イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「Driving.co.uk」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
今回紹介するのは、アルファ ロメオ 4Cのレビューです。

私のコーヒーマシンは全く使いものにならない。使っているのはガジアなのだが、ボタンを押して本物のコーヒーが出てきたためしがない。
これは常に水を要求しており、タンクに水を入れると、今度は"トレーを空にしてください"と表示されるのでそれに従うのだが、まだ空になってはいないと表示される。なので、何度も何度も空にしようとして、最終的にトレーは溶鉱炉で働く人の顔くらいに輝くようになる。そしてトレーを機械に戻すと、"トレーが挿入されていません"と表示されるので、今度は丁寧に入れてみるのだが、それを何度繰り返しても、"トレーが挿入されていません"という表示がされるだけだ。
"豆を加えてください"と表示されるので、900ポンドのイリーのコーヒー豆をトレーをずらさないように慎重に豆入れに入れる。すると、"ユニットを清掃してください"と表示される。なので、男性のあらゆる本能を抑え、取扱説明書を取り出すのだが、そこにはクランプAを取り外してノズルBを2時間作動させるようにと書かれており、それを実行して再びコーヒーマシンを作動させると、今度は"不純物を除去してください"と表示される。
大抵の場合、私がモーニングコーヒーを飲むのはアフタヌーンティーの時間だ。しかし、言うまでもなく、このコーヒーはインスタントコーヒーと比べて圧倒的に美味しいので、これだけのことをする意味はある。
ペットにも同じようなことが言える。犬はほとんど常時監視していなければならない。犬はゴミ箱を漁り、骨を盗んでは咥え、郵便配達員には噛み付き、雨が降っていても散歩をしたがり、意味もなく夜中に吠え、獣医が酔いつぶれていて来れないクリスマスに限って病気になる。にもかかわらず、猫を飼うよりも犬を飼う方が充足感が得られる。
そしてここから連想されるのがアルファ ロメオだ。私はかつてGTV6に乗っていたのだが、これはまるで犬が設計したコーヒーマシンのようだった。夜になればタイヤから空気が全部抜けるし、クラッチディスクがフライホイールと結合し、ギアが繋がってプロペラシャフトが動き出したかと思えば、もの凄い音が鳴り、後輪が動かなくなる。これは日常的な悪夢だ。
しかも、たとえ晴れていても、生理前でなくても、そもそも運転が非常に怖い車だった。ステアリングは重すぎたし、ドライビングポジションは類人猿に合わせられていたし、2速は使えなかったし、ハンドリングはまるでヘロインをキメているかのようだった。
GTV6だけではない。現在販売されている車では、ジュリエッタは退屈だし、ミトは酷い車だ。最近の歴史を紐解いてみれば、8Cは見た目ほどに良い車ではなかったし、SZはあべこべな車だった。33も、75も、156も、159も、164も。ただ、狂人がデザインしたというだけで、凄い車ではない。家のガレージにオイルの水溜まりを作るだけの車だ。
それでも、アルファ ロメオは私の好きな自動車メーカーだ。それでも私は、アルファ ロメオを所有したことのない人間を車好きとは言えないと信じている。では、この理由は何なのだろうか。
1960年代に遡り、その理由をGTAに求めるのも無駄だ。確かにGTAは素晴らしい車だが、これはゴミの奔流の中に紛れるただ1台の素晴らしい車でしかない。この1つの業績だけでアルファを評価するのは、ムッソリーニが母親に花を贈ったことを理由に彼の行った数々の犯罪を無視するような話だ。
色々と考えてみたが、アルファはその長い歴史の中でも、本当に良い車はせいぜい4台か5台しか作っていないと思う。そして、ここ30年間、アルファはそんな車を作っては来なかった。
それでも、アルファへの愛は潰えることがない。その理由はきっと、我々がアルファの底力を知っているからだと思う。我々は、ミニ・フェラーリを思い描いている。恐ろしく美しく、チップスと同じくらいに安く、楽しさを追求して作られている。そこで今回紹介する車だ。4Cだ。悲しいことに、写真ではこの車を判断することはできない。実物を見れば、実に素晴らしく感じることだろう。ヘッドランプには難があると言う人もいる。確かにそうかもしれないが、果たしてシンディー・クロフォードがほくろの存在により台無しになるだろうか。いや、一切問題はない。
しかし、4Cで最も凄いのはルックスではない。構造だ。4Cの登場以前には、もしオールカーボンファイバーの車が欲しければ、マクラーレン・MP4-12Cのようなマシンを買うか、F1カーを買うかしかなかった。こういう車を作るためにはコストがかかるが、アルファはやってのけた。
これにより、軽さを手に入れた。そして、この車はあらゆる面で軽量化を追求している。もし高級感とか防音性能とか充実した装備を考えているなら、そのことは忘れるべきだ。この車にはナビなど存在しない。パワーステアリングさえない。
