キャデラックの小型セダン「ATS」にハイパフォーマンスグレードの「ATS-V」が追加されました。
今回は、米国「MOTOR TREND」によるキャデラック・ATS-Vの試乗レポートを日本語で紹介します。
キャデラックは大人しいだけのメーカーではない。サーキット・オブ・ジ・アメリカズのパドックで、チーフエンジニアのトニー・ローマ氏は、この車がBMW M3を追い越すことを目標としていると語った。今回我々は全周5.5kmのF1トラックで試乗を行い、気付いたことがある。それは、目標とする車がクラスの中でもベンチマークとなっている車であれば、たとえ多少失敗しようとも結果は悪いものではないということだ。
スポーツラグジュアリーカーとは矛盾そのものだ。ビジネススーツを着ながらにしてパワーリフティングをすることを要求されるようなものだ。ATS-Vはセダンもクーペもシャープな印象で、大型フロントグリルやカーボンファイバー製のエンジンフードに開いたベントは、そこにさらに鋭利な印象を加えている。今回試乗したモデルには5,000ドルのカーボンファイバーパッケージが付いており、これには大型フロントスプリッター、リアスポイラー、サイドロッカーエクステンション、フードベントなどといったアグレッシブな見た目のパーツが装着されており、これらはダウンフォースを発生させる役割も担う。RECAROシートは快適でサポート性も高く、シートの調節幅も大きい。ただ、インテリアからは簡素さも感じる。メーター周辺の赤いアクセント以外からは、通常のATSよりも特別な、あるいは高価なモデルに乗っているとは感じられない。
では、パフォーマンスはどうだろうか。搭載されるのは、チタン製のコネクティングロッドや鍛鋼製クランク、エグゾーストマニホールド一体型シリンダーヘッドを採用し、ツインターボで過給される3.6LのV6エンジンだ。このエンジンは前後方向に短く、フロントアクスルよりも後方に搭載されており、前部には冷却系が搭載されるが、上下方向には高いため、その上にストラットタワーブレースを装着することはできなかった(代わりに、ストラットタワーからバルクヘッドまでを2つのブレースで支持している)。このエンジンは最高出力470PS、最大トルク62.9kgf·mを発揮するが静粛性は高く、トランスミッションには8速ATと6速MTが設定される。エンジン下部には大型のアルミパネルが設置されており、これによりフロントクレードルを強化し、同時に車体下部の空力性能も高めている。それ以外にも、ミシュラン パイロットスーパースポーツタイヤやブレーシング、ブッシング、ボールジョイントの設計が刷新され、耐ロール性の向上やバネレートの向上も行われている。
サーキット・オブ・ジ・アメリカズは怖い高速コースだが、それでもATS-Vでは快適だった。標準装着される磁性流体ダンパーは非常にうまく働き、コースの凹凸の衝撃をしっかりと吸収した。電子制御式のデフロックのおかげでコーナー出口からの加速は驚異的で、車を暴れさせることなく制御することができる。ATS-Vは自信を持ってスピードを出すことができるが、速いながらもその速さを実感しがたい車でもある。聴覚的なドラマに欠けているため、しばしば体内のスピードメーターと実際のスピードメーターの差に驚くことだろう。長いバックストレートでは、コルベットに搭載される6.2L V8エンジンが搭載されていればさぞいい音が鳴ることだろうと思ってしまった。このエンジンもATS-Vには合いそうだ。
8速AT車は、トラックモードではコンピューターの予測は正確で、ブレーキングゾーンではしっかりシフトダウンし、コーナー途中ではスムーズに変速してくれる。MTにはオートマチックレブマッチング(OFFにすることも可能)やノーリフトシフト(アクセルを踏み込みながら変速できるシステム)が付いており、技術がさほどなくても十分な加速が可能だ。トラックモードにすると、ダンパーやディファレンシャル、ステアリング、スロットルレスポンス、エンジンサウンドのセッティングが変更されるだけでなく、パフォーマンストラクションマネジメントシステムが使用できるようになる。これはトルクとブレーキの制御介入を5段階に調整することができるシステムだ。
コースから他の車がいなくなった正午、私はフロントストレートに向かいVBOXを起動させた。ローンチコントロールは両方のペダルを踏んで2,000rpm未満に回転数を保ち、ブレーキペダルを離すと作動する。ATS-Vはわずかなホイールスピンとともに加速していき、数回のトライで0-100km/h加速は最高で4.0秒を、0-400m加速は12.3秒(184km/h)を記録した。平らな場所で計測すればもっと良い結果が出ることだろう。
100km/hからのフル制動では制動距離31.4mを記録し、ブレーキ性能も十分といえるだろう。ブレンボ製のブレーキが標準装着され、フロントは14.6インチローター・6ピストンキャリパー、リアは13.3インチローター・4ピストンキャリパーで、オプションでカーボンセラミックブレーキも設定されるが、標準ブレーキでも十分だ。開発陣は我々に対し、ブレーキをフェードさせられるかと挑戦的に言ったが、実際フェードさせることはできなかった。
スキッドパッドテストも駐車場で行ったが、路面は粗く、テスト場は斜面にあったため、結果は正確とはいえないだろう。とはいえ、結果は平均で0.98Gを記録し、これはM4と同等の数値だ。ドリフトも非常に安定していて、私が飽きてやめるまでずっとドリフトし続けた。後にエンジニアが教えてくれたのだが、車がドリフトしていることを検知すると、ディファレンシャルが自動的にドリフトを維持するような設定となるそうだ。この変化は運転していても感じることはなく、まさに縁の下の力持ちだ。
素晴らしい車を目標に開発を行えば、自然と良い車が生まれる。M3との直接比較は行っていないものの、現時点で言えることが1つある。キャデラックは良い目標を立てた。
