Amazonプライム・ビデオで配信中の自動車番組「The Grand Tour」でおなじみのジェレミー・クラークソンが英「The Sunday Times」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

ご存知かもしれないが、私はストレッチリムジンがあまり好きではない。それに地球環境のことをあまり気にしてはいない。なので以前、ロサンゼルスでエコリムジンとやらに乗ることになるとBBCに言われた時はあまり嬉しくなかった。
恐ろしい予想が浮かんできて、フライト中は眠ることもできなかった。環境活動家のジョージ・モンビオットの写真が貼られたプリウスのストレッチリムジンに乗る羽目になるのではないだろうか。あるいは、小麦若葉ジュースを満載したトレーラーを引き連れたG-Wizに乗る羽目になるのではないだろうか。あるいは、鳥類学者のビル・オッディとサドルの大量についた自転車でタンデムをする羽目になるのではないだろうか。
しかし私の心配は杞憂に終わった。用意された車はフォード最大のSUVであるフォード・エクスカージョンだった。この車はあまりに大きく、空港ターミナルの外に停められていた。そしてあまりに長く、リアエンドはサンフランシスコまで続いているようだった。
この車は大抵の家よりも重く、しかもエコ版は、元々搭載されていたガソリンエンジンに代わって、スペースシャトルを発射台まで移動させるために使うようなディーゼルエンジンが搭載されていたため、さらに重くなっていた。
車のエンジンがかかると、車の周りにいた人たちは地震が起きたのかとこぞって避難所に向かって駆け出した。
ボディサイドには緑色でこの車がエコリムジンであることが主張されており、車のリアにはカリフォルニア州による証明書が貼られていて、そこにはこのオーナーが母なる地球に貢献している旨が書かれていた。
我々がスワンピー・ビン・ラディンと呼んでいたこの車のドライバーは自分の車のことを非常に誇りに思っているようだった。それが高じてあまり科学的とはいえない燃料に関する講義までしてくれた。彼は燃料が植物由来だと笑顔で話してくれた。
この点を強調するため、彼はリアウインドウに元々貼られていた「この車は通常とは違う燃料を使っています」というステッカーの「通常とは違う」のところに否定線を引き、「植物由来の」という言葉に置き換えていた。
私が彼に「植物由来の燃料を使うことに抵抗はないのか?」と問うたところ、彼は「あるわけないじゃないか」と答えた。ただ、私が続けて「しかし、アフリカの人々の食事になるかもしれない野菜を燃料として使うことに抵抗はないのか?」と質問したところ、彼の表情は少し引きつった。
スワンピーによると、この車は燃費もいいらしい。彼によると燃費は6.8km/Lだそうだ。しかし、これだけ重い車を走らせるために、彼は加速の度にアクセルを踏み込んでいた。果たして彼の言うことは事実なのだろうか。
スワンピーは自分では世界のため、環境のためになることをしていると思っているのかもしれない。しかし実際は、この車のエンジンがかかるたび、ロサンゼルスに生い茂るブーゲンビリアの半分が枯れていく。エコリムジンなどという車は存在し得ない。平和のための兵器やノンアルコールビールのようなものだ。存在意義がない。修飾語が被修飾語を否定している。緑のためなりたいなら、リムジンで街中を走り回るべきではない。またリムジンが必要なのはパーティーの時だけであり、その際に緑に関連する要素は翌朝4時に胃から出てくるものくらいだ。
そして今、私はイギリスに戻り、日産の「キンカン」とやらに乗っている。これは新しいタイプのエコな4WD車だ。なんとこの車は4WDではない。
見た目は4WD車であり、他の人が見れば川でのカヤック探検から帰ってきたところだと思うことだろう。それにこの車の名前はイランの遊牧民族の名前が由来だ。しかし実際は、この車はごくありふれた2WDの5シーターハッチバックをベースとしている。
この車は、草原を駆け抜けたりぬかるみを走り抜けたりすることはできないが、見た目はSUVそのものだ。つまり、どこに行っても(イギリスの)自由民主党支持者達からは嫌悪の面を向けられることになる。Win-WinならぬLose-Loseだ。