結果、この車は1トンを切り、つまり大排気量のエンジンは必要とはならない。車の中央部分に搭載されるのは、1,742ccのターボエンジンで、このエンジンはあまりに軽いため、エンジンがどこかに行ってしまわないようにしっかりとボルト留めされている。
わずか4気筒しかなくてがっかりしただろうか。しかしがっかりすることはない。というのも、軽さのおかげで、0-100km/h加速は4.5秒を記録し、260km/hを出すこともできるからだ。それに、17km/Lという燃費も武器になりそうだ。
とはいえ、私はそんなことは気にもしない。私はこの車が大好きだ。重さなどあってないようなものなので、コーナー前の減速はあまり必要ない。それに、グリップはかなりある。それに音もだ。しかも、すごい音だ。うるさい。そして、狂っている。
インテリアはショッキングだが、軽さを得るためには十分払う価値のある代価だ。そして、軽さこそ、誰もが求めているものだ。なぜなら、軽ささえあれば、ホッキョクグマと車好きのどちらも幸せになれるからだ。そして、このアルファに乗れば、私は本当に幸せになれる。私は晴れた夕方にこの車に乗ってコモ湖の周りを走ったのだが、ほとんど泣きそうになってしまった。人生で最上の時だと思った。
少しつまらない話をしよう。シートは私に合っていた。トランクは広かった。計器類は使いやすくて見やすく、走行速度を見るためにメガネを使う必要もない。それに、車の特性を変えることができる。ダイナミックモードにして、ずっとそのままにしておけばそれで良い。
欠点は数えるほどしかない。トランスミッションはすこし頭が悪いし、ステアリングは期待していたほどシャープではない。それに、この車はSLS AMGより幅が広く、つまりユタ州よりも幅が広い。そして値段は4万5,000ポンドだ。カーボンファイバー製のミニスーパーカーとしては、全く高い値段ではない。しかし、これはポルシェ・ケイマンと価格帯が被る。
言うまでもなく、ケイマンの方が我々には合っている。頑丈で仕上がりも良く、高級感もある。しかしこれは我々が求めるのをやめるべき類のものだ。我々はアルファの道を選ぶべきだ。実際、4Cには未来が感じられる。
それに、アルファは夢のような車だ。この車は素晴らしい。もちろん、私はこれがコーヒーマシンのような車だということは理解している。しかし、私が今まで生きてきた中で乗ったあらゆるアルファとは違い、この車には代価を支払うだけの報酬がちゃんと存在している。
The Clarkson review: Alfa Romeo 4C (2013)
今回紹介するのは、アルファ ロメオ 4Cのレビューです。

私のコーヒーマシンは全く使いものにならない。使っているのはガジアなのだが、ボタンを押して本物のコーヒーが出てきたためしがない。
これは常に水を要求しており、タンクに水を入れると、今度は"トレーを空にしてください"と表示されるのでそれに従うのだが、まだ空になってはいないと表示される。なので、何度も何度も空にしようとして、最終的にトレーは溶鉱炉で働く人の顔くらいに輝くようになる。そしてトレーを機械に戻すと、"トレーが挿入されていません"と表示されるので、今度は丁寧に入れてみるのだが、それを何度繰り返しても、"トレーが挿入されていません"という表示がされるだけだ。
"豆を加えてください"と表示されるので、900ポンドのイリーのコーヒー豆をトレーをずらさないように慎重に豆入れに入れる。すると、"ユニットを清掃してください"と表示される。なので、男性のあらゆる本能を抑え、取扱説明書を取り出すのだが、そこにはクランプAを取り外してノズルBを2時間作動させるようにと書かれており、それを実行して再びコーヒーマシンを作動させると、今度は"不純物を除去してください"と表示される。
大抵の場合、私がモーニングコーヒーを飲むのはアフタヌーンティーの時間だ。しかし、言うまでもなく、このコーヒーはインスタントコーヒーと比べて圧倒的に美味しいので、これだけのことをする意味はある。
ペットにも同じようなことが言える。犬はほとんど常時監視していなければならない。犬はゴミ箱を漁り、骨を盗んでは咥え、郵便配達員には噛み付き、雨が降っていても散歩をしたがり、意味もなく夜中に吠え、獣医が酔いつぶれていて来れないクリスマスに限って病気になる。にもかかわらず、猫を飼うよりも犬を飼う方が充足感が得られる。
そしてここから連想されるのがアルファ ロメオだ。私はかつてGTV6に乗っていたのだが、これはまるで犬が設計したコーヒーマシンのようだった。夜になればタイヤから空気が全部抜けるし、クラッチディスクがフライホイールと結合し、ギアが繋がってプロペラシャフトが動き出したかと思えば、もの凄い音が鳴り、後輪が動かなくなる。これは日常的な悪夢だ。
しかも、たとえ晴れていても、生理前でなくても、そもそも運転が非常に怖い車だった。ステアリングは重すぎたし、ドライビングポジションは類人猿に合わせられていたし、2速は使えなかったし、ハンドリングはまるでヘロインをキメているかのようだった。
