さくもない。強調されたテールも、卵型のフロントグリルも付いていない。見た限りでは、FタイプにはEタイプのモチーフが一切取り入れられていない。私はそれが奇妙であるとすら感じた。

しかし、新型Fタイプのデザインは間違いなく良いものだ。それに、この車は速いし、絶妙なオーバーステア具合でAUTOCAR誌の編集者を喜ばせることだろう。

ボディサイズはポルシェ・ボクスターと911のちょうど中間くらいだそうだ。価格は5万5,000ポンド程度からだそうで、エンジンにはV6とV8があり、最初はコンバーチブルのみが発売されるが、後にはクーペも追加されるそうだ。非常にまともで素晴らしい車のように思える。

しかし、ジャガーならば、自社のEタイプを模倣しようと法的にも道徳的も問題はなかったはずなのに、一体どうしてそうはしなかったのだろうか。

ひょっとしたら、レトロなデザインが受けないからなのかもしれない。フィアット・500はロンドンで少なくとも75%のシェアを握っているように思える。それ以外の人間は大半がミニに乗っている。しかし、フォードはかつて現代版コーティナを発表したし、つい最近までクライスラー・PTクルーザーという車が販売されていた。ここから、物事は企業の意図した通りには進まないということを学んだのではないだろうか。

これがフォルクスワーゲン・ビートルの話に繋がる。最初の復刻版モデルを見た時、私は魅力的だと感じた。フォルクスワーゲン・ゴルフにドイツの軍服を着せ、花瓶を付けるのは素晴らしいアイディアだと思った。それどころか、買おうとさえ思った。

しかし買わなくて正解だった。フォルクスワーゲンは重大なミスを犯していた。デザインが可愛らしすぎた。日産・マイクラ(日本名: マーチ)のような可愛らしいだけの車は得てしてどこか間抜けに見える。車にはいくらかのアグレッシブさが必要だ。ビートルにはそれが欠けていた。

ビートルに次はないと思っていたのだが、実際は違った。新型はより背が低くなり、きっぱりとした形となって戻ってきた。新型には不気味なホイールと脅迫的なスポイラーが付いていた。ハービーの従兄弟の強盗のような車だ。

室内から花瓶はなくなり、ボディカラーに合った色のダッシュボードがあり、おかしなグローブボックスがあり、現代的な電子機器があり、歴史上最大の燃料計が付いている。あまりに巨大なため、延々レッドゾーンで走らせても5,000kmは走れそうに感じる。

では果たして、外観のデザインは成功したのだろうか。残念ながらそうとは思えない。この車はランボーの服を纏ったヒッピーのようだ。ビートルは戦争の副産物なのかもしれないが、今や平和の象徴とされている。しかしアグレッシブさはあるだろうか。この車はまるで、機関銃を持った鳩だ。

ステッカーを貼ればましになるかもしれないと考えることだろう。確かにミニやフィアット・500にはマリークヮントや晴天のローマを彷彿とさせるステッカーが多々設定されているが、ビートルの起源に合ったステッカーなどあるだろうか。ステッカーなど付けないほうがいいように思える。

それでも、このデザインを気に入る人はいるだろう。というわけで、実際の車の実力の話に移ろう。

悪くないというのが率直な感想だ。200PSの2.0Lモデルも販売されているが、今回私が試乗したのは先進的な1.4Lエンジンを搭載するモデルで、ターボチャージャーのおかげで低燃費と160PSという出力を両立している。うまく走らせるためには6速MTをうまく駆使する必要があるが、そうすれば十分なパワーを引き出すことができる。

電子制御式のディファレンシャルが駆動輪である前輪を制御しているためハンドリングもよく、猿のように無意味にアクセルを踏み込んで運転しても大丈夫だ。

しかし、基本的にこの車は快適で静かなクルージングマシンだ。なにより、大型ガラスサンルーフやフェンダーのサウンドシステムが付いている。このサウンドシステムは夜になれば輝くし、音自体もいいのだが、何よりも魅力的なのはフェンダーというブランドだ。フェンダーを欲しがらない人などいないだろう。

当然、このヒトラーの服の内側はゴルフにほかならず、あらゆる点でゴルフとほとんど変わらない。リアシートは狭く、実用性ではゴルフに敵わないが、少なくとも荷室は以前のビートルよりは広くなっている。しかし、ゴルフがドイツで無精に製造されているのに対し、ビートルは丁寧さの象徴であるメキシコで製造されているため、フィット・アンド・フィニッシュの水準はよっぽど高い。

核心に移ろう。価格だ。ビートルの価格は同じエンジンを搭載するシロッコとほぼ同じ価格だ。ここで我々は選択することができる。レトロにするか、モダンにするか。ひょっとしたらジャガーもそうするべきだったのかもしれない。Fタイプにするか、Gスポットにするか。


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