今回は、米国「Car and Driver」によるマツダ・デミオセダンのトヨタ向けバッジエンジニアリング車「サイオン・iA」の試乗レポートを日本語で紹介します。


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サイオン・iAは出来の良いコンパクトカーであることは確かなのだが、2つの大きな問題点がある。一つは、これがマツダ2(日本名: デミオ)のバッジエンジニアリング車であるという事実、そしてもう一つが、この不格好なノーズだ。

美的センスや、広島のzoom-zoomなブランドに対する忠誠心の持ちようによっては、この車の存在を受け入れることはできないかもしれない。結局のところ、iAは2016年に米国でスタイリッシュなハッチバックモデルの発売が予定されていたマツダ2のセダン版でしかない。ところがマツダは、EPAの燃費テストなど発売に向けての様々な準備を進めていたにもかかわらず、直前になって米国とカナダでのマツダ2の発売を取りやめた。表面上の理由は、より利益率の高いモデルに集中するためだそうだ。つまり、ここアメリカでマツダ2を購入するためにはサイオン・iAを代わりに購入するほかない。そして結局のところ、この車は少なくとも走りの面では期待通りの楽しさがある。

このフロントフェイスについては、日本のトヨタのデザイナーが担当したと聞かされている。なお、このモデルは米国ではサイオン・iAとして販売されるが、メキシコとカナダではトヨタ・ヤリスセダンとして販売される(ちなみに現在米国ではフランス製のハッチバックモデルのヤリス(日本名: ヴィッツ)を販売しているが、次期型モデルはマツダ2のプラットフォームを用いたモデルに変更される予定だ)。iA独自のものはバンパーやグリルなど一部のパーツに限られる。つまり、ほとんどどの角度から見てもマツダ・3(日本名: アクセラ)の小型版にしか見えず、トヨタらしさ、サイオンらしさは存在せず、むしろ見かける度にこの車をサイオンの車だと認識するのは不自然に感じられた。とはいえ、このクラスのセダンを購入するような人間はそんなことには気付きもしないだろうし、気にもならないことだろう。

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このクラスのセダンの購買層が車に求めるのは、優秀なパッケージングや充実した装備、それに走行性能の高さだ。インテリアは基本的にマツダ2と変わっておらず、そこにはマツダ車に共通のデザインがある。サイオンには不似合いなデザインに思えるものの、それがインテリアの評価を下げるわけではない。オートバイからインスピレーションを得たというメーター類や7インチのインフォテインメントスクリーン、iDriveタイプの操作系、それに3スポークのマツダのステアリングは非常に素晴らしい。

詳細な装備内容については各自で調べてもらえばいいと思うが、主な装備としては、クルーズコントロールやオートエアコン、プッシュエンジンスターター、リアカメラ、16インチアルミホイール、2年間無料メンテナンス、低速域衝突防止システムなどが挙げられる。これは、MTで1万6,495ドル、ATで1万7,595ドルという価格を考えればかなり装備は充実していると言えるだろう。ナビゲーションシステムは約400ドルのオプションで設定される。残念ながらマツダ顔にするオプションは存在しないが、やろうと思えばさほど難しくはないだろう。

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この車の何よりも素晴らしいところは、マツダのメカニズムを採用したおかげで走行性能が非常に高いという点だ。107PSを発揮するマツダ製の1.5L SKYACTIV 4気筒エンジンが搭載されており、このエンジンはパワフルというほどではないが、約1,100kgのiAの車体を楽々と街中で走らせることができる。フィールは力強くスムーズで、出力ピークの6,000rpmまで回すのはとても楽しい。最大トルク14.2kgf·mは4,000rpmで発揮される。我々は、ショートストロークでクラッチの軽い6速MT車の方を気に入った。しかし、6速ATも優秀で、発進もスムーズだし、きっちりとダイレクトに変速してくれる。シフトレバーにはスポーツシフトモードに切り替えるスイッチも付いている。

マリブからサンフェルナンド・バレーに続くワインディングロードでは、この車の優秀な操作性やボディをうまく制御するサスペンションの有能さを実感した。ステアリングからのフィードバックも十分で、ターンインは急激すぎることもなくはっきりと決まる。ブレーキも安心して身を預けられるだけの制動力を発揮してくれる。この車のリアサスペンションはトーションビーム式だが、この形式にありがちなノイズやハーシュネスを感じることもなかった。走行時の騒音については、やかましい車の多いこのクラスの中では静粛性が高い部類に入るだろう。

マツダはこれだけ素晴らしい車を作り上げたにもかかわらず、それを自分のブランドで出せなかったという点は少し残念だ。とはいえ、購入するためにはサイオンのディーラーに行かなければならないにしても、米国でこれだけの車が売られること自体に感謝すべきだろう。


2016 Scion iA - First Drive Review