First Test: 2016 Cadillac ATS-V
今回は、米国「MOTOR TREND」によるキャデラック・ATS-Vの試乗レポートを日本語で紹介します。
キャデラックは大人しいだけのメーカーではない。サーキット・オブ・ジ・アメリカズのパドックで、チーフエンジニアのトニー・ローマ氏は、この車がBMW M3を追い越すことを目標としていると語った。今回我々は全周5.5kmのF1トラックで試乗を行い、気付いたことがある。それは、目標とする車がクラスの中でもベンチマークとなっている車であれば、たとえ多少失敗しようとも結果は悪いものではないということだ。
スポーツラグジュアリーカーとは矛盾そのものだ。ビジネススーツを着ながらにしてパワーリフティングをすることを要求されるようなものだ。ATS-Vはセダンもクーペもシャープな印象で、大型フロントグリルやカーボンファイバー製のエンジンフードに開いたベントは、そこにさらに鋭利な印象を加えている。今回試乗したモデルには5,000ドルのカーボンファイバーパッケージが付いており、これには大型フロントスプリッター、リアスポイラー、サイドロッカーエクステンション、フードベントなどといったアグレッシブな見た目のパーツが装着されており、これらはダウンフォースを発生させる役割も担う。RECAROシートは快適でサポート性も高く、シートの調節幅も大きい。ただ、インテリアからは簡素さも感じる。メーター周辺の赤いアクセント以外からは、通常のATSよりも特別な、あるいは高価なモデルに乗っているとは感じられない。
では、パフォーマンスはどうだろうか。搭載されるのは、チタン製のコネクティングロッドや鍛鋼製クランク、エグゾーストマニホールド一体型シリンダーヘッドを採用し、ツインターボで過給される3.6LのV6エンジンだ。このエンジンは前後方向に短く、フロントアクスルよりも後方に搭載されており、前部には冷却系が搭載されるが、上下方向には高いため、その上にストラットタワーブレースを装着することはできなかった(代わりに、ストラットタワーからバルクヘッドまでを2つのブレースで支持している)。このエンジンは最高出力470PS、最大トルク62.9kgf·mを発揮するが静粛性は高く、トランスミッションには8速ATと6速MTが設定される。エンジン下部には大型のアルミパネルが設置されており、これによりフロントクレードルを強化し、同時に車体下部の空力性能も高めている。それ以外にも、ミシュラン パイロットスーパースポーツタイヤやブレーシング、ブッシング、ボールジョイントの設計が刷新され、耐ロール性の向上やバネレートの向上も行われている。
サーキット・オブ・ジ・アメリカズは怖い高速コースだが、それでもATS-Vでは快適だった。標準装着される磁性流体ダンパーは非常にうまく働き、コースの凹凸の衝撃をしっかりと吸収した。電子制御式のデフロックのおかげでコーナー出口からの加速は驚異的で、車を暴れさせることなく制御することができる。ATS-Vは自信を持ってスピードを出すことができるが、速いながらもその速さを実感しがたい車でもある。聴覚的なドラマに欠けているため、しばしば体内のスピードメーターと実際のスピードメーターの差に驚くことだろう。長いバックストレートでは、コルベットに搭載される6.2L V8エンジンが搭載されていればさぞいい音が鳴ることだろうと思ってしまった。このエンジンもATS-Vには合いそうだ。
8速AT車は、トラックモードではコンピューターの予測は正確で、ブレーキングゾーンではしっかりシフトダウンし、コーナー途中ではスムーズに変速してくれる。MTにはオートマチックレブマッチング(OFFにすることも可能)やノーリフトシフト(アクセルを踏み込みながら変速できるシステム)が付いており、技術がさほどなくても十分な加速が可能だ。トラックモードにすると、ダンパーやディファレンシャル、ステアリング、スロットルレスポンス、エンジンサウンドのセッティングが変更されるだけでなく、パフォーマンストラクションマネジメントシステムが使用できるようになる。これはトルクとブレーキの制御介入を5段階に調整することができるシステムだ。
コースから他の車がいなくなった正午、私はフロントストレートに向かいVBOXを起動させた。ローンチコントロールは両方のペダルを踏んで2,000rpm未満に回転数を保ち、ブレーキペダルを離すと作動する。ATS-Vはわずかなホイールスピンとともに加速していき、数回のトライで0-100km/h加速は最高で4.0秒を、0-400m加速は12.3秒(184km/h)を記録した。平らな場所で計測すればもっと良い結果が出ることだろう。
100km/hからのフル制動では制動距離31.4mを記録し、ブレーキ性能も十分といえるだろう。ブレンボ製のブレーキが標準装着され、フロントは14.6インチローター・6ピストンキャリパー、リアは13.3インチローター・4ピストンキャリパーで、オプションでカーボンセラミックブレーキも設定されるが、標準ブレーキでも十分だ。開発陣は我々に対し、ブレーキをフェードさせられるかと挑戦的に言ったが、実際フェードさせることはできなかった。
スキッドパッドテストも駐車場で行ったが、路面は粗く、テスト場は斜面にあったため、結果は正確とはいえないだろう。とはいえ、結果は平均で0.98Gを記録し、これはM4と同等の数値だ。ドリフトも非常に安定していて、私が飽きてやめるまでずっとドリフトし続けた。後にエンジニアが教えてくれたのだが、車がドリフトしていることを検知すると、ディファレンシャルが自動的にドリフトを維持するような設定となるそうだ。この変化は運転していても感じることはなく、まさに縁の下の力持ちだ。
素晴らしい車を目標に開発を行えば、自然と良い車が生まれる。M3との直接比較は行っていないものの、現時点で言えることが1つある。キャデラックは良い目標を立てた。
First Test: 2016 Cadillac ATS-V