イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、フォルクスワーゲン・ゴルフのレビューです。


Golf

どの携帯電話が最高かと人々が議論をする姿は滑稽ではないだろうか。正直に言えば、ほとんどの人間は携帯電話の違いなど分かるはずもない。ワインについても同じことが言える。もちろん、ブラインドテイスティングをして白ワインと赤ワインの違いを言い当てられるような熱心なワイン好きも存在するが、大半の人間はボトル4.99ポンドの安物ワインとボトル4万5,000ポンドのシャトー・ペトリュスの違いも分からないだろう。

これはどんなことについても言える。チーズも、ピザも、カリブ海の島も。先日、かの有名なロックの神と話す機会を得たのだが、彼でさえ、ギターはどれも大して変わらないので、ギターについて議論するのは無駄だと話していた。

それに、都市についても同じことが言える。バーミンガムの住人は、バーミンガムがマンチェスターやリバプール、シェフィールドよりも優れていると主張するだろう。しかし、傍観者からしてみれば、それらの都市の違いは牛乳瓶の違いほどしかない。

音楽もそうだ。スタンリー・ボールドウィンの政権下に生まれた人にとっては、ローリング・ストーンズとN-Dubzに違いはない。年寄りからしてみればどちらも「ブンブンブン」という音楽でしかない。それに、私もクラシック音楽の違いは分からない。CM音楽として使われでもしない限り、全てのクラシック音楽は、女性が大股を開いてチェロを弾いて、男たちが管を咥えて吹いているだけにしか見えない。

確かに、世の中には、バッハとショパンの違いが分かるどころか、それを演奏しているオーケストラや指揮者さえも言い当てることができる人もいる。しかし、まともに仕事をして、まともに友人のいる人間にとってはどうだろうか。違いなど分かるはずもない。

当然、この後に続く話題については予想できていることだろう。車についても同じことが言える。車はすべてフォルクスワーゲン・ゴルフだ。世の中には速いゴルフがあり、大きなゴルフがあり、安いゴルフもある。日本製のゴルフも、V12のゴルフも、アメリカ製のゴルフもある。それでも、全てが同じゴルフだ。

私はフォード・フォーカスとヴォクスホール・アストラの違いがわかるが、それは私が車オタクだからだ。しかし、私はそのどちらの車もゴルフとは違うと考えるようなオタクではない。私の母親をリンカーン・タウンカーに乗せても、彼女は自分の愛車と違うことに気付かないだろう。なぜならどちらもゴルフだからだ。母は私の愛車のレンジローバーもゴルフだと思っている。駐車はよっぽど難しいにもかかわらず。

当然、彼女は正しい。私はゴルフ以外の車を購入する人がいることが不思議だ。速い車が欲しいならゴルフGTIを買えばいい。経済的な車が欲しいならゴルフディーゼルを買えばいい。安い車が欲しいなら中古のゴルフを買えばいい。巨大なゴルフが欲しいならゴルフプラスを買えばいい。オープンカーが欲しいなら…ここでゴルフコンバーチブルを買ってはいけない。これは酷い車だ。代わりにフォルクスワーゲン・EOSを買えばいい。これもゴルフだ。

ゴルフはロールス・ロイス ファントムと同じく5人乗りだ。それに、ブガッティ・ヴェイロンと同様に150km/hでも快適に走ることができる。スイスと同じくらいに信頼性が高いし、高級家具と同じくらいに快適だし、メソジストのおばさんと同じくらいに倹約家だし、全てひっくるめて考えればコストパフォーマンスも高い。

ゴルフの素晴らしさについても言わせてほしい。フォルクスワーゲンは新型モデルの開発に丸5年をかけている。開発は全くの白紙から行われている。そうして生まれたのが代わり映えしない新型ゴルフだ。

もし、テーブルという概念を一から考え直したとしても、出来上がるのは代わり映えしないテーブルだ。同様に、自動車という概念を一から考え直せば、自然とゴルフが出来上がる。

荷室は従来よりもわずかに拡大している。それに、ボディサイドにはちょっとしたプレスラインが追加された。また、価格も安くなっている。それに、全長・全幅ともに拡大しているにもかかわらず、100kg軽量化されている。つまり、新型ゴルフはメソジストのおばさんの愛犬と同じくらいに倹約家だということだ。いや、犬はどれも同じなので、犬とだけ表現すればいいのかもしれない。それどころか、ペットは皆同じだ。どれも同じフィールドに立っている。水槽に住まうものもいるし、喉を鳴らすものもいるし、貝殻が付いているものもいる。しかし、どれも餌と住処が必要なことは変わらない。…横道にそれてしまった。

経済性は新型ゴルフのトピックだ。"車"が欲しいならば、可能な限り燃料を使いたくはないだろう。他の自動車メーカーは自分達の製造するゴルフに特別なもの(例えば、インディペンデントリアサスペンション)を付けているが、それはごく少数の目利きのためのものに他ならない。それ以外の大半の人々にとっては、インディペンデントリアサスペンションの利点などパキスタンの山奥で行われるクリケットの試合結果よりも興味のない事柄だ。

最近の車にとって、重要なことトップ10は以下の通りだ。経済性、経済性、経済性、経済性、経済性、経済性、経済性、経済性、経済性、安全性だ。

私の息子は17歳を超え、車を欲しがっている。彼は速さを求めているだろうか。見た目の良さを求めているだろうか。快適性を求めているだろうか。まさか。彼は経済性しか気にしていない。それは何も彼に限ったことではない。

フォルクスワーゲンは当然これを理解しており、それゆえ、今回試乗した1.4L TSI GTには低速巡航中に4気筒エンジンを2気筒に変えるシステムが付いていた。そして、信号で止まると全てがオフになる。それに、リッターあたり可能な限りの距離を走るためのヒントがダッシュボードにメッセージとして表示される。例えば、回転数が1,300rpmを下回るまではクラッチを切るべきではないというメッセージが流れた。

現代、ほとんどの人々はエンジンがどのように稼働しているか理解していないため、こんなアドバイスにも意味がある。彼らはクラッチを切って惰性走行すれば燃費を節約できると考えている。それは違う。ギアと切り離されたエンジンはアイドリング状態になり、その状態を安定させるためにはガソリンが必要となる。しかし、クラッチを切らずに進めば、エンジンはほとんどガソリンを使わない。

新型ゴルフは、軽いし、片肺だけで走ることができ、燃費を向上するヒントを与えてくれる。それゆえ、25km/L程度を出すことができ、これは現在販売されている車の中でもかなり燃費が良い部類に入る。つまり、車に求められる10の事項のうち、9つはカバーしている。そして、10番目についても、前方レーダーシステムが付いており、ドライバーが事故の危険に気付かなくてもブレーキをかけてくれる。

では、走りはどうだろうか。気分によって様々なセッティングを選択することもできる。そのどれも悪くない。スピードはどうだろうか。悪くない。ハンドリングも、快適性も、質感も悪くない。何もかもが悪くない。オプションのセルフパークシステムまで装備されていたのだが、それも悪くなかった。

正直な話、この車の批評をするのはフローリングの批評をするような話だ。「求められた役割は果たしてくれる」と言う以外に言いようがない。それゆえ、結語を書くためにオックスフォード英語辞典を参照する羽目になった。Golf。名詞。道路を走る車両。普通、車輪が4つついており、内燃機関により駆動し、少数の人員を輸送することができる。


The Clarkson review: Volkswagen Golf Mk7 (2013)