シボレーは米国向けにパトカー用モデル「カプリスPPV」を製造しています。今回は、米国「Car and Driver」によるシボレー・カプリスPPVの試乗レポートを日本語で紹介します。


Caprice PPV

警察組織のフォード・クラウンヴィクトリアに対する忠誠を見るに、警察車両の選定にパフォーマンスが最重要視されるということはなさそうだ。同様にインテリアスペースというわけでもないだろう。クラウンヴィクトリアの成功からは、警察車両に必要なのはV8エンジンと後輪駆動だということが示唆される。

それでも、シボレー・カプリスPPV(Police Patrol Vehicle)は旧来的なただの後輪駆動V8セダンではない。この車は基本的にポンティアック・G8(別名: ホールデン・コモドア)のストレッチバージョンであり、そこにさらに手が加えられている。フロントストラットやリアサスペンションのあらゆるコンポーネントが強化されている。カプリスのシャシ設計担当者の話を聞いてみると、カプリスPPVはあたかも今はなきG8のサーキットバージョンのように思える。彼らによると、過渡応答特性を高めることを最重要視したという。カプリスPPVは安定性は高いが、うまく操作してやるとテールを滑らせることもできる。

クラウンヴィクトリアからこの車に乗り換えた警察官は初めてステアリングを握ってコーナリング性能の高さにきっと驚くことだろう。これほどコーナリング時の安定性や応答性が高いと、広い道や直線の続く高速道路をパトロールするのには過剰な性能にも思えるが、ワインディングロードでの犯人追跡にはもってこいだ。

カプリスPPVには3.6L V6と6.0L V8の2種類のエンジンが設定される。V6エンジンは最高出力305PS、最大トルク36.6kgf·mを発揮し、V8エンジンは最高出力360PS、最大トルク53.1kgf·mを発揮する。V8エンジンを搭載する最終モデルのG8は0-100km/h加速5.2秒、0-400m加速13.8秒を記録していたが、カプリスPPVはこれより車重が増加しているため、十分の数秒程度遅くなっている。V6モデルはさらに1秒程度遅くなることだろう。V8モデルは出力が大きく、制御不能になることを防ぐため、スタビリティコントロールを完全に切ることはできない。なので、ドリフトパフォーマンスをする警察はV6モデルを選ぶ必要がある。

なぜかカプリスPPVの価格はV8とV6で同じ31,495ドルだが、いずれにしても入札価格はこれより低くなることだろう。とはいえ、V8エンジンは設計の古いプッシュロッドエンジンで開発費の回収などとうの昔に済んでいるだろうし、一方のV6エンジンはDOHCのアルミニウムエンジンで、VVTも備わっている比較的設計の新しいエンジンであるということを考えればこの価格設定も理解できる。それに、V8の高いパフォーマンスを取るか、V6の燃費性能の高さを取るかという選択肢も生まれる。V8の燃費性能はシティ燃費6.4km/L、ハイウェイ燃費10.2km/Lで、V6はEPAの燃費試験をまだ受けてはいないものの、V8よりは良くなるはずだ。(とはいえ、警察はV6を選択して燃料費を節約するべきだろう。なにより、やたらスピードを出してカーチェイスを行っても市民を危険に晒すだけだ。)

他のパトカー用モデルは市販モデルと大きく装備内容が異なるが、そもそもカプリスにはアメリカに市販モデルが存在しない。言うまでもなく、かつてのG8に当たるモデルはオーストラリアではホールデンブランドで販売されているし、中東ではシボレー・カプリスとして一般向けに販売されている。これらのモデルとは、サスペンションコンポーネントや冷却系、ブレーキキャリパー・ローター・パッドの設計が異なっている。警察向けのマーケットでは、ミシガン州警察とカリフォルニア州高速警察隊による実証試験が全国警察の指標となっている。シボレーによると、カリフォルニアで行われた試験ではカプリスのブレーキ性能が最も高かったという。また、パトカーに装備される種々の電装品に電気を送るためのサブバッテリーも装備されており、またサブバッテリーとメインバッテリーとの間にはアイソレーターが装備されていて、ライトやコンピューター、カメラなどの装備が電気を食っていてもエンジンは掛かるようになっている。

interior

カプリスPPVとかつてのG8の違いはボディサイズだ。ホイールベースが940mm延長され、全長は206mm長くなっており、室内空間は驚くほど広い。1,095mmというリアシートのレッグルームはBMW 7シリーズのロングホイールベースモデルにも比肩するほどで、リアシートに座って夜通し張り込むのも苦ではないだろう。前後シートの仕切り板を装備すると室内スペースは大幅に減少し、特に前席下への足入れができなくなる。とはいえ、仕切り板のあるパトカーのリアシートに座らされる人間の快適性などそれほど気にする必要はないだろう。また、カーテンエアバッグはフロントシートにしか装備されていない。それでも、これについて人権団体が文句を言う筋合いもないだろう。というのも、前後シートを隔てる仕切り版の存在のせいで一般的なカーテンエアバッグは展開できなくなってしまうからだ。

今やフォード・クラウンヴィクトリアは終焉を迎え、フォードがその後継車として用意したのはFFベースのインターセプターであり、後輪駆動V8パトカーとして残された選択肢はダッジ・チャージャー パースートとカプリスPPVだけだ。今までにチャージャーの室内が狭いとぼやく警官の姿は何度も見てきたが、カプリスならそんな不満も出ないだろうし、警察車両としてのパフォーマンスにも何ら問題はない。カプリスは警察にとって有力なツールになるかもしれない。


2012 Chevrolet Caprice PPV First drive review