イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、モーガン・スリーホイラーのレビューです。


3wheeler

今となっては、自動車会社を始めようという人などほとんどいないだろう。それでも、これから新たに自動車会社を始めようという奇特な人がいたとして、今後の世界を担っていくであろうコンパクトハッチバックや三輪ソーラーカーを作ろうなどとは思わないだろう。彼らが作ろうと思うのは、間違いなくスーパーカーだ。

普通に考えればこれは馬鹿げている。グラスファイバーの名工を友人に持っているかもしれないし、取引先の銀行の頭取は趣味でレースをしており、クワッドターボ・マルチスーパーチャージャー付きの500km/hロードロケットの開発に興味を持ってくれるかもしれない。それでも、結局生まれるのは小さな商店に過ぎない。一方でフェラーリやランボルギーニはスーパーマーケットだ。スーパーマーケットのニンジンは、零細商店のニンジンよりも新鮮で安い。結局、その後に待っているのは、親切にしてもらった銀行からの援助の打ち切りだ。

ノーブルにケーニグセグ、ゼンヴォ、スパイカー、それにサリーンなどといった自動車メーカーが努力をしているのは知っているし、その車は面白いし賞賛に値するとは思うのだが、残念ながらこういったメーカーはいずれ淘汰されてしまうだろうと言わざるをえない。

ジュネーヴモーターショーには、光の当たらないような会場の隅のスペースで、自分が貯金をはたいて作り上げた酷い車が誰かの目にとまることをずっと待っている痛ましい男が毎年いる。どうしてそんなことをするのかと誰もが不思議に思うことだろう。

フェラーリ・458イタリアは、攻撃的で、驚異的で、扇情的な車だ。パワーと技術と技巧とデザインと怒りとスピードとGの融合だ。この車は圧倒的な熱意を持った人間が、最先端の工場で作り上げている。申し訳ないが、家の庭に建てた掘っ立て小屋ではこれに勝る車など作れない。

ここでモーガンの話に繋がる。他の小さな自動車メーカーとは違い、モーガンは巨人に立ち向かおうとはしていない。ただ他のどの会社も作っていない車を作っているだけだ。

モーガンが作っているのは、今をまだ1938年だと信じきっている人のための車だ。異質な車好きのための車だ。言い換えれば、私向けではない車だ。最近、モーガンはエアロという車を作り、車を第二次世界大戦開始時期頃まで近代化しようとした。しかし、こんなことをすれば顧客を失う危険がある。

もちろん、モーガン内部の人間もそう考えたようで、時代を自動車が開発された時代まで巻き戻した。ただし、四輪自動車ではない。モーガンは今の時代になって三輪車を作り始め、現代としては異様極まりない車を世に出した。

車名はそのままスリーホイラーで、デザインや製造は新石器時代的なアプローチで行われており、バイク用のエンジンが搭載されている。

最初はハーレー・ダビッドソンのエンジンが載せられる予定だったのだが、後にX-WEDGEというエンジンに変更された。これは2L 空冷 V2エンジンだ。しかも、このエンジンは車の中には搭載されていない。エンジンは車外へと放り出され、まるで巨大で複雑な形状のバンパーのようにフロントに鎮座している。これは何故かと言われても、何の理由もないだろうとしか言えない。

エンジンが空冷なのだから、外に露出していたほうが良いという人もいるかもしれないが、それが正しいとは思わない。フォルクスワーゲン・ビートルのエンジンも空冷だったが、車内に搭載されていてもオーバーヒートなどすることはなく、何の問題もなかった。思うに、こんな車を買う人は、これを見て郷愁に浸り、モノクロの世界を楽しむのではないだろうか。

そして、フロントには2気筒エンジンが搭載される一方で、リアにはタイヤが1つしかない。これを見て、きっとモーガンの熱烈なファンは興奮するのだろう。しかし私はこう思う。
3つ足の動物など見たことあるか? まともに動くはずがないじゃないか。

ところが、驚くべきことに、この車はまともに動く。リライアント・ロビンという車は曲がり角の度に横転する。これはフロントが1輪だからだ。しかしモーガンは逆にリアを1輪にしている。結果、安定性が素晴らしくなった。この車を安心して運転できるようになるためには時間が掛かるが、慣れればドニントン・パーク・サーキットのオールドヘアピンを130km/hで走り抜けることさえできる。これは、本物の車の4分の3のスピードだ。

では、他はどうだろうか。振動は酷いし、身長が90cmより高ければ四肢を家に置いて車に乗る必要がある。それに、3万ポンドという値段は高い。

しかし、正直に言うと、私はこの車のことが気に入った。第二次世界大戦の戦闘機(モーガンのオーナーにとっては新しすぎる)のような塗装も気に入ったが、何よりも私が気に入ったのは、この車にある他の車とは全く違った感覚だ。

違いのひとつは、ブレーキペダルを踏むのが非常に大変だという点だ。それ以外には、頭には常に高速気流が当たるし、腕はエンジン同様車の外だ。

エンジンすら普通ではない。気筒数が2つしかないため、トルクは突発的なスタッカートとして出てくる。1秒間勢いづいたと思えば、次の瞬間には元気がなくなってしまう。搭載されるマツダ・MX-5(日本名: ロードスター)のトランスミッションに合うように、エンジンに緩衝部品も付いている。

にもかかわらず、タイヤ痕でドーナツを描くこともできる。この車を5分も運転すると、私は自分がケネス・モアなのではないかとさえ感じるようになった。

この車は速くない。安全でもないだろう。実用性もない。快適性は…刺されることに比べればましだ。にもかかわらず、この車は楽しかった。物凄く楽しかった。

こう表現してみよう。一生に一度だけの短距離飛行をするとしよう。移動手段として、快適なエアバスA320と、隙間風の入って騒音の酷いスピットファイアのどちらを選ぶだろうか。私なら後者だ。


Morgan Three Wheeler: I say, chaps, who needs a fourth wheel?