今回は、米国「Car and Driver」による新型ダッジ・バイパーACRの試乗レポートを日本語で紹介します。


Viper ACR

新型ダッジ・バイパーACRはサーキットでは(少なくともダッジの公式発表では)バイパー史上最速のモデルだが、285km/hという最高速度はバイパー史上最遅だ。ディファレンシャルの冷却系を除けば、ACRのドライブトレインは他のバイパーと一切変わらない。つまり、8.4L V10エンジンは654PS/83.0kgf·mという途方もないパワーを発揮し、それでいてボディサイズはさほど大きくない。直線でのスピードが遅くなったのは、サーキットを速く走らせるためにダウンフォースを生み出したからだ。

ダウンフォースとは、気流を利用して車を地面に押し付ける力のことだ。空気が車を強く押し付けるほどに、コーナリング速度を速くすることができる。しかし、ダウンフォースは空気抵抗も生むため、最高速度は低下してしまう。

バイパーACRのトランクリッドには巨大なアジャスタブルウイングが標準で装着されており、そのほかにも、ダウンフォースを向上する大型フロントスプリッターやリフトを減弱する前輪上部のベント、それに気流を最適化するリアディフューザーも装着されている。ACRエクストリームパッケージを選択すれば、ウイング、スプリッター、ディフューザーのすべてがアップデートされ、ダウンフォースが増強し、最高速度の285km/hでは900kgものダウンフォースが生じる。しかし、これは抗力係数には悪影響で、通常のバイパーSRTのCd値は0.37、バイパーTAのCd値は0.43である一方で、ACRエクストリームのCd値は0.55となる。

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今回は、バージニア・インターナショナル・レースウェイで、バイパーACRエクストリームの試乗を行った。今回はラップタイムの測定などはしていないが、この全周6.6kmのコースで昨年2:44.9を記録したバイパーTAの記録を数秒上回るのは確実だと思う。

空力パーツがACRがACRたる最大の装備だが、それ以外にも12万2,490ドルというACRの希望小売価格には独自の装備が含まれている。フロントには15.4インチ(従来より1.4インチ拡大)カーボンセラミックローター+6ピストンキャリパーが奢られ、結果標準モデルよりもホイールサイズは1インチ拡大して19インチとなっている。

ダウンフォースと制動力を最大限に活用するため、ACRには専用に設計されたタイヤが装着されている。ダッジはクムホと共同で2年前にタイヤの開発を開始し、そうして生まれたのがEcsta V720だ。このタイヤは溝が最小限となっており、スリックタイヤに近い形状でありながら、公道を合法的に走れるように設計されている。リアタイヤは355/30R19のままだが、リアタイヤは295/25R19となっている(標準車はリアタイヤも30扁平)。

コイルオーバーサスペンションは、スプリングがよりハードとなり、ショックアブソーバーも減衰力がチューニングされている。実際に乗ってみると、コース外の段差に乗り上げてしまってもACRは通常のバイパーと比較して暴れが少なく安定しており、より安心してスピードを出すことができた。

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ただ、ステアリングへの入力に対する応答性は少し遅く感じられた。コーナーへの進入では向きが変わるのが遅すぎるのではないかとさえ感じられた。しかし、ACRの空力パーツは調整可能で、実際にそれを確認するため、リアスポイラーとフェンダールーバーの調節を行った。すると、前輪のグリップが増したように感じられた。この点についてはあくまで個人的な感想に過ぎないが、実際にターンインがより正確になり、サーキットのコーナーをより速く抜けられるようになったように思えた。

ロングストレートでは237km/hまで加速していった。なお、ACRのようなウイングの付いていないバイパーTAでは245km/hを記録した。しかし、スピードの低さに加え、グリップの強いタイヤやダウンフォースのおかげで、ブレーキを踏むタイミングはより遅くすることができた。ただし、上り勾配のセクションでハードなブレーキングをすると、それなりのノーズダイブが起こり、フロントスプリッターを路面に擦ってしまった。とはいえ、スプリッターは簡単に取り替えられるようにできているので、ブレーキングに気を使う必要はないだろう。

ただ、ACRは簡単に速く走れる車だと思ってはいけない。ACRのグリップに慣れるためには時間を要する。速く走るためには留意するべき点がいくつかある。ハードなブレーキングを行えば車が暴れがちになるし、ギアを入れるためには力がいるし、十分なダウンフォースを得るためにはスピードが必要だ。特に、コーナーが連続するような場所では、ダウンフォースを得るためにスピードに気を使わなければならない。とはいえ、よほど変な運転をしない限りは、車の動きはとても分かりやすい。

この車はナンバープレートを付けることのできるレーシングカーだ。しかし、今回のサーキットでの試乗では公道での走りなど知りようもなかった。日産・ヴァーサ(日本名: ラティオ)やらに囲まれて走ればきっとストレスがたまることだろう。この車は街中で速く走るよりもサーキットで遅く走るほうが楽しい。"速い"バイパーよりも"遅い"バイパーの方が楽しいのと同じだ。


2016 Dodge Viper ACR