イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英国「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを紹介します。

今回紹介するのは、2011年に書かれたジャガー・XF 2.2ディーゼルのレビューです。


XF

1995年に、フォードは驚異的なコンセプトカーを発表した。カーボンファイバー製の小型2シーターロードスターだ。誰もが素晴らしいと思った。誰もがこの車を欲しいと思った。デトロイトのお偉方はこの車の商品化を実現するべきだった。

ところが、悲しいことに、このコンセプトカーがショールームに並ぶ頃には、ルーフが追加され、ハッチバックになり、シート地は安物に変わった。それに、カーボンファイバーはスチールに替わり、外見はティーポットのようになってしまった。その名もKaだ。

10年が経ち、フォードは同じ過ちを犯した。フォードはイオシスという素晴らしいコンセプトカーを発表し、次期型のモンデオがこれに近い外見になると公言した。そして、実際のモンデオは、このコンセプトカーとは似ても似つかないものとなった。

これこそがコンセプトカーの問題だ。コンセプトカーは灯火器規制に対応する必要はないし、フェンダーからタイヤがはみ出していても問題にならない。衝突安全試験を受ける必要もないし、量販に向けた予算審議を受けることもない。コンセプトカーは自由な車だ。そして、非現実的な車だ。

そもそも動く必要すらない。昔、プジョーはイギリスのモーターショーでヨットとグライダーと大人のおもちゃの間の子のような車を発表したことがある。ただ、この車にはエンジンが載っていなかった。そもそもエンジンが載るようなスペースすらなかった。

最近のコンセプトカーはそれでも現実的になってきている。ただ、それでも、細かい部分――太いタイヤにファンキーな灯火器類、奇妙なドアハンドルなど――は自動車メーカーの予算審議でコストが掛かり過ぎると跳ね除けられるか、複雑すぎて生産ラインでは作れないと跳ね除けられる。結果、ショールームに並ぶ市販モデルは、モーターショーで女体に囲まれるコンセプトカーに見劣りしてしまう。結局、コンセプトカーは失望を生むだけの存在だ。

輪にかけて最悪なのがジャガーだ。近年のジャガーのコンセプトカーはほぼ例外なく我々を深く失望させている。この会社はコンセプトカーを可能な限り格好良く見せることに執心している。要するに、ジャガーのデザイナーはここ20年の間、会社が実現できないデザインにずっと取り組んでいた。

ところが、ジャガーは先日、C-X16というコンセプトカーを発表した。この車を注意深く見てみても、大量生産が不可能に思える部分は見当たらない。リアウインドウが横ヒンジで開くとい部分についてはよくわからない法規制によって実現できないかもしれないが、それ以外の部分は非常に現実的だ。この車は実現可能な車だ。何より、この車のデザインは素晴らしい。

見た目はジャガー・XKとアストンマーティン・V8のどちらにも似ているが、デザインをしたのが同じ男なのだがらそれも当然のことだ。ただ、その2台のどちらよりも小さく、そして安い。価格は5万5,000ポンド程度になるそうだ。その値段でスーパーチャージャー付きのV6エンジンが搭載され、F1でいうところのKERSというエネルギー回生システムも付くらしい。ステアリングの小さなボタンを押せば380PSがガソリンエンジンから発揮され、電気モーターの補助により一時的に95PS増加する。果たしてこれは市販車になっても変わらないだろうか。それは未知数だ。

正直に言おう。私はこの車の登場を楽しみにしているし、特に後に続くと言われているコンバーチブルモデルが楽しみだ。私がジャガーにお願いしたいのは1つだけだ。オーバーステアに取り憑かれたオートカーの連中を満足させるのも重要だが、この車を購入する人間の大半は腰の悪い中年だということを忘れないで欲しい。そんな人々はちゃんとした椅子を望んでいる。そこを是非重視して欲しい。

ともかく、今回の主題は新型ジャガー・XFだ。先日、新型アウディ・A6についてレビューした際に、私はジャガーには悪いところがいくつかあると書いた。ただ、ジャーナリズムの悪癖でそれが具体的に何であるかまでは言わなかった。ただ、正直に言うと、それが何かは思い出せなかったのだ。

そしてXFにマイナーチェンジが施された。ボンネットの形状は改められ、フロントエンドのデザインが刷新された。見た目は良いのだが、BMW 5シリーズやアウディ・A6ほどには良くない。この2台のほうがなぜか現代的で高級感がある。

内装にも同じことが言える。ジャガーのデザイナーが求めたシンプルさは評価できるが、やろうと思えばもっとうまくできたのではないだろうか。あまり言いたくはないのだが、安っぽく見えてしまう。例えば、ヘッドランプスイッチは方向指示器レバーに配されている。ここにそれがある理由は1つしかない。コストを削減するためだ。それゆえメルセデスやBMWはそうしない。なぜなら、我々がそんなことはお見通しだということを知っているからだ。

ただ、何よりも重要な変更はエンジンだろう。新型XFには2.2L 4気筒ディーゼルが搭載される。4気筒のディーゼルエンジンが搭載されるのはジャガー史上これが初めてだ。ジャガー・ランドローバーの他のディーゼルエンジンの出来が素晴らしいので、このエンジンの出来にも期待していた。

ただ、残念ながらこれはジャガーのエンジンではない。基本的にこれはフォードやシトロエンやプジョーが使っているものと同じエンジンで、あまり良いエンジンであるとは言えない。BMWが使っているエンジンほど出来が良くなければ燃費性能にも優れていない。それに、現在イギリス政府は、馬鹿げたことにテールパイプから出てくるガスによって税額を決めている。そしてジャガーのエンジンはBMWのエンジンよりもCO2排出量が多い。

他にもある。現代の車に搭載されるエンジン制御用コンピューターは1,000分の1秒単位で車の状況を制御している。温度をチェックし、ドライバーの足の位置をチェックし、選択されているギアをチェックし、気圧をチェックし、その結果をプログラムされたマッピングと照らし合わせて、パワーと燃費性能の最高のバランスを実現できるようにシリンダーに投入する燃料の量を決定している。

そして、CO2排出量を低減するため、ジャガーはエンジンがまともに動く最低限の燃料を使うようなマッピングを採用したようだ。結果、街中で走っていると常にエンスト寸前かのように感じられる。8速ATを「スポーツモード」にすればそれも解消できるが、それはディーゼルを買った何よりの理由を否定する行為だ。

全体的に見て、この車はあまり良い車だとは言えない。ほとんどどの点を見ても、BMW 5シリーズの方が優れている。

ただ、少なくともここからあるアイディアが生まれた。もし、自動車メーカーが市販車よりも醜くてつまらないコンセプトカーを発表したらどうだろうか。そうすれば、ショールームで新車を見た時、誰もが失望ではなく喜びを覚えることだろう。


Jaguar XF: Oh grunting frump, you looked so fine on the catwalk