イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、2011年に書かれた旧型 三菱・アウトランダー 2.2 DI-D GX4のレビューです。


Mitsubishi-Outlander

お近くの自動車ディーラーに関する驚くべき事実がある。新車を買う人の10人に6人は値引き交渉すらしないそうだ。

私もそんな1人だ。正直なことを言えば、その最大の理由は、もし値引き交渉などしようものならデイリー・メールあたりにすっぱ抜かれて信頼できない人間の烙印を押されかねないからだ。しかし、大抵の人は食事に行くたび、トイレに行くたびにデイリー・メールに付きまとわれているわけではないのだから、安物のスーツを着た男を言い負かしてやればいいのではないだろうか。

もし現金一括で購入すれば、フェラーリのセールスマンだろうとドアマットくらいただで付けてくれるはずだ。ましてやシトロエンなど、100%割引した上で1,000ポンドキャッシュバックに30年0%金利ローンまで付けてくれることだろう。

しかし実際のところは、エジプトの商人でもない限り交渉は完全に決裂してしまうことだろう。切手やコーンフレークを購入するときは誰も値切りなんてしないのに、どうして車ではそれをしようとするのだろうか。値切りはおぞましいことだ。値切りをすることに比べれば、セールスマンに向けて吐いてしまうことの方がまだ恥ずかしくない。しかし、そもそも車を購入するプロセス自体があまりに不快なため、価格交渉くらいどうでも良く思えてくる。

第一の関門として風船がある。ディーラーの入り口にはカラフルな風船が飾られており、何かあるのかと思って店に入りたいとすら思わなくなってしまう。

それに、車のショールームは、ロンドンのパークレーンにあるような店まで含めてどこも駅のトイレのような見た目だ。可能な限り早く出て行きたいと思うことだろう。ところが、安物のスーツを着た男が歓迎の握手をやめてくれないので出て行くことはできない。しかもその男は、どこに住んでいるのか、仕事は何をしているのか、支払い能力はどれくらいかなどの数々の失礼なことを訊いてくる。それに、一般的にその男は自分が売っている車について何も知らない。

何より最悪なのは、その男が店の外に出て下取りに出そうと考えている車を品定めする時だ。期待した価格の約8分の1の価格が提示されることだろう。彼はその言い訳として、車にちょっとしたかすり傷が付いていることや、グレーの車に人気がないことなどを並べ立てる。ところで、イギリスで売られている車の75%はグレーかそれに類する色だ。

続いて、席に着いて購入する車のオプションを選ぶこととなる。ここで怖いのは、既に車に2万5,000ポンド払うと決めてしまっているので、200ポンドなどどうでもいいように思えてしまうことだ。その結果、DVDプレイヤーに200ポンド、メタリックペイントに200ポンド、サンルーフに200ポンドとどんどん追加していき、気付けば総額はとんでもないことになっている。

そもそも、我々は自分の買いたい車を購入することができる。ところが、風船に惑わされる人も出てくる。結果、多くの人が前と同じディーラーで現在持っている車の新型モデルを買うことになる。それでも、中にはニーズに合った車を購入すると言って譲らない人もいる。これはまるで裸で森の中を歩き回るようなものだ。そして結局、苦しんでのたうち回ることになる。そして死んでしまうことになる。

例えば、家族がいるとしよう。大抵の人には家族がいるはずだ。そうすると、実用的な車が欲しいと考えるようになることだろう。しかし、人生を諦めた人間であると言われたくはないので、シトロエン・ピカソやルノー・セニックを購入することはできない。

しかし、車高が高くなって4WDになり、デザインが改善されれば、コンパクトMPVも悪く無いと結論付けることになる。4WDであれば、周りの人からは週末に熊狩りに行くのだと思われるだろうし、雪が降っても安心だ。

つまり、広大な室内と、4WDと、どっしりとしたスタイリングが求められる。しかし、こんな車は世界中のほとんどの自動車メーカーが売っている。さらに困ったことに、一見違うように見える車でも中身が同じだということもある。例として、シトロエン・クロスドレッサーとプジョー・4007を挙げてみよう。その中身は三菱・アウトランダーだ。その上、作っているのも三菱だ。ならばどれを選ぶべきだろうか。

もし狂犬病を患っているなら、フランス車のことなど忘れて日本のオリジナルのモデルを選ぶべきだろう。この病気には様々な症状がある。強い痛みが現れ、口からは泡を吹くようにもなるが、最大の症状は高度の脱水だ。この点において、アウトランダーは非常に優れている。なぜなら、フロントだけでカップホルダーが5つも付いているからだ。

それに、この車は3列シート7人乗りだ。しかしここで注意するべきことがある。3列目シートに座る人間はまず頭と脚を切り落とさなければならない。

三菱によると、アウトランダーを選ぶべき理由はまだあるらしい。カタログには、この車には特徴的な'ジェットファイター'グリルが付いているそうだ。私は色々と調べてみたのだが、結論としてこの説明が正しいとは思えない。何より、そもそもジェットファイターにはグリルなど付いていない。

恐らく、アウトランダーを選ぶべき最大の理由は、プジョーやシトロエンのモデルとは違い、アウトランダーに搭載される2.2Lディーゼルエンジンに可変バルブ機構が付いているという点だろう。それゆえ、CO2排出量が少なくなり、よりパワフルになり、燃費も良くなっている。しかし、その代償としてパワーバンドが非常に狭くなっており、1.5秒ごとにギアチェンジをしなければならない。変速のタイミングを示すライトが付いているのだが、これは常時点灯している。

それ以外にも問題がある。外見はつまらないし、室内もつまらないし、運転していても非常につまらない。サスペンションやステアリングはまるでダンボール製であるかのようだ。旧ソビエト連邦製の冗談のような車を除けば、これほどまでに鈍い車は他に知らない。

しかし、車好きでもない限りそんなことは気にもならないことだろう。そんなことよりも、信頼性の高さやナビの使いやすさ、それに万が一フランスの犬に噛まれた場合に備えたカップホルダーの方が重要だろう。

しかし実際のところ、これか、プジョーか、シトロエンか、あるいは、ランドローバー・フリーランダーか、日産・キンカンか、ホンダ・CR-Vか、フォードか、ジープか、フォルクスワーゲンか、どれを選ぶべきだろうか。結局のところ、このタイプの車を選ぶのは簡単だ。こういった車は基本的にどれも同じなので、ディーラーに値段を尋ねて一番安いものを買えばいい。

そうしてアウトランダーに辿り着いたとしても、決して世界の終わりではない。かといって、その世界の地球が本当に回っているのかは保証しかねる。


Mitsubishi Outlander: It’s hardly British but learn to haggle