イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「Driving.co.uk」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、シボレー・コルベット スティングレイ コンバーチブルのレビューです。



Chevrolet

アメリカのイラクへの介入は正当だと思うだろうか。軍用犬を飼っているだろうか。誰もが兵器を持つ権利を持っていると思うだろうか。バラク・オバマは基本的に共産主義者だと思うだろうか。答えがイエスの人は、当然シボレー・コルベットに乗っていることだろう。

これは車ではない。声明だ。自分が信心深い家庭に生まれ、短髪を、アメリカのビールを、アメリカのやり方を信じる忠実なる保守派であるという声明だ。コルベットに乗りながら、ジョージ・マイケルやエドワード・エルガーのCDを聴く人間はいない。

逆に、ジョージ・マイケルの曲を聞くような民主党員はコルベットに乗ることはない。しかしそれで良い。なぜなら、アメリカ唯一のスポーツカーを運転するのは、まるでピックアップトラックを運転するようだった。跳ねて、一体感はなく、扱いづらく、そして粗い。

何故、これまでコルベットのステアリングが間違った側にしか付いていなかったのか不思議に思ったことはないだろうか。その理由を教えよう。なぜなら、シボレーはアメリカの国外には食人種と共産主義者が溢れており、そのどちらもコルベットのプッシュロッドエンジンやリーフスプリングサスペンションを受け入れないと考えたからだ。アーメン。神を崇めよ。

しかし、ここには問題がある。数年前、コルベットZR1をサンフランシスコからネバダ砂漠まで運転して初めてこれに気付いたことだ。アメリカ製品は、アメリカの国内であれば悪くないように思えることがしばしばある。事実、アメリカにいるとバドワイザーさえ悪くないと思うことがある。しかし、コルベットは本当の意味で悪くない車だ。確かにこの車は巨大で旧時代的だが、シボレーはこの車を、直線番長のプラスティックと銑鉄の1.5トンの塊以上のものに仕上げようとしているようだ。

しかも、新型コルベットではさらに問題が大きくなっている。新型のスティングレイは、なんと言うべきか、素晴らしい車だ。

確かに、私がこの車を運転している時、近くの歩道を歩く母親は子供を車道から遠ざけたし、自転車乗りはいつも以上に私を嘲笑った。帽子よりもIQのサイズが大きい人から、憎悪の感情を感じた。しかし、私は窓から身を乗り出して彼らに伝えたかった。「あなた方はこの車をくだらないと思うかもしれないし、事実私もガース・ブルックスへの愛を試すためにこの車に乗った。けれど、信じてくれ。この車は凄い。」

コルベットは昔から見た目は良かったが、新型は傑作だ。この車には4本出しの巨大なエグゾーストが付いているし、ボンネットはヒマラヤよりも彫りが深い。確かに子供っぽいが、それがどうしたというのだろうか。ランボルギーニ・アヴェンタドールも子供っぽい。フェラーリ・458イタリアも子供っぽい。ジャガー・F-TYPEも子供っぽい。そして、スティングレイの見た目はこれらの車に引けを取らない。実のところ、見方によってはこの3台よりも良い。この車は、今まで見た中でも最もプロポーションの美しい車の1台だ。

この車の中身はまるでベストヒットアルバムだ。シボレーは欧州車と日本車のいいところだけを取ってきてこの車に混ぜ込んでいる。フェラーリと同じようなサスペンションや電子式ディファレンシャルが付いており、日産・370Z(日本名: フェアレディZ)と同じような自動ブリッピング技術が投入され、BMW M5と同じようなヘッドアップディスプレイが装着され、ベントレーと同じように、必要のないときには半分の気筒が休止する。

しかし、この車には欧州車にはないものがある。例えば、タッチスクリーンディスプレイはボタンを押すと下方にスライドし、聖書と小銃を収納するのにも十分なスペースが現れる。

もちろん、ハイテクなエクステリアデザインの裏には、依然として時代遅れなものも隠れている。重量配分の適正化のためにトランスミッションは車両後方に搭載されているが、昔ながらのコルベットの問題である変速のシンクロの不足は2速から3速への変速時に依然として感じられる。それに、シリンダー1つに対してバルブが2つしかないプッシュロッドエンジンを使い続けている。というのも、バルブを4つも使うのは共産主義者だからだ。また、ボディには依然としてグラスファイバーが用いられている。この理由は、カーボンファイバーが左翼的だからだ。つまり、この車はシリコンバレーのソフトウェアおたくではあるが、鹿の殺し方はまだ覚えているようだ。

では、走行性能はどうだろうか。確かにこの車は直線番長かもしれないが、それでも欧州の名だたるスポーツカーさえ脅かすような存在だ。うまく発車させれば、6.2LのV8エンジンは100km/hまで4.2秒で加速する。最高速度は、スピードメーターによると530km/hらしい。ただそれは少し楽観的すぎる見方で、現実的な最高速度は290km/h程度だろう。

もちろん、アメリカ車は長らく直線加速性能には優れていたが、コルベットはそれ以外の能力も併せ持っている。この車はコーナーを曲がることができる。しかも、右にも左にもだ。

私はコーナリング性能にこだわるつもりはない。ただ、先日Top Gearのテストトラックでスティングレイを試乗したのだが、このドロップヘッドの能力は十分にあると認めざるをえないもので、私はこの車を本当に気に入った。

問題は些細なものだった。スピードバンプ(これも共産主義的だ)を超えると、低速でもノーズが暴れてしまった。それに、どのセッティングを選んでも、乗り心地は悪い意味で硬かった。ただ、快適性に欠けていることで、神に近づけるような気がする。それに、ステアリングの位置は反対側だ。

しかし、この車はとても楽しく、こんな問題など気にもならない。8気筒すべてに命を吹き込まれると、それが奏でる怒声は人を陶酔させ、まるでメルセデス・SLSのように走る。アクセルを踏み込めば、ドライバーは笑顔になり、タイヤからはスモークが巻き上がってこの戦艦を包み込む。

アメリカでは、スティングレイのベースモデルの価格は3万4,000ドルだ。しかし、GMはイギリスでの販売価格を6万4,540ポンドに決定した。

これはあまりに不当で、多くの人は腹を立てることだろう。しかしこう考えてみて欲しい。同じくらい速いフェラーリは2倍の値段がするので、290km/hの見た目が良くて走りも良いコンバーチブルが6万4,540ポンドというのはどうあれお買い得だ、と。ジャガー・F-TYPE V8でさえ、コルベットよりも1万6,000ポンド近く高い。残念だが、これはコルベットほど良い車ではない。

ただ、1つ問題がある。ジャガーに乗っている人なら、私の家に迎え入れて喜んで紅茶やパンを振る舞うだろう。しかし、コルベットスティングレイに乗っている人を同様にもてなしたくはない。


The Clarkson review: Chevrolet Corvette Stingray convertible (2014)