インドの自動車メーカー、タタはかつて、超低価格車「ナノ」を発売したことで話題となりましたが、2015年にはナノに大幅改良が行われました。

今回は、インド「OVERDRIVE」による新型タタ・ナノGenXの試乗レポートを日本語で紹介します。


Nano

タタ・ナノは普通の車ではない。タタ・グループ会長であるラタン・タタによる、10万ルピーの車を生み出すという宣言のもと、この車は2009年にインドの自動車のアイコンとして誕生した。それから7年が経過し、控えめに言ってもこの車の存在感は薄れた。ナノはマーケティングの禁忌の例に成り下がってしまった。しかし、タタが新たに打ち出した「ホライズンネクスト」戦略のもと、タタ・ナノを刷新し、GenXを生み出した。

では、新型ナノはただのフェイスリフトモデルなのだろうか。結論から言えばそのどちらとも言えない。確かに基本的なプロポーションは全く変わってない。車両寸法も変わっていない。よく見れば前後バンパーが新デザインとなっており、誰もがただのフェイスリフトだと感じることだろう。可愛らしかった微笑み風のフロントフェイスは、新型では横に口を大きく開けた笑顔のように変貌しているが、その理由はそんな冗談ではなく、ラジエーターがフロントに移設されたからだ。ヘッドランプにはタタ・ボルト同様にスモーク処理が施されている。新型では内外装様々な変更がされているが、これはただのフェイスリフトではない。それ以上の変更が加えられている。

新型では目に見えないところにも手が加えられている。新型ナノにはなんと開閉可能なリアハッチが付いている。とはいえ、ナノはリアエンジン車なので引っ越しにナノを使おうとは期待できない。リアの荷室スペースは110Lとそれなりで、フロントフードの下のスペースにはスペアタイヤが搭載されるため従来同様荷物を置くことはできない。新型ではリアハッチが追加されたため、ボディを補強する必要があり、結果車重は35kg増加している。しかし、この副産物として、NVH性能が向上し、衝撃吸収力も増えたために衝突安全性も改善している。

内装にも変化が加えられている。ステアリングはより高級感のあるものに変わっており、使いやすくなっている。計器類は残念ながら依然としてすべて中央部に集まっているものの、新たにデジタル時計やトリップメーター、燃費計が追加された。また、工夫に富んだ収納スペースもいくつか追加されているが、何より変わったのは4スピーカーのBluetoothオーディオシステムが追加された点だろう。まるでダットサンの車のようではないか。

エンジンは、従来と変わらない624ccの2気筒ガソリンエンジンが搭載さえ、最高出力38PS、最大トルク5.2kgf·mを後輪に伝える。もしもっとパワフルなエンジンを搭載しようとしたら、そのパワーに対応するためにあらゆる構造を見直す必要があるため、それを望むのは酷だろう。なにより、構造を強化しようとすれば車重も増えるし室内空間も狭くなることだろう。それよりも、現在搭載されているエンジンの改善に投資したほうが良いと言えるだろう。それに、新型ではパワートレインを大きく変えることを実際にしている。

それが自動MT (AMT) の採用だ。そしてこのおかげで、ナノは世界最安のクラッチレス車になった。マニエッティ・マレリ製のアクチュエーターとTCUが5速MTに追加されることで自動MT化がなされているが、これはタタ・ゼストに採用されるものとは別のものだ。ゼストにはヨーロッパで実績のあるマニエッティ・マレリの第3世代AMTが採用されているが、ナノには最新型の第4世代AMTが採用されている。

しかし、AMTは一般的に変速時にギクシャク感があり、快適性やスムーズさの面では問題があり、事実ナノもその問題点からは逃れられていない。それに、TCUの応答が遅いせいでクラッチが繋がるまでにラグが存在する。しかし、一旦ある程度まで加速してしまえば、十分に応答性はあるし、ゼストのAMTと比べれば格段にスムーズだ。また、ナノのAMTにはクリープ機能も追加されており、ブレーキペダルを離せばクラッチが繋がって車が進み始めるため、操作感覚は従来的なATに近くなっており、特に交通量の多い場所や狭い駐車場などでは理想的だ。その上、スポーツモードまで付いている。

しかし、ナノにスポーティーさを求めるべきではない。「S」ボタンを押してもシフトアップのタイミングが遅くなり、エンジン回転数が上がってパワーを最大限に使えるようになるだけだ。結局のところ、わずかに加速感が向上するだけで、追い越しが楽になるということもない。

ただ、AMTは実用的なだけではない。そもそも、AMTとは実質的にはMTであり、ゆえに燃費性能に貢献する。ナノのカタログ燃費は21.9km/Lを実現する。ただし、燃料タンク容量は24Lから15Lに減少しているため、満タン給油で航続距離は約500kmとなる。

しかし、AMTにより車重は30kg増加しており、荷室スペースは16L減少している。とはいえ、一般的なATを採用するよりは犠牲は少ないし、通常のAT車と比べると価格も安い。

interior

とはいえ、まだこの車には改善の余地がある。例えば仕上がりがそうだ。ステアリング下部に露出したケーブル類やシート下に露出したバッテリーは改善の余地がある。それに、ステアリングの位置は低いし、チルト調節することもできない。特に背の高いドライバーにとっては非常に運転しづらい。

乗り心地やハンドリングは、少なくとも気付く範囲では従来とはあまり変わっていない。使用するパワーステアリングは変わらずZF製のものを用いており、これはブラシレスモーターを用いることで作動音を抑えており、アクティブリターン機構により低速での操舵力は少なくて済む。ただ、180mmというSUV的な地上高はもう少し低くできると思うし、そうすれば重心を低くしてロールを減弱させることもできるだろう。ナノにはスタビライザーが付いているが、ロールは顕著に感じられる。そもそも、車高は高いし、ホイールベースは短いし、タイヤも小さい。とはいえ、ナノは走行性能を求めて買うような車ではない。街中での移動手段としてはこれで十分だ。

まもなく、今回我々が試乗した新型ナノが登場する予定だ。価格設定は30万ルピー程度となりそうだ。とはいえ、これでも十分に安いし、ナノGenXの再びの成功も望めることだろう。


2015 Tata Nano GenX first drive review