イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、ジャガー・F-TYPE Sのレビューです。


F-TYPE S

フランク・シナトラがニューヨークモーターショーで新型ジャガー Eタイプを初めて見た際に「この車が欲しい。今すぐ欲しい。」と言ったという伝説がある。Eタイプにはそれだけの影響力があった。衒学者達は、実際には公称最高速度の240km/hを出すこともできない点や、「メイド・イン・イングランド」というタグはどこに行ってもオイルの蒸気に包まれることしか意味しないことを強く指摘することだろう。

しかし、Eタイプには真っ当な大人から合理的な考え方を失わせるほどの魅力があった。値段の高さも、快適性の欠如も、2.5km/Lという燃費すらも忘れさせるほどの魅力があった。誰もがどうしても欲しがった。

そして、F-TYPEの登場によりその歴史が繰り返されようとしている。早くからスパイショットが流れていたし、コッツウォルズ周辺でテストをしているカモフラージュされた個体をこの目で見かけたこともある。その時には、新型F-TYPEは洗濯機で洗われたXKに過ぎないと思っていた。しかし私は全く間違っていた。

F-TYPEは目を瞠るほどに恰好良い。ホイールアーチの膨らみも、ボンネットの長さも、平坦なトランクリッドも、リアウインドウの角度も、あらゆる部位が完璧だ。Eタイプ風に見せたいという誘惑もあっただろう。しかし、横長のテールランプを除いてそれらしいものは存在しない。つまり、この車は完璧かつモダンで、私は思わず見蕩れてフランク・シナトラになってしまった。どうしても欲しくなった。しかし、数週間後、試乗を終えて、この気持を疑いはじめるようになってしまった。

私が子供の頃、ジャガーを運転していたのは羊革のカーコートを着ているような人達だった。シートは柔らかく、静粛性も非常に高かった。それによく壊れた。ジャガーはかつて、静粛性と快適性の高さで世界に知られていた。

しかし、F-TYPEにはそのどちらも存在しない。私は中間グレードであるV6エンジンを搭載するF-TYPE Sに試乗した。この車はここ最近乗った中では、最も怒れる、最も残忍な、最もやかましい車だった。しかも、ダッシュボードにはエグゾーストをさらにやかましくするボタンまで付いていた。

ゆっくり走っていようと、先進的なフラップ制御システムによって排気音が故意にやかましくなる。まるで遠くで大砲が撃たれているかのようだ。そしてアクセルを踏み込めば、今度は自分が砲弾になったかのように感じる。

3L V6ですら野蛮なのに、5L V8ともなれば一体どうなってしまうのだろうか。トラクションコントロールの介入に抗いながらアクセルワークを調節していると、鼓膜からは出血し、髪は燃え始める。しかし、そんな音では走りを誤魔化すことはできない。

ステアリング、ブレーキ、グリップ。そのどれもがよく分からない。こんな車でそれを理解しようとするのは、機関銃で打たれながらルービックキューブをやろうとするような話だ。

しかし、血も凍てつくような猛威の内側で、ダッシュボードは非常に文化的だ。カップホルダーも、ナビも、Bluetoothも付いている。それに、パドルシフトはちゃんとトランスミッションに繋がっている。F1風に偽って消費者を騙そうとしているだけの代物ではない。むしろ、燃費を向上するためのホッキョクグマ保護のためのものだ。

それに、インテリアデザインはエクステリア同様素晴らしい。操作系に書かれた文字類は1977年的ではあるものの、ブロンズ色のスイッチ類は気に入ったし、レンジローバー風の照明の色を変更する機能も気に入った。

しかし、それでも問題点はある。ドアミラーに付いている警告灯は死角にいる車両を知らせるものだ。しかし実際は、あらゆるものを知らせる。木、ガードレール、標識、教会、林檎…。

それに、日常使用する機能を使うためには、サブメニューのかなり多くの階層を経なければならない。車をよりスポーティーにするためのボタンがまるで本当に使えるかのように付いているのだが、ステアリングやトランスミッションだけはコンフォートモードのままにしておきたいなら、ビル・ゲイツにならなければならない。

しかし、いくら頭に来るといってもこれくらいなら耐えることができる。それに、異常に高い値段にも耐えることができる。しかし、2つの問題がある。

1つ目に、今回の試乗車には荷室が付いていなかった。確かにトランクはあるのだが、小型のテンパースペアタイヤですべて塞がっていた。ブリーフケースを入れるスペースすら残っていなかった。これまでは、大した問題ではないかのごとく、このことを誰も問題視してこなかった。しかし、現実世界においては、人間以外のものを運ぶ機会もあるはずだ。この車ではそれに対応できない。

そしてもう1つが最大の問題だ。最近のジャガーはどんどん硬くなっている。開発者はニュルブルクリンクでの速さに取り憑かれ、現実を見ていないようだ。そしてF-TYPEでは完全に狂ってしまった。

110km/hで高速道路を走っているぶんには耐えられるのだが、街中で凹凸を乗り越えるとジョークのような乗り心地だ。確かに私の愛車のCLKブラックも硬いのだが、F-TYPEは別の次元にある。これほど衝撃を受け止めるのが下手な車を他には知らない。

マンホールの蓋が近づいていることに気付けば、まるでボクサーがパンチを覚悟するかのように衝撃を覚悟しなければならない。骨が軋み、ひびが入るかのように感じられ、恐怖せずにはいられない。

F-TYPEをジャガーに返却した後、私は数日間ポルシェ・ボクスターを借りることになった。この車はF-TYPE同様2シーターのソフトトップだが、走りについての悪評はない。むしろ高く評価されている。グリップも操作性も非常に素晴らしい。にもかかわらず、スピードバンプやマンホールの蓋を乗り越えてもドライバーが痛みに苦しむことはない。

しかし、それがどうしたというのだろうか。F-TYPEとボクスターを比較するのは、スーパーモデルとアンゲラ・メルケルを比較するような話だ。スーパーモデルがいくら口うるさくてアクセントが聞き取りづらく、性病に感染していて暴力癖があろうと、メルケル氏がいかに頭が良くて優しかろうと、一緒に寝たいと思うのがどちらかなど言うまでもない。

それはジャガーとポルシェも同様だ。ポルシェの優秀さは認めよう。しかし、ジャガーのデザインや音の魅力からは逃れられない。私ならばジャガーを選ぶ。誰もがそうすることだろう。

そして、結果的に得をするのは、残念ながら整形外科医だけだ。


The Clarkson review: Jaguar F-type S (2013)