イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、セアト・レオンX-PERIENCEのレビューです。


Seat-Leon

この記事は私がこれまで書いてきた中でもかなり重要なものだ。なぜなら、31年間車のテストを行ってきて、これまで一度もセアトを運転したことがなかったからだ。セアトから試乗を頼まれたこともないし、そもそも試乗する意味が見出せなかったので私の方から試乗させて欲しいと頼んだこともなかった。

ジャガーやホンダやシボレーとは違い、セアトはスピードや美しさ、パワーに対するビジョンや情熱を持つ1人の人間が立ち上げた自動車メーカーではない。セアトはスペインがまだ発展途上にあった頃、スペイン政府が国民にビーズ玉や鶏、その他当時貨幣として用いられていたあらゆる物品を、車をはじめとする外国からの高価な輸入物に使わせたくなかったために設立された。

自国に工場を建て、安価な小型車を製造して輸入車に多額の税をかけるという手法は新興国ならどこでもやっていることだ。当然、スペイン人は85億6,000万ポンドのフォルクスワーゲンの代わりに2.75ポンドのセアトを購入した。

これは一見すると健全で経済的にも思えるが、ラバと交換で販売され、競合車もいない中で公務員が財布の紐を握って作る自動車など、ろくな車にはならない。

政府は名前すらまともに付けなかった。社名はスペイン語のSociedad  Española de Automóviles de Turismo(スペイン乗用自動車会社)の頭文字を取っただけなのだが、「英語圏で販売するとしたら"seat"なんて名前はちょっと間抜けではないだろうか」とは誰も考えなかったのだろうか。

いずれにしろ、少なくともスペイン先進技術社という名前にはならなかった。

私が初めてセアトの存在を知った頃、セアトはフィアット・パンダをライセンス生産していたのだが、私はそんな車を運転してみようとは思わなかった。というのも、つい先週まで互いに銃で撃ち合い、牛に剣を突き刺していたような連中の作ったイタリア車などどうして気になろうか。

結局、フィアットとの関係は解消され、セアトは独力でやっていこうとした。しかし、それでまともにやっていけるはずもなかった。そしてすぐに上層部の人間が支援を乞うてフォルクスワーゲンの本部へと向かった。

現在、セアトはフォルクスワーゲン車を製造している。見た目はフォルクスワーゲンとは違うが、どんな部品を調べても、つまり、セアトのどんなエンジンを調べても、どんなトランスミッションを調べても、どんなスイッチ類を調べても、ゴルフのものと全く同じであることが分かる。

では、なぜあえてセアトを買う人間がいるのだろうか。ドイツ人が作っているものと全く同じものをスペイン人が作ったところで、スペイン人がドイツ人に勝てる道理があるだろうか。

答えは簡単だ。セアトのゴルフであるレオンは、フォルクスワーゲンのゴルフよりも安い。しかしさらに問題が出てくる。もし安いゴルフがほしいなら、シュコダ・オクタヴィアを購入することができる。これはチェコ人が作っているが、チェコ人のほうが車を作るのは得意だ。

結局、セアトを購入する人は、地中海の才能や活気が散りばめられた安いゴルフを求めているのだろう。ここで、私のもとにやって来たセアト・レオンX-PERIENCE SEテクノロジーの試乗車について疑問が生まれてくる。

地中海の才能とはなんだろうか。活気とは?

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確かにドアミラーは格好良いが、それ以外の部分はマイクロソフトのKIN以来の金属、ガラス、プラスティックの無個性な無駄遣いだ。しかもボディカラーはブラウンだった。

セアトはこの色をアドベンチャーブラウンと称してジャズ風に仕立てようとしているようだが、実のところはそんな色ではない。冒険の色とは紫とライムグリーンだ。ブラウンのホビーキャットやジェットスキーや女性用下着など見たことはないはずだ。もっとも、90歳の女性の穿く下着はその限りではないかもしれないが。

この車は乗客を晴れた日のバルセロナ中心部の楽しげなレストランにいるかのような気分にさせるとされているが、実際のところはこの車にそんな要素は存在しない。私はこの車を運転しながら、一体誰がこんな車を欲しがるのだろうかと想像してみた。

しかし、「安いフォルクスワーゲンが欲しいが、チェコ人じゃなくてスペイン人の作った車がいい」と言うような人間に心当たりは全くない。

とはいえ、そういう人も存在するのだろう。そんな奇特な人のために続けることとしよう。

今回試乗した車には可能な限り燃費を高めようとチューニングされた150PSのターボディーゼルエンジンが搭載されていた。1秒間に100万回、アクセルペダルの踏み具合や選択されているギア、気圧、外気温、水温がチェックされ、どれだけの燃料をシリンダーに送るべきかが正確に判断される。結果、発車時に高回転を維持しないとエンストしてしまうようになってしまった。

それに、低速走行時に2速を使おうとすると振動が起こって停止してしまい、周りの人には笑われ、自分でも惨めな思いをする羽目になる。全く同じエンジンを載せているゴルフディーゼルを以前に運転して以来、こんなにエンストをしたことはなかった。

X-PERIENCEという車名は、この車がステーションワゴンであり、ゴルフオールトラックやシュコダ・オクタヴィア スカウトに載っている4WDシステムが備わっていることを示している。それに、4WD化による恩恵を受けるだけでなく、通常のレオンよりも地上高が高くなり、傷みやすい部分のパネルはプラスティックに覆われる。農場を走らせる車としては悪くないかもしれない。エンストを忘れれば。そしてほとんど同一のシュコダの方が安いことも忘れれば。確かに荷室は広大だ。

interior

それに、ゴルフと同じステアリング、ゴルフと同じナビ、ゴルフと同じオートエアコン、ゴルフと同じダイヤルが付いている。ただし、シュコダにも全く同じことが言えるし、こちらのほうが安い。

大型ガラスサンルーフは気に入った。しかしこれは1,060ポンドのオプションだ。それどころか、今回の試乗車に付いていたほとんどの装備品がオプションだった。では、2万6,905ポンドの素のレオン X-PERIENCE SEテクノロジーには果たして何が付いているのだろうか。恐らく、タイヤ4つとシートだけだろう。

しかし、運転してみると、まるでランボルギーニ・アヴェンタドールのようだ。冗談だ。実のところゴルフやオクタヴィアと同じような走りなのだが、早速飽きてしまったので思わず変なことを書きたくなってしまった。

というわけで、そろそろ結論を書こう。今回、セアトがこの車を貸してくれたおかげで、私がセアトに抱いていたイメージがより確実なものとなった。結局、時間の無駄だった。

もしレオンがスペインらしさのある素晴らしい車だったら今回の試乗の意味を見出だせたことだろう。真面目なフォルクスワーゲンに代わる陽気なフラメンコになれたのかもしれない。

しかし実際はそんなこともなく、試乗したレオンは退屈だった。それにブラウンだった。それに、レオンと中身は全く同じながら、見た目が良くて価格も1,500ポンド安いオクタヴィアスカウトが存在する。


The Clarkson review: Seat Leon X-Perience (2015)