イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2004年に書かれたトヨタ・カローラヴァーソのレビューです。


Corolla Verso

イギリス中で新しいタイプの景観の破壊が始まっている。これは、違法なポイ捨てよりも問題だ。そしてこの責任は地方自治体にある。

昔、私が運転免許試験を受けた時、試験官が唐突にさっき通り過ぎた道路標識の意味を説明するようにと言ってきた。当時ならそれは簡単だったのだが、今は違う。今や1.3秒おきに道路標識を通り過ぎる。

これには先週、A3でロンドンまで向かっている時に気付いたのだが、おかげで気が狂いそうになってしまった。あらゆる街灯、あらゆる電信柱、あらゆる木の枝にドライバーがしなければならないこと、してはならないことが書かれている。

駐停車禁止区域にはあちらこちらに全く同じ標識が立っている。しかし、オレンジに塗られたバスレーンや緑色に塗られた自転車レーンとの境界に赤い二重車線が引かれているのだから、わざわざ標識を見るまでもなくそんなことは分かるはずだ。

バスレーンがあれば、その意味を説明する標識が立っている。それどころか、ロンドン中心部には8km先の渋滞税エリアを予告する標識まで立っている。しかし意味が分からない。そんな先のものを予告してどうするのだろうか。他にも、自動速度取締装置の予告標識があり、バスレーン監視カメラの予告標識があり、図書館の近くには左折禁止の標識がある。かと思えばなんと、飲酒運転取締箇所の標識まである。

これだけ多くの標識があれば、逆に景色に溶け込んでしまって誰も見なくなるだろう。テレビで映画が放送される前に流れる注意のようなものだ。かつて、映画の放送前には、アナウンサーがBBC的な真面目くさったトーンで、これから流れる90分間の映像には暴力的で残虐なシーンが含まれると警告していた。それを聞いた視聴者は、椅子のリクライニングを少し立てて心の準備をすることだろう。

ところが、今では、ちょっとした暴力シーンや乳首シーンが含まれる映画ですら、しつこいほどに警告され、眠気が押し寄せてくる。そのため、ろくに心の準備もしなくなり、いざ冒頭からアル・パチーノが鋸で腕を切り刻む映画を見れば、驚愕してしまうことだろう。

これと同じことが道路でも起こる。例えば、この先にスピードバンプがあるという標識があっても、それに誰も注意を払わなくなってしまう。その結果、130km/hでバンプに特攻してしまう。そうして背骨がやられてしまう。

言うまでもなく、これだけ多くの標識があるのは弁護士のためだ。もし背骨が折れたせいで四肢麻痺になったとしても、自治体は病院に弁護団を派遣し、親族に対し、スピードバンプを警告する標識があったのだから一切の保証はできないと説明することだろう。

高速道路に馬鹿げた標識が溢れている理由もこれだ。強風注意の看板さえあれば、風のせいで側壁に衝突しても自治体が賠償する必要がなくなる。それに、自治体の言い分は確かに正しいし、そもそもドライバーの側は怪我でまともに喋れるような状態ではないので、議論の余地すら残されない。

結果、あらゆる道に標識が溢れることとなった。これは見た目が悪いだけでなく、危険でもある。昔なら、ちょっとした不注意で道を外れてしまっても標識にぶつかる危険性は少なかったが、今ではほぼ確実に衝突してしまう。

しかも、今後はこの状況が更に悪くなりそうだ。英語だけでなく、今後は14の言語を標識に添えなければならなくなるだろうし、識字できない人のために絵での説明も必要となってくることだろう。

それに、住宅地域には250mごとに禁煙の標識が立つことになるだろうし、繁華街ではオフロードカー進入禁止の標識も立つことになるだろう。

これは実際にすぐ先に迫っていることだ。巨大なオフロードカーは街中を走る多くのドライバーに嫌悪されており、それがいなくなれば渋滞は改善されると考えられている。実際、私もそう考えている。こんな車に乗って学校の送迎を行う母親は、厳しく罰せられるべきだろう。しかし、私もこのタイプの車を実際に所有している。

困ったことに、オフロードカーは核兵器に似ている。もしオフロードカーと普通のハッチバックが衝突事故を起こせば、乗員が生き残るのはオフロードカーだけだ。そのため、道にオフロードカーが溢れれば、大切な子供を守るため、それに対抗して私もオフロードカーを購入する必要性に駆られることになる。GMとフォードとトヨタの首脳がレイキャヴィークで会合を行い、SALT条約を締結しなければこの問題は解決しないだろう。

しかし我々ドライバー側はどうだろうか。我々はオフロードカーの広大な室内空間に慣れ親しんでしまった。それで一体どうすれば普通のゴルフに戻れるのだろうか。しかしその心配はない。道を塞ぐほどに巨大ではなく、ごく平凡なセダンの大きさでありながら、まともな大きさの7つのシートを持つタイプの車がちゃんと存在している。

rear

ヴォクスホールが最初にザフィーラを発売した。この車は比較的出来も良く、続いて登場したのがルノー・グランセニック(まるでトレーシングペーパー製かと思うような醜い車だ)、フォルクスワーゲン・トゥーラン(カルカッタの牢獄のような車だ)、そしてトヨタ・カローラヴァーソだ。中でもカローラヴァーソは素晴らしい車だ。

分かっている。愛車のレンジローバーをカローラに買い換えるなんて頭のおかしなことができるかと思っているのだろう。しかしここは耐えて続きを読んで欲しい。

車の安全性を評価する独立機関であるユーロNCAPの評価では、レンジローバーが四ツ星評価である一方で、カローラヴァーソは最高評価である五ツ星評価を得ている。当然、正面衝突であればレンジローバーの方が有利だが、標識に突っ込んでしまった場合、より安全なのは意外なことにトヨタの方だ。

それに、カローラヴァーソなら性生活も安心だ。カローラヴァーソには床下収納のできるシートが付いているので、わざわざコンドームや子宮内避妊具を付ける必要もない。その結果赤ちゃんができたとしても、新しい車を買う必要はない。

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しかし、カローラヴァーソの最も優れている点は品質だ。この車には他のライバル車にはない頑丈さがある。この車を設計した人間は、子供達がいかに凶暴かということを理解しているようだ。子供は1週間前よりも脚が伸びていることを理解していない。そのため、子供は物を破壊してしまう。私の子供は以前、ルノー・セニックを15分で粉々にしてしまった。

確かに、カローラヴァーソの操作性は鈍いし、エンジンはコンクリートミキサーのようで、運転していて全く楽しくはないが、それでも問題はない。ポルシェ・カイエンという例外を除けば、一般的なオフロードカーだってフェラーリのようになどなれない。

最後に金銭的な話をしよう。最上級グレードの1.8Lモデルは1万8,795ポンドで、これは主要なライバル車と比べると少し高価だが、実用性、安全性、社会性で劣るレンジローバーと比べれば3分の1の値段だ。

この記事は渋滞の少ない未来に向けた標識となることだろう。しかし、普通の道路標識と違い、視界を妨げるようなこともないし、必要がなくとも焚き火くらいには使えるだろう。