イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」の司会者の1人、ジェレミー・クラークソンが英「Driving.co.uk」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
今回紹介するのは、ランドローバー・ディスカバリースポーツのレビューです。

年始の休暇明け、私はこれ以上太らないようにしようと決めた。いろいろ考えて、2つの方法があると分かった。1つは運動をすること、もう1つは飲酒をやめることだ。しかし、よもや後者を選ぶほかないだろうと思い至った。
効果は抜群だった。わずか1ヶ月で顎が六重ではなくなり、スーツが再び着られるようになった。しかし問題も生じた。夜に出かける際はタクシーの代わりに車を使うようになった。
ある面では楽しみが増えたとも言える。夜間ロンドンを運転していると、赤信号を突破し、制限速度を破り、立ち塞がる人間を跳ね飛ばして進んでいけるようにも思えてくる。なぜなら、もし警察に止められても、胸に手を当て、「アルコールなんて嗅いですらいません」と答えることができるからだ。そうすれば警察に捕まることなどないだろう。
しかしそううまくはいかない。現実は、渋滞にはまり、ようやく到着したかと思えば、駐車する場所を探して1時間は彷徨うこととなる。確かに、禁酒すれば寿命は伸びるかもしれないが、ここのところ渋滞のためにあまりに人生の時間を無駄遣いしているので、結局相殺されているのではないだろうかと思うようになった。
例えば、先週はホランド・パークからブルームズベリーという場所に行かなければならなかったのだが、その日のロンドンは最悪だった。街中の道が苛立ちと赤信号と立ち往生した救急車のサイレンで溢れていた。なので私は裏道に入り込んだのだが、迂回路があって、トッテナム・コート通りの端でクロスレールの工事現場に繋がっていた。
これは1951年からずっとロンドンで問題になっていることで、今になっても何ら進展が見られない。工事現場にあった看板には、いずれ150万人をロンドンまで45分で輸送できるようになる見通しだと書かれていたのだが、工事が始まって以来ずっと渋滞にはまっているハンバーやらヒルマンの後ろについて一緒に渋滞にはまっていると、そんな工事が果たしてロンドンに必要なのかと思ってしまう。
信号は絶えず赤から青に変わるものの、列の先頭のドライバーは1973年には既に死んでいるため、車列は全く動かない。労働者は地面を掘り続け、地下高速道路を作り続けている。この地下高速道路は、多くの人々が働くロンドンから、数人の魚屋しか住んでいないロンドン東部を繋ぐ。キングストン・アポン・ハルからドッガーバンクまでトンネルを掘ったほうがまだ有意義だ。
他にも、キングズ・ロードでも工事が行われている。同様に、フラム・ロードも閉鎖されている。こんな計画を認可した人間に是非会ってみたいものだ。ひょっとしたら、誰かが彼が余生を送っている家の住所や彼の看護師の名前を教えてくれるかもしれない。
さらに問題なのが、私が乗っていた車がランドローバーの新型ディスカバリースポーツだったという点だ。この車は実際のボディサイズよりもかなり大きく感じられた。こんな風に感じたのはヘッドルームが広大だからだ。ジミ・ヘンドリックスがまだ生きていれば、ヘアスタイルはそのままでこの車に乗ることができるだろう。まるで大聖堂の中で座っているような気分だ。そしてそんな大聖堂の中に座っていると、たとえ十分な間隔があっても、車の間をすり抜けようとは考えもしなくなる。
この車は妙な車だ。堅牢で実際的な車だったフリーランダーの後継車とされながら、ディスカバリーという名前が付けられ、基本設計はレンジローバーイヴォークと共有されている。ややこしいって?私もそう思う。なのでこう表現してみよう。この車は母親の車という印象の強すぎるボルボ・XC90の代わりとなる7シーターだ。また、普通のディスカバリーよりも見た目のいい代わりの車だ。ご存知の通り、普通のディスカバリーには大抵殺人犯が乗っている。
また、快適性も高い。街中では、「可」という言葉で全てを片付ける人によって修復された道路から乗員を切り離し、高速道路ではまるでホバークラフトのように滑走していく。ホバークラフトとの違いはステアリングが優秀だということくらいだ。それに、素晴らしいのはサスペンションだけではない。シートも快適で、リアシートを後ろにスライドさせれば子供の遊び場ほどの広大なスペースが生まれる。これほど広いレッグルームを持つリアシートは、シトロエンがCXプレスティージュの生産をやめて以降見たことがない。
