イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2011年に書かれたシュコダ・ファビアvRSのレビューです。


Fabia vRS

運輸大臣として在職中、フィリップ・ハモンドはM4からバスレーンを撤去し、オービスでの小遣い稼ぎをやめ、高速道路の制限速度を130km/hまで上げると発表した。そして彼は言うだけ言って何もせず、自らその職を辞した。当然、仕事をする人間には、何かを考え、何かをなさなければならない義務がある。医者や電話修理業者ならやるべきことも分かりやすいが、運輸大臣がやるべきこととは一体何なのだろうか。

ラジオのニュース番組「トゥデイ」のコメンテーターにもこの問題がある。ただ座って、知らないことについて口をつぐむことはできない。そんなことをすれば怠慢だと思われてしまう。それゆえ、どんなことであれ喋らなければならなくなる。リチャード・ハモンドも先日この状態に陥った。彼は深呼吸をし、走り屋をきつく取り締まるべきだと発言した。

当然、トゥデイのリスナーは、髪にジェルを付けたり、顔にニキビがあったり、巨大な排気管を付けたサスペンションのないエレクトリックブルーのシトロエンに乗っているような人間ではないため、この発言は歓迎されたことだろう。

Radio 4を聴くような人間は、走り屋を強姦者とヒトラーの間の子だと考えていることだろう。それゆえ、リスナーたちはハモンド氏の発言を聞いて、世界がより安全になると飛び上がって喜んだことだろう。

しかし、ハモンドのイギリスに対する半端な影響力を考えれば、この発言は何の意味もなさないと予想できる。

ハモンドが言うところの走り屋とは、車間を詰めて煽ったり、左側から追い越しをしたりするような人のことだそうだ。しかし、私には追い越しの何が問題なのか理解できない。実際、左側から追い越しをするような人は非常に慎重な運転をする。

私は当然のように他の車を左側から追い越す。それに、私は51歳で、走り屋というような歳ではない。確かに、かつては道路を走る誰もが最低限の道路規則を理解していた。しかし現在では、イギリスのドライバーの多くがまるで左側通行のルールを知らないかのような運転をしている。つまり、安物のトヨタ・カムリで80km/hでM40を走っているにもかかわらず、右側車線に居座り続けるような輩がごまんといる。

パッシングをしたり、右ウインカーを出したり、ハンドジェスチャーをしたり、怒って息を止めて心臓発作を起こして死んでみたりしてなんとか知らせようとするのだが、それでも全く気付かない。そもそも間違っていることをしているという認識自体がないのだ。

それゆえ仕方なく私は左側車線に移る。もしそれでハモンドの言うところの存在しない警察官に止められたとしても、自分には非はないと説明することだろう。警察が罰するべきなのは、ろくに周りも見ずに漫然と運転しているようなカムリのドライバーだ。

続いて、煽り運転の話だ。車間を詰めるような煽り運転は、ブライトリングの腕時計を付け、オークリーのサングラスをかけ、馬が描かれたシャツを着ているスカッシュ好きのアウディ乗りしかしない。確かに彼らの運転は酷いが、走り屋という表現は適切ではない。

つまり、ハモンドが実際に批判すべきなのは、左側から追い越されるような運転をしている人間と、スカッシュ愛好家だ。いずれにしても、彼はラジオ番組で何かを語るべきではなかったのだろう。

rear

しかし思うに、本物の走り屋はハモンドの発言に怒りなど感じていないだろう。彼らは今回私が試乗した白いルーフ、大径ホイールの付いた車の写真を見るのに夢中でそんなことを気にしている暇などないはずだ。

今回試乗したのはシュコダ・ファビアvRSだ。先代のvRSにはディーゼルエンジンが搭載されていたが、それでも私は気に入っていた。それはまるでブーツを履いて100m走に出場するようだった。一方の新型にはスーパーチャージャーとターボチャージャーの両方により過給される1.4Lのガソリンエンジンが搭載される。結果、最高出力は180PSを発揮し、0-100km/h加速は7秒を少し超える程度となり、最高速度は224km/hとなる。あるいは、空力性能に優れるステーションワゴンを選べば最高速度は225km/hとなる。

妙なことに、シュコダはファビアvRSがクリオ ルノースポールやヴォクスホール・コルサVXRよりもわずかに遅いことを示す比較表をわざわざ私に寄越した。それに、最大の注目装備が三点式シートベルトだと書かれたラミネートカードまで寄越した。シュコダは私にファビアvRSを嫌って欲しいのだろうか。

結局のところ、確かに私はこの車を気に入りはしなかった。しかし、この車には良い点もある。特にデザインが気に入った。理由は分からないが困惑中の第二次世界大戦の空軍少佐を彷彿とさせた。それに白いルーフも気に入った。

しかし、何よりも気に入ったのは価格だ。シュコダの比較表には書かれていなかったが、この1万6,215ポンドという価格はどのライバル車よりも安い。使えないナビやBluetoothやオートエアコンを付けても、フォルクスワーゲン・ポロGTIよりも1,000ポンド安い。しかしファビアvRSとポロGTIの中身は全く一緒だ。エンジンも、それ以外の何もかもが一緒だ。

では走りはどうだろうか。シートは快適だし、超扁平タイヤを履いていることを考慮すれば乗り味は驚くほどしなやかだ。しかし問題がある。この車にはターボチャージャーとスーパーチャージャーが付いているので、燃えるような走りを期待する。あらゆる車を右から左から問わず追い越したくなるような車であるべきだし、コーナーでブレーキをかけるような車であってはならない。それがホットハッチに求められる要件のはずなのだが、しかしファビアvRSにはそれがない。

パドルシフト変速のデュアルクラッチトランスミッションは変速が遅いし、ステアリングはローギアードだ。それにタイヤノイズはキリスト教圏で最もうるさいため、この車に乗るとゆっくり走らせてノイズを抑えたくなる。それほどにやかましい。

interior

それに、私はこのインテリアをあまり気にはしないものの、それでも暗いと言わざるを得ない。おそらく私はここから困惑中の空軍少佐のイメージを感じたのだろう。

この車の代わりに、フィアット・500、ミニ、シトロエン・DS3、トゥインゴルノースポール133を購入した方がいい。これらは走り屋のための車だ。ファビアvRSも一見するとそう見えるが、実際は違う。


Skoda Fabia vRS: The old duffer trots out in boy racer colours