今回は、米国「AUTOWEEK」によるピレリ・ワールドチャレンジ参戦車両「アキュラ TLX GT」の試乗レポートを日本語で紹介します。


GT

レーシングカードライバーになれるならばどんな犠牲も惜しまないと言えるだろうか。その答えを出す前に本物のレーシングカーに乗ってみた感想をお伝えしよう。

我々は西ミシガンにある全長3.4kmのジンジャーマン・レースウェイに招待され、ピレリ・ワールドチャレンジ参戦車両であるリアルタイムレーシング アキュラ TLX GTを市販モデルのTLXと共にテストした。

まずは市販モデルのTLXにサーキットで試乗した。4WDのTLXもサーキットで走らせると楽しい。この9速ATには以前問題があったものの、スポーツプラスモードにすれば、減速してコーナーに進入し、コーナー出口で全力加速をするのに完璧なセッティングとなった。パドルシフトを使う必要性にも駆られることはなかった。

他の高級スポーツセダンと比べるとある程度のロールはあるものの、オプション装着のミシュラン パイロットスーパースポーツXLは驚くほどに静粛性とグリップを両立している。それに、多少全開で走らせたくらいではブレーキがフェードする兆候も感じられなかった。

では、レーシングカーの話に移ろう。

今回の試乗は真剣なものなので、ノーメックスのジャケットを着て耐火靴の紐を結びながら、少し緊張していた。今回試乗する4WD・600馬力の車は2台しか存在せず、いずれも数週間後には実際のレースに使われることになっていた。今回はリアルタイムレーシングのドライバーであるピーター・カニンガム氏とライアン・エバーズリー氏がサポートをしてくれ、自分達の相棒が他の人間により操られる姿を心配そうに見ていた。

狭い車内に詰め込まれ、精神病院の患者のごとく拘束されるということはあらかじめ知っていたものの、レーシングカーの視界の悪さまでは予想していなかった。当然、このシートは自分ではない人間に合わせて設計されたものなのだが、目線はかろうじてダッシュボードの上にあるくらいだったし、ルームミラーからは後ろなど見ようがなかった。ミラーには、ロールケージと配線と、その隙間からかろうじて見える空だけが映っていた。

結局、後ろを走っていた他の車には迷惑をかけてしまった。私の運転が下手だったたということもあるだろうし、後ろを走っていたドライバーが我々よりレーシングカーに慣れていたということもあるだろう。

TLX GT 16 - Body Surface Commonality
市販モデルのTLXとTLX GTの違い。青い部分が変更されている。

サーキットを走って、電動パワーステアリングの扱いやすさを再認識させられた。ステアリングはセンター周辺で非常に軽く、コーナーに差し掛かっても少し重さを増すだけだった。アクセルペダルも同様に軽く、床まで踏み込むことも簡単にできたのだろうが、ハーフスロットルでも十分に速いと感じたため、そこまで試すことはしなかった。この車は真っ直ぐ走らせるためにも腕が必要だ。TLX GTはハードに加速させると暴れてしまい、常にカウンターステアを切る必要があった。

ステアリングやスロットルは疲労感を最大限減らすセッティングとなっているそうだ。この車にもし重いステアリングが付いていれば、45分間運転するだけでもくたくたになってしまうことだろう。

しかし、ブレーキを使うのは常に大変だった。数ラップしたくらいではブレーキが熱を持つこともなかったのだが、減速する度に強く踏み込まなければならず、私の右足の大腿四頭筋は疲労困憊となってしまった。

今回の試乗では速度に気を払っている余裕などなかったが、それで良かったと思う。エンジンの音を聞いていると、まるで空でも飛んでいるかのように感じた。予想だが、最高速度はバックストレートで190km/hは出ていたのではないだろうかと思う。うまくすればそれ以上のスピードを出すこともできるだろう。音に関して言えば、ストリートバイクのエグゾーストを耳に直に当てたような感じと言ったら理解してもらえるだろうか。6,000rpmを超えると肉体的な痛みさえ感じられ、耳栓をしなかったことを後悔することとなった。

それでもレーシングカードライバーになりたいという望みを捨てきれないなら、今度は臭いについて説明しよう。

嫌な臭いに耐えられないようなら、このスポーツは向いていない。最初にサーキットに着いた時、涼しい風も吹いていて心地よかった。しかし、ピットで車に乗り込むと、ガソリンの臭いが立ちこめ、車内にも充満していた。

レーシングカードライバーという栄光には、当然様々な犠牲が付き纏っている。しかし、だからといって、今回の経験からその一端を知って、レーシングカードライバーへの夢は潰えるだろうか。そんなはずはない。それでもレースとは胸が高鳴るものだ。