これはまるで、付け髭を付け、時計を詰め込んだリュックサックを背負って民衆の中に飛び込み「なーんてね!」と叫ぶような話だ。なので私は最上級グレードを試乗車として選んだ。これは4WDだ。つまり、これなら、爆弾を詰め込んだリュックサックを背負って民衆の中に飛び込み、実際に自爆するのと同じだ。
もちろん、4WDなんて必要もないじゃないかと言う人がいるかもしれないが、それなら普通の日産のハッチバックを購入すれば良い話だ。ただ、残念なことに日産は普通のハッチバックをもう作ってはいない。
日産いわく、キンカンは未来だそうだ。しかも日本の歪んだアイディアではない。この車はパディントンでデザインされ、ベッドフォードシャーで設計された。この車は英国車と言っても過言ではない。もっとも、今の日産はフランス車のようなものだが。
ともかく、ファミリーハッチバックをSUV風にしたことで、巨大化し、駐車も大変になっている。それに車重も増えており、結果としてパフォーマンスも低下し、燃料も食うようになっている。
一見すると問題点が多そうだが、実際のところこの車は驚くほどに良い。インディペンデントサスペンションのおかげで乗り心地はいいし、アクセルを踏み込み過ぎているとセンサーが判断すれば後輪にも駆動力が配分される。エンジンはディーゼルとガソリンの両方に乗ってみたのだが、ディーゼルも悪くなかったし、ガソリンは完璧だった。
運転もしやすい。室内空間も広い。この車には3列目シートもなければ回転式シートもない。最初はそれが残念に思えた。しかし、これはフォード・フォーカスにもない。そしてこのフォーカスこそ、ボディタイプこそ違えど、最大のライバルだ。
フォーカスの方が重心が低く、運転も楽しいし、駐車もしやすい。それに価格も安く、リアシートも広く、私ならこちらを買うだろう。
しかしキンカンにも惹かれるところはある。フォードはどこかつまらない。しかし日産は違う。この車に乗っていれば、子供のいる幸せな家庭がイメージされることだろう。
それに、もし誰かがやってきてなんて環境に悪そうな車に乗っているんだ、燃費はどれくらいなんだと文句をつけられても、スワンピー・ビン・ラディンの真似をすればいい。それが嘘だとしても。
20 years of Clarkson: Nissan Qashqai 2.0 Tekna 4x4 review (2007)
今回紹介するのは、2007年に書かれた日産・キャシュカイ(日本名: デュアリス)のレビューです。

ご存知かもしれないが、私はストレッチリムジンがあまり好きではない。それに地球環境のことをあまり気にしてはいない。なので以前、ロサンゼルスでエコリムジンとやらに乗ることになるとBBCに言われた時はあまり嬉しくなかった。
恐ろしい予想が浮かんできて、フライト中は眠ることもできなかった。環境活動家のジョージ・モンビオットの写真が貼られたプリウスのストレッチリムジンに乗る羽目になるのではないだろうか。あるいは、小麦若葉ジュースを満載したトレーラーを引き連れたG-Wizに乗る羽目になるのではないだろうか。あるいは、鳥類学者のビル・オッディとサドルの大量についた自転車でタンデムをする羽目になるのではないだろうか。
しかし私の心配は杞憂に終わった。用意された車はフォード最大のSUVであるフォード・エクスカージョンだった。この車はあまりに大きく、空港ターミナルの外に停められていた。そしてあまりに長く、リアエンドはサンフランシスコまで続いているようだった。
この車は大抵の家よりも重く、しかもエコ版は、元々搭載されていたガソリンエンジンに代わって、スペースシャトルを発射台まで移動させるために使うようなディーゼルエンジンが搭載されていたため、さらに重くなっていた。
車のエンジンがかかると、車の周りにいた人たちは地震が起きたのかとこぞって避難所に向かって駆け出した。
ボディサイドには緑色でこの車がエコリムジンであることが主張されており、車のリアにはカリフォルニア州による証明書が貼られていて、そこにはこのオーナーが母なる地球に貢献している旨が書かれていた。
我々がスワンピー・ビン・ラディンと呼んでいたこの車のドライバーは自分の車のことを非常に誇りに思っているようだった。それが高じてあまり科学的とはいえない燃料に関する講義までしてくれた。彼は燃料が植物由来だと笑顔で話してくれた。
