イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェームズ・メイが英「Top Gear」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、ラーダ・ニーヴァのレビューです。


Niva

ジェレミー・クラークソンというなんでもできる男は、かつて説明書は決して読まないと言っていた。

私はこれには同意できない。アポロの宇宙飛行士は月面着陸船についての説明書を絶対に読んだだろうが、果たして彼はそんな宇宙飛行士達さえ男らしくないと言うのだろうか。

しかし、車の話となれば彼の言うことも一理ある。ビルトインナビやアジャスタブルサスペンションの付いた複雑な現代の車の取扱説明書はあまりに分厚く、ちゃんと読むためには休日を丸々潰さなければならないだろう。

しかし、男らしくないという烙印を押されようと、ここについ最近乗った車の取扱説明書から抜粋した言葉を載せよう。

「車外からドアを開ける際には、ドアハンドルを引き上げてください。ドアが開けば自動的に室内灯が点灯します。」 これは一体どういうことだろうか。理解に苦しむ。まだ終わりではない。

「ドアには鍵が付いており、車外からはボタン1を、車内からはボタン4を押すことで施錠することができます。車内からは施錠の有無にかかわらずドアハンドルを引けばいつでもドアを開けることができます。」

これは驚いた。しかもこれでもまだ終わらない。

「ドアには便利なアームレストが付いています。ウインドウを下げるためにはウインドウワインダーを回してください。」

未だに共産主義が良いと考えている人には、薄いながらもあらゆることを網羅したラーダの取扱説明書をプレゼントしたい。これは別にオートジャンブルで手に入れたものではない。これはイギリスでも発売中の新車(ただし生産が始まったのは1977年だ)のグローブボックスから取り出したものだ。

この車の名前は、ロシア語で「耕作地」を意味する「ニーヴァ」だ。

ニーヴァの輸入を行っているマーク・キー氏はおかしなロシアの帽子を被りながら、自分はソビエトの自動車産業の優秀さの象徴を輸入していると話していた。価格は1万ポンド未満で、ボディカラーにはレッド、ホワイト、ブルーがあり、VAT認定の整備工場で点検を受ける限りは2年間保証されるそうだ。メルセデスのディーラーでこの車を点検しても良いのだろうか。

現在、英国仕様のニーヴァには左ハンドルモデルしか用意されず、4シーターモデルとバンモデルが設定されている。右ハンドルモデルを製造する設備は存在するのだが、500台以上の受注がなければ製造してくれないようだ。マーク氏は現時点で6台しか売っていない。

ここで少し要約してみよう。ニーヴァはイタリア製セダンのノックダウン車ではない、ラーダ初の独自モデルとして、1977年に登場した。エンジンルーム内にはフィアット製のものが多々あるものの、駆動系やボディシェルはラーダ自身が設計したものだ。そして信頼性で高い評価を得て、オフロードレースでは成功を収め、土地持ちや皮肉のセンスが皆無な人間の支持を受けた。

現在、ニーヴァは時代の変化に伴って改良を受けており、現行モデルには、燃料噴射装置付きの1.7Lガソリンエンジンや近代的装備、それに「空力性能が改善されたフロントウインカー」が付いている。それに、シートの表皮もよくわからないが改善されたらしい。

それ以外の点では、ニーヴァは恐ろしく古臭い。この車には小さい鍵と非常に小さい鍵の2つの鍵がついてくる。ドアハンドルはモーリス・マリーナのものにも似ている。室内には、ランダムにスイッチやらダイヤルが並べられており、ドアハンドルはちゃちで小さく、うんざりするほどにプラスチッキーだ。シフトレバーはあまりに遠く、通常の変速動作をするのも大変だ。

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しかし、何よりも気になるのは、インテリアに漂う紛れもない共産主義の臭いだ。1970年代から1980年代にかけて育った人は、共産主義労働党員が乗り回していたラーダやモスクヴィッチ、空冷のシュコダを覚えていることだろう。彼らはニーヴァにでも乗っていない限りは間抜けに見えた。なぜなら、ニーヴァはそんな車の中ではまだましだったからだ。

ひょっとしたら、この理由はニーヴァが本当の意味で良い車だったからなのかもしれない。しかし、舗装道路を走る車として見れば、ニーヴァは大した車ではない。従来的なギアチェンジは良い意味で機械的だし、80馬力のエンジンの力はそれなりにあるものの、シフトレバーの操作に手こずってしまうので0-100km/h加速には17秒はかかる。ワイパーはあまり使えない。それに、オースチン・マキシを運転するような楽しさはあるが、分厚いコートを着込んで運転してみたい衝動には抗いがたい。とはいえ、ヒーターはしっかり効く。

しかし、オフロードに出れば、実際的な道具としての本領を発揮する。この車は非常にシンプルで、解体してもすぐに組み直せそうだ。この車はフルタイム4WDであり、ホイールキャップなどのような装飾的なものは一切付いていない。ハイレンジとローレンジを切り替えるレバーや、昔のランドローバーのようなデフロックも付いており、ABSのような先進的な装備は付いていない。この車は完璧に機械的であり、やっていることをしっかりと理解することができる。牽引キットやウインチ、シュノーケル、リフトキットなどを購入することもできるし、買えばそれを自分で取り付けて楽しむこともできる。

面白い話がある。最近、輸入業者のマーク氏は『オフロード・ナントカ』という専門誌に彼のニーヴァを貸し出したそうなのだが、最初は疑いを持って受け入れられたものの、後にその考えを打ち砕いたそうだ。

しかし、これは全く驚きではない。何より、この車は1,210kgと軽く、これは最もベーシックなディフェンダー90よりも約0.5トン軽い。ニーヴァと名付けられたラーダ独自設計のおそらくは特殊なタイヤは細くて扁平率も高い。ボリビアスペシャルで乗ったスズキ・ジムニーの経験からも分かる通り、これには意味があり、一方で重いオフロードカーはその重さに対処するだけのさらなる技術が必要となる。

例えば、巨大な日産・パスファインダーならば草地を仰々しく、そして重々しく動きまわるが、一方でニーヴァはまるで元気なヤギのごとく駆け回ることができる。ニーヴァは運転しやすく、かつオフロードでも使える。

つまり、農場や土地管理会社の道具として考えれば、購入すれば一生ものの相棒となることだろう。そこで左ハンドルしかないことが問題になることはないだろうし、功利主義的なインテリアも本当にオフロードを走る人には歓迎されることだろう。この車は非常に目的に適っている。

では、私にとってはどうだろうか。私はハマースミスに住んでおり、確かに場所によっては凸凹道も存在するが、それほど酷い道ではない。しかし、それでもニーヴァを褒めずにはいられない。確かにこの車のボディはボルシェヴィキ的だし、平凡なスチールホイールを履いているが、それでも素晴らしい車に見える。


James May drives the new Lada Niva