GTV6だけではない。現在販売されている車では、ジュリエッタは退屈だし、ミトは酷い車だ。最近の歴史を紐解いてみれば、8Cは見た目ほどに良い車ではなかったし、SZはあべこべな車だった。33も、75も、156も、159も、164も。ただ、狂人がデザインしたというだけで、凄い車ではない。家のガレージにオイルの水溜まりを作るだけの車だ。
それでも、アルファ ロメオは私の好きな自動車メーカーだ。それでも私は、アルファ ロメオを所有したことのない人間を車好きとは言えないと信じている。では、この理由は何なのだろうか。
1960年代に遡り、その理由をGTAに求めるのも無駄だ。確かにGTAは素晴らしい車だが、これはゴミの奔流の中に紛れるただ1台の素晴らしい車でしかない。この1つの業績だけでアルファを評価するのは、ムッソリーニが母親に花を贈ったことを理由に彼の行った数々の犯罪を無視するような話だ。
色々と考えてみたが、アルファはその長い歴史の中でも、本当に良い車はせいぜい4台か5台しか作っていないと思う。そして、ここ30年間、アルファはそんな車を作っては来なかった。
それでも、アルファへの愛は潰えることがない。その理由はきっと、我々がアルファの底力を知っているからだと思う。我々は、ミニ・フェラーリを思い描いている。恐ろしく美しく、チップスと同じくらいに安く、楽しさを追求して作られている。そこで今回紹介する車だ。4Cだ。悲しいことに、写真ではこの車を判断することはできない。実物を見れば、実に素晴らしく感じることだろう。ヘッドランプには難があると言う人もいる。確かにそうかもしれないが、果たしてシンディー・クロフォードがほくろの存在により台無しになるだろうか。いや、一切問題はない。
しかし、4Cで最も凄いのはルックスではない。構造だ。4Cの登場以前には、もしオールカーボンファイバーの車が欲しければ、マクラーレン・MP4-12Cのようなマシンを買うか、F1カーを買うかしかなかった。こういう車を作るためにはコストがかかるが、アルファはやってのけた。
これにより、軽さを手に入れた。そして、この車はあらゆる面で軽量化を追求している。もし高級感とか防音性能とか充実した装備を考えているなら、そのことは忘れるべきだ。この車にはナビなど存在しない。パワーステアリングさえない。
結果、この車は1トンを切り、つまり大排気量のエンジンは必要とはならない。車の中央部分に搭載されるのは、1,742ccのターボエンジンで、このエンジンはあまりに軽いため、エンジンがどこかに行ってしまわないようにしっかりとボルト留めされている。
わずか4気筒しかなくてがっかりしただろうか。しかしがっかりすることはない。というのも、軽さのおかげで、0-100km/h加速は4.5秒を記録し、260km/hを出すこともできるからだ。それに、17km/Lという燃費も武器になりそうだ。
とはいえ、私はそんなことは気にもしない。私はこの車が大好きだ。重さなどあってないようなものなので、コーナー前の減速はあまり必要ない。それに、グリップはかなりある。それに音もだ。しかも、すごい音だ。うるさい。そして、狂っている。
インテリアはショッキングだが、軽さを得るためには十分払う価値のある代価だ。そして、軽さこそ、誰もが求めているものだ。なぜなら、軽ささえあれば、ホッキョクグマと車好きのどちらも幸せになれるからだ。そして、このアルファに乗れば、私は本当に幸せになれる。私は晴れた夕方にこの車に乗ってコモ湖の周りを走ったのだが、ほとんど泣きそうになってしまった。人生で最上の時だと思った。
少しつまらない話をしよう。シートは私に合っていた。トランクは広かった。計器類は使いやすくて見やすく、走行速度を見るためにメガネを使う必要もない。それに、車の特性を変えることができる。ダイナミックモードにして、ずっとそのままにしておけばそれで良い。
欠点は数えるほどしかない。トランスミッションはすこし頭が悪いし、ステアリングは期待していたほどシャープではない。それに、この車はSLS AMGより幅が広く、つまりユタ州よりも幅が広い。そして値段は4万5,000ポンドだ。カーボンファイバー製のミニスーパーカーとしては、全く高い値段ではない。しかし、これはポルシェ・ケイマンと価格帯が被る。
言うまでもなく、ケイマンの方が我々には合っている。頑丈で仕上がりも良く、高級感もある。しかしこれは我々が求めるのをやめるべき類のものだ。我々はアルファの道を選ぶべきだ。実際、4Cには未来が感じられる。
それに、アルファは夢のような車だ。この車は素晴らしい。もちろん、私はこれがコーヒーマシンのような車だということは理解している。しかし、私が今まで生きてきた中で乗ったあらゆるアルファとは違い、この車には代価を支払うだけの報酬がちゃんと存在している。
The Clarkson review: Alfa Romeo 4C (2013)