この点を強調するため、彼はリアウインドウに元々貼られていた「この車は通常とは違う燃料を使っています」というステッカーの「通常とは違う」のところに否定線を引き、「植物由来の」という言葉に置き換えていた。
私が彼に「植物由来の燃料を使うことに抵抗はないのか?」と問うたところ、彼は「あるわけないじゃないか」と答えた。ただ、私が続けて「しかし、アフリカの人々の食事になるかもしれない野菜を燃料として使うことに抵抗はないのか?」と質問したところ、彼の表情は少し引きつった。
スワンピーによると、この車は燃費もいいらしい。彼によると燃費は6.8km/Lだそうだ。しかし、これだけ重い車を走らせるために、彼は加速の度にアクセルを踏み込んでいた。果たして彼の言うことは事実なのだろうか。
スワンピーは自分では世界のため、環境のためになることをしていると思っているのかもしれない。しかし実際は、この車のエンジンがかかるたび、ロサンゼルスに生い茂るブーゲンビリアの半分が枯れていく。エコリムジンなどという車は存在し得ない。平和のための兵器やノンアルコールビールのようなものだ。存在意義がない。修飾語が被修飾語を否定している。緑のためなりたいなら、リムジンで街中を走り回るべきではない。またリムジンが必要なのはパーティーの時だけであり、その際に緑に関連する要素は翌朝4時に胃から出てくるものくらいだ。
そして今、私はイギリスに戻り、日産の「キンカン」とやらに乗っている。これは新しいタイプのエコな4WD車だ。なんとこの車は4WDではない。
見た目は4WD車であり、他の人が見れば川でのカヤック探検から帰ってきたところだと思うことだろう。それにこの車の名前はイランの遊牧民族の名前が由来だ。しかし実際は、この車はごくありふれた2WDの5シーターハッチバックをベースとしている。
この車は、草原を駆け抜けたりぬかるみを走り抜けたりすることはできないが、見た目はSUVそのものだ。つまり、どこに行っても(イギリスの)自由民主党支持者達からは嫌悪の面を向けられることになる。Win-WinならぬLose-Loseだ。
これはまるで、付け髭を付け、時計を詰め込んだリュックサックを背負って民衆の中に飛び込み「なーんてね!」と叫ぶような話だ。なので私は最上級グレードを試乗車として選んだ。これは4WDだ。つまり、これなら、爆弾を詰め込んだリュックサックを背負って民衆の中に飛び込み、実際に自爆するのと同じだ。
もちろん、4WDなんて必要もないじゃないかと言う人がいるかもしれないが、それなら普通の日産のハッチバックを購入すれば良い話だ。ただ、残念なことに日産は普通のハッチバックをもう作ってはいない。
日産いわく、キンカンは未来だそうだ。しかも日本の歪んだアイディアではない。この車はパディントンでデザインされ、ベッドフォードシャーで設計された。この車は英国車と言っても過言ではない。もっとも、今の日産はフランス車のようなものだが。
ともかく、ファミリーハッチバックをSUV風にしたことで、巨大化し、駐車も大変になっている。それに車重も増えており、結果としてパフォーマンスも低下し、燃料も食うようになっている。
一見すると問題点が多そうだが、実際のところこの車は驚くほどに良い。インディペンデントサスペンションのおかげで乗り心地はいいし、アクセルを踏み込み過ぎているとセンサーが判断すれば後輪にも駆動力が配分される。エンジンはディーゼルとガソリンの両方に乗ってみたのだが、ディーゼルも悪くなかったし、ガソリンは完璧だった。
運転もしやすい。室内空間も広い。この車には3列目シートもなければ回転式シートもない。最初はそれが残念に思えた。しかし、これはフォード・フォーカスにもない。そしてこのフォーカスこそ、ボディタイプこそ違えど、最大のライバルだ。
フォーカスの方が重心が低く、運転も楽しいし、駐車もしやすい。それに価格も安く、リアシートも広く、私ならこちらを買うだろう。
しかしキンカンにも惹かれるところはある。フォードはどこかつまらない。しかし日産は違う。この車に乗っていれば、子供のいる幸せな家庭がイメージされることだろう。
それに、もし誰かがやってきてなんて環境に悪そうな車に乗っているんだ、燃費はどれくらいなんだと文句をつけられても、スワンピー・ビン・ラディンの真似をすればいい。それが嘘だとしても。
20 years of Clarkson: Nissan Qashqai 2.0 Tekna 4x4 review (2007)