イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、ダチア・ロガンMCVのレビューです。


Logan

先週、Top Gearのスタジオに到着すると、私が借りていたポルシェ・911ターボを回収するためにトラックが待っていた。そして、それと引き換えに次の試乗車の鍵を渡された。それはダチア・ロガンMCVの鍵だった。これほどに悲惨でつまらない車の試乗をする羽目になるとは思ってもいなかった。

あまりにショックだったため、その日は台詞すらまともに言えず、ディレクターの指示にもまともに従うことができなかった。その日の帰りにロガンで帰らなければいけないと知りながら収録をするのは、後に公開処刑されると知りながらセックスをするような話だ。まともにできるはずがない。

こんな前置きをすれば、実際に運転してみたら驚きだったというオチがあると思うことだろう。正解だ。想像以上に酷い車だった。銃殺刑かと思っていたら、実際にはじっくりと火炙りにされて嬲り殺されてしまうような話だった。

インテリアはフランスの高速道路にある安宿のユニットバスのようだ。しかし、ユニットバス以上に耐久性や質感は悪い。手に触れるもの全てがすぐに壊れてしまいそうだ。

interior

続いて、エンジンを掛けてみる。ディーゼルエンジンが酷いとは聞いていたが、試乗車に搭載されていた0.9Lガソリンエンジンより酷いエンジンなど想像すらできない。エンジン音はどう表現すべきだろうか。ミキサーを最高速で回転させ、そこに砂利を入れたような音とでも言えばいいだろうか。

続いて、パフォーマンスだ。この車にはパフォーマンスなど一切存在しない。アクセルを床まで踏み込んでも、止まっているようにしか感じられない。死人と同等のパワーしか存在しない。

しかしこれはむしろ喜ばしいことだ。なぜなら、この車が動くことができるなら、それを止めるだけの制動力が必要となるが、この車のブレーキにはそれだけの力がない。それに、ハンドリングはもっと酷いし、乗り心地はショッキングだ。滝行の方がまだ快適だろう。また、ヘッドランプはガラス瓶に閉じ込めたホタルほどの光量しか発してくれない。

しかも足まで痛めてしまった。クラッチペダルがセンターコンソールに接してしまっていたため、左足を置ける場所が存在しなかった。

ここで興味深い疑問が生まれる。私はイギリスでダチアの輸入販売を担当している人間について全く知らないが、彼らは普通に鼻で呼吸をしているだろうし、一日中腕をバタバタして遊んでいるわけではないだろう。要するに、彼らは普通の大人で、おそらく大学教育くらいは修了しているはずだ。

ならばいったいどうして、そんな彼らがビスケットの皿の周りに集まって、「ロガンMCVを輸入しましょう。イギリスでもたくさん売れるでしょうし、株主も喜ぶでしょう。」などという話をしたのだろうか。

ロガンMCVは、古代のルノーをベースに目がまともに機能していない人間がデザインし、選択肢というものが存在しないルーマニアという国で製造されている車だ。それは輸入業者だって当然理解していたはずだ。

ひょっとしたら、ルーマニア出身の人間が、懐かしさを覚えてこの車を求めると考えたのかもしれない。

しかしそれも理解できない。雨をしのぐためにビニール袋を頭に被り、安物のサンドイッチを食べ、マーブル・アーチで野宿をしているようなルーマニアの移民を見ているとこんな疑問が浮かんでくる。ルーマニアでの以前の生活はどれほどに酷かったのだろうか。それが相当に酷い暮らしだったことは想像に難くないし、ならばあえてそれを思い出したいなどと思うはずもない。それ以前に、まともな帽子を買うことの方が車を買うよりも優先順位は上だろう。

rear

ならばきっと、英国ダチアは新しいナンバープレートを求める人をターゲットに車を売ろうとしているのだろう。しかしどうだろうか。以前にダチア・サンデロについて批評した際に説明した通り、今やナンバープレートの新しさなど誰も知り得ない。つまり、中古車を買った方がましだ。

私は手帳を探って昔の同級生をかたっぱしから調べた。窓から道行く人々を観察し、テレビを見ながらオーディエンスを観察した。しかしそれでも、見た目は醜く、加速性能も操作性も制動性能も大陸移動と同等に鈍い車を欲しがるような狂った人間は見つけられなかった。私はこの車に乗るくらいならと自転車に乗るようになった。それほどまでに酷い車だった。

今回試乗したのは最も安い6,995ポンドのエントリーグレードですらなかった。これは一見目を引くような安さだが、その代償はそれには決して見合わない。それに、今回試乗したモデルの価格は8,595ポンドであり、この金額以下でもまともなフォルクスワーゲン・ゴルフの中古車は買える。

しかし、ロガンMCVにはゴルフにないものが1つだけある。ゴルフどころか、ほとんどの車にないものがこの車には備わっている。実に広大な荷室スペースだ。ダチアによると、クラス最大だそうだ。シートを倒せばBMW 5シリーズツーリングよりも広い。これよりも広い荷室を求めれば、メルセデス・Eクラスステーションワゴンかボルボ・V70に行き着くことだろう。しかし7,000ポンドを切るような車はロガンMCVの他にはない。

ロガンMCVの荷室はあまりに広く、運転席が目的地に着いてからリアウインドウのワイパーが目的地に到着するまでに6時間のギャップが生まれる。この車には大家族の長期休暇旅行の荷物を収めるのに十分なだけの荷室がある。この車の室内はまるでサッカー場だ。

ここから、あるアイディアが浮かんだ。ご存知の通り、近年骨董品の価値が急落している。今ではデンマーク製のお洒落すぎて脚がないようなテーブルが売れており、ジョージアン様式のテーブルなど誰も欲しがらない。

つまり、今や骨董品屋にボルボを購入するような金銭的余裕はない。ひょっとしたら彼らにはロガンMCVがぴったりなのかもしれない。ロガンMCVならば骨董家具でも運ぶことができる。しかも、値段はV70の4分の1だ。

それに、骨董品屋という人種は過去に生きたいと願うような人間なので、この車の乗り心地の酷さやパフォーマンスの欠如にもきっと気付かないのではないだろうか。それどころか、1973年の車のようだと言って喜ぶかもしれない。

結局のところ、ほとんどの人間にとってロガンMCVは一切の価値がない。ほぼ確実に、この車は現在製造されている車の中でも最悪の車だろう。しかし、イギリスの鑑定団にとっては、この車こそ理想なのかもしれない。


The Clarkson review: Dacia Logan MCV Mk 1 (2014)