イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「Driving.co.uk」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、メルセデス・ベンツ C220 BlueTEC AMG Lineのレビューです。


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先日、サンデー・タイムズの記者のカミラ・ロングがTwitterで、ショーファードリブンの助手席に男が座っている光景以上の悲劇があるだろうかと言った。実際のところ、ある。妻が運転して、父親が赤ん坊と一緒に後部座席に乗っている光景だ。これ以上に人生の終わりを表す光景はない。

しかし、カミラの指摘は面白い。運転手を付けるとき、どうして普通はリアシートに座るのだろうか。リアシートのほうが狭くて快適性は低い。視界も良くない。それに、車酔いもしやすい。恐らく、人々がリアシートに座るのは、そちらのほうが偉そうに見えるからだろう。運転手を雇う人は、自分が偉いことを知ってほしいのだろう。しかし、それほど単純な話だろうか。

運転手を雇うような人々は、昼食にチキンスープとプリンを食べ、愛人にオシメを穿かせてもらい、髪の手入れまでしてもらうような人なのだろうか。

車のリアシートに座るのは、子供の頃を思い出すからなのだろうか。Cピラーに隠されたリアシートで親指を咥えているのだろうか。

もちろん、これはナンセンスだと思うことだろう。普通の人も朝6時に14年落ちのトヨタ・アベンシスのタクシーに乗って空港まで向かうとき、リアシートに座ることだろう。そして結局、そのタクシーは明らかにおかしな道を通り、6回ガソリンスタンドに寄ることになるだろう。

これもおかしな話だ。なぜわざわざリアの安っぽいシートに座るのだろうか。運転手がいるから? 本当だろうか。ではそれならばなぜ、運転手がシートを後ろまで下げていたり、車が煙草臭い旧式の安物であることを良しとするのだろうか。それに、どうして運転手は7つ目のガソリンスタンドで50ポンド分の軽油を入れるのだろうか。

友人と車に乗るなら、フロントシートに座ることだろう。妻と乗るときも、仕事仲間と乗るときもそうだ。ではなぜ、タクシーに乗る時はリアシートに座るのだろうか。

他の人から乗っているタクシーが自分の車だと思われたくないのかもしれない。あるいは、こんな車を持っている友人がいるとさえ思われたくはないのかもしれない。けれど一番の理由はきっと、運転手がどこかにぶつけるかもしれないと考えており、それならばリアシートのほうが安全だと考えているからだろう。それに、リアシートに座っていれば運転手がシフトレバーと間違えて太腿に触れてくることもない。あるいは、話しかけてくることもない。

正直なことを言おう。私はタクシーやショーファーに乗るとき、基本的にいつもリアシートに座る。ただし、黒塗りの新型メルセデス・ベンツ Cクラスは例外だ。

黒塗りの新型Cクラスはどう見てもタクシーとは思われない。この車の運転手はちゃんと道を知っているだろうし、燃料も十分に入っているだろう。しかし、この車に乗る人、つまりCクラスの運転手を雇った人は、誰が見ても管理職の最底辺だ。

反論の余地はない。メルセデスを社有車として提供している企業にいて、もっとも安いモデルを使っているのだ。もしCクラスのリアシートに膝を抱えるような体勢になって座れば、自分が愚かで管理職の最底辺だと感じることだろう。ショーファードリブンのCクラスのリアシートに乗り込む以上に、自分を取るに足らない人間だと喧伝する光景はない。

しかしこの国にはそんなことも理解していない人が溢れており、主要都市には窓にリース証明が貼られ、ルームミラーに空気清浄器が掛かっている黒塗りの新型Cクラスが溢れている。そのため、テスト用の車として私に運転手のいない新型Cクラスが用意され、その上シートバックポケットには3年前のHELLO!マガジンが入っているのに気付いたとき、驚かずにはいられなかった。

この車の名前は―(深呼吸)―C220 BlueTEC AMG Lineだ。凄い名前じゃないか。この名前のおかげで、役員車運行会社はユーザーに対し、「我々はあなた方をC220 BlueTEC AMG Lineで重要な会議までお送りいたします」と言うことができるし、ユーザーの同業者やその顧客もユーザーが非常に偉い人だと思うことだろう。

しかしこれに騙されてはいけない。「AMG」という言葉は大量の馬力と大量の騒音を意味するが、「AMG Line」という言葉はスポーティーなシートと普通よりも少し小さなステアリングと効果のよく分からないスポイラーやスカートを意味する。いや、忘れていた。それだけではない。「AMG」と書かれたフロアマットもある。

それ以外にも、ガーミン社製のナビも標準装備されているが、この車のドライバーの大半はそれを使わずに1万kmのコードを使ってシガーソケットから電源を取る見た目の悪いポータブルナビを使うことだろう。

走行性能はどうだろうか。この車は運転手が付くので、そもそもそんなことを気にする必要はない。とはいえ、2.1Lのコモンレールターボディーゼルは素晴らしい。どのギアでもパワフルだし、あまりにスムーズなのでディーゼル車であることに気づくことはないだろう。

ただし、ステアリングはあまり理解できない。ステアフィールがあまりに唐突なのだ。それに、乗り心地も理解に苦しむ。異常なことに、この車はサスペンションをスポーティーなセッティングにすることもできる。実際には誰もしないにもかかわらずだ。とはいえ、大抵の状況では乗り心地は良い。ただし、急に路面のくぼみに乗り上げると酷い振動が起こり、これには柔軟性の欠けたランフラットタイヤでは何の役にも立たない。

長距離ドライブのお供としてはどれほどの実力があるのかを調べるため、ロンドンの自宅からスコットランドまで運転してみることにした。しかし、結局この車はヒースロー空港の送迎用駐車場に停めさせられ、"Mr Wong"という表示のある到着ロビーまで行く羽目になった。

そこに行くまでに使った軽油は非常に少ない。それに、魅力的なリースプランもある。この車を使おうと考えている人に必要な情報はそれだけだ。

では実のところこの車を使うべきなのだろうか。私からの親切なアドバイスだと思って読んで欲しい。もしあなたがMr Wongで、会社が自分の迎えにC220 BlueTEC AMG Lineを寄越したら、助手席に乗り込んで、運転手の親しい友人のふりをするべきだ。そして、上司には辞表を叩きつけるべきだ。

これこそ、カミラ・ロングが理解するべき点だ。大抵のショーファードリブンでは、フロントシートに乗るのはおかしなことだし、悲劇的ですらある。しかしCクラスでは話が全く逆だ。


The Clarkson review: Mercedes C 220 BlueTec AMG Line (2014)