荷室スペースからせり上がってくる3列目シートは年寄りやか弱い人、太った人、あるいは普通の健康な大人には合っていないが、学校への短距離の送り迎えのためにはないよりもあったほうがいいだろう。たとえそれによってフルサイズのスペアタイヤが搭載できなくなったとしても。
乗り心地の良さや、学校への送り迎えにも使える実用性、そして実にシャープで正確なステアリングを備えていることを知れば、ランドローバーの何よりの魅力が犠牲になってしまっているのではないかと考える人もいることだろう。あらゆる悪天候に、あらゆる悪路に対処できなくなってしまうのではないかと疑ってしまう。しかしそんなことはない。この車にも豪勢なオフロードシステムが備わっている。泥道、砂道、沼…求められるあらゆる地形をカバーし、ディファレンシャルや4WDシステムのセッティングを臨機応変に変える。
ここまでは良いことずくめだ。しかも、さらに嬉しい事に、ついにランドローバーがナビゲーションシステムや操作系を刷新した。依然としてタッチスクリーンを採用しており、画面が私でも届きづらいところにあるためこれは改善を要するが、それでも従来よりはよっぽどまともになっている。
しかし、エンジンの話となると雲行きが怪しくなってくる。エンジンは1種類のみが用意され、なんと表現するべきか…どこか時代遅れでトラクター的だ。出力は十分にあり、0-100km/h加速も8.9秒と優秀な値を示すのだが、このエンジンの粗さにはどうにも耐えられない。
ランドローバーは現在新しいエンジンの開発に取り組んでおり、2015年後半頃にはディスカバリースポーツにも搭載されるそうなので、もしこの車に魅力を感じても、その時まで待つべきだろう。
また、値段が高いので、貯金も始めるべきだ。今回試乗したモデルのベース価格は42,995ポンドで、確かにこれはボルボ・XC90の価格と比べても悪くはない。高級感がある魅力的で広大な7シーターと考えても、やはりこの価格設定は悪くない。ただし…。
この車がこれよりもかなり安いフリーランダーの後継車であると公言されていることを考えると、この価格設定は理解できない。
それに何よりの問題が、盗難の危険性だ。ランドローバーやレンジローバーはギャングに大変人気があり、気付かぬ間にアフリカへと船で運ばれてしまう。さらに悪いことに、上級グレードに装備されるキーレスエントリーシステムはセキュリティを破るのが難しくないそうだ。実際、現在ロンドンの一部地区ではレンジローバーの新型車は警察によく止められる。というのも、レンジローバーのドライバーが本当のオーナーでないことはよくあることだからだ。
私は飲酒などしていないので止められようと何ら問題はないが、果たして他のオーナーは…。
The Clarkson review: Land Rover Discovery Sport (2015)
今回紹介するのは、ランドローバー・ディスカバリースポーツのレビューです。

年始の休暇明け、私はこれ以上太らないようにしようと決めた。いろいろ考えて、2つの方法があると分かった。1つは運動をすること、もう1つは飲酒をやめることだ。しかし、よもや後者を選ぶほかないだろうと思い至った。
効果は抜群だった。わずか1ヶ月で顎が六重ではなくなり、スーツが再び着られるようになった。しかし問題も生じた。夜に出かける際はタクシーの代わりに車を使うようになった。
ある面では楽しみが増えたとも言える。夜間ロンドンを運転していると、赤信号を突破し、制限速度を破り、立ち塞がる人間を跳ね飛ばして進んでいけるようにも思えてくる。なぜなら、もし警察に止められても、胸に手を当て、「アルコールなんて嗅いですらいません」と答えることができるからだ。そうすれば警察に捕まることなどないだろう。
しかしそううまくはいかない。現実は、渋滞にはまり、ようやく到着したかと思えば、駐車する場所を探して1時間は彷徨うこととなる。確かに、禁酒すれば寿命は伸びるかもしれないが、ここのところ渋滞のためにあまりに人生の時間を無駄遣いしているので、結局相殺されているのではないだろうかと思うようになった。
例えば、先週はホランド・パークからブルームズベリーという場所に行かなければならなかったのだが、その日のロンドンは最悪だった。街中の道が苛立ちと赤信号と立ち往生した救急車のサイレンで溢れていた。なので私は裏道に入り込んだのだが、迂回路があって、トッテナム・コート通りの端でクロスレールの工事現場に繋がっていた。
これは1951年からずっとロンドンで問題になっていることで、今になっても何ら進展が見られない。工事現場にあった看板には、いずれ150万人をロンドンまで45分で輸送できるようになる見通しだと書かれていたのだが、工事が始まって以来ずっと渋滞にはまっているハンバーやらヒルマンの後ろについて一緒に渋滞にはまっていると、そんな工事が果たしてロンドンに必要なのかと思ってしまう。
信号は絶えず赤から青に変わるものの、列の先頭のドライバーは1973年には既に死んでいるため、車列は全く動かない。労働者は地面を掘り続け、地下高速道路を作り続けている。この地下高速道路は、多くの人々が働くロンドンから、数人の魚屋しか住んでいないロンドン東部を繋ぐ。キングストン・アポン・ハルからドッガーバンクまでトンネルを掘ったほうがまだ有意義だ。
他にも、キングズ・ロードでも工事が行われている。同様に、フラム・ロードも閉鎖されている。こんな計画を認可した人間に是非会ってみたいものだ。ひょっとしたら、誰かが彼が余生を送っている家の住所や彼の看護師の名前を教えてくれるかもしれない。
さらに問題なのが、私が乗っていた車がランドローバーの新型ディスカバリースポーツだったという点だ。この車は実際のボディサイズよりもかなり大きく感じられた。こんな風に感じたのはヘッドルームが広大だからだ。ジミ・ヘンドリックスがまだ生きていれば、ヘアスタイルはそのままでこの車に乗ることができるだろう。まるで大聖堂の中で座っているような気分だ。そしてそんな大聖堂の中に座っていると、たとえ十分な間隔があっても、車の間をすり抜けようとは考えもしなくなる。
この車は妙な車だ。堅牢で実際的な車だったフリーランダーの後継車とされながら、ディスカバリーという名前が付けられ、基本設計はレンジローバーイヴォークと共有されている。ややこしいって?私もそう思う。なのでこう表現してみよう。この車は母親の車という印象の強すぎるボルボ・XC90の代わりとなる7シーターだ。また、普通のディスカバリーよりも見た目のいい代わりの車だ。ご存知の通り、普通のディスカバリーには大抵殺人犯が乗っている。
また、快適性も高い。街中では、「可」という言葉で全てを片付ける人によって修復された道路から乗員を切り離し、高速道路ではまるでホバークラフトのように滑走していく。ホバークラフトとの違いはステアリングが優秀だということくらいだ。それに、素晴らしいのはサスペンションだけではない。シートも快適で、リアシートを後ろにスライドさせれば子供の遊び場ほどの広大なスペースが生まれる。これほど広いレッグルームを持つリアシートは、シトロエンがCXプレスティージュの生産をやめて以降見たことがない。
荷室スペースからせり上がってくる3列目シートは年寄りやか弱い人、太った人、あるいは普通の健康な大人には合っていないが、学校への短距離の送り迎えのためにはないよりもあったほうがいいだろう。たとえそれによってフルサイズのスペアタイヤが搭載できなくなったとしても。
乗り心地の良さや、学校への送り迎えにも使える実用性、そして実にシャープで正確なステアリングを備えていることを知れば、ランドローバーの何よりの魅力が犠牲になってしまっているのではないかと考える人もいることだろう。あらゆる悪天候に、あらゆる悪路に対処できなくなってしまうのではないかと疑ってしまう。しかしそんなことはない。この車にも豪勢なオフロードシステムが備わっている。泥道、砂道、沼…求められるあらゆる地形をカバーし、ディファレンシャルや4WDシステムのセッティングを臨機応変に変える。
ここまでは良いことずくめだ。しかも、さらに嬉しい事に、ついにランドローバーがナビゲーションシステムや操作系を刷新した。依然としてタッチスクリーンを採用しており、画面が私でも届きづらいところにあるためこれは改善を要するが、それでも従来よりはよっぽどまともになっている。
しかし、エンジンの話となると雲行きが怪しくなってくる。エンジンは1種類のみが用意され、なんと表現するべきか…どこか時代遅れでトラクター的だ。出力は十分にあり、0-100km/h加速も8.9秒と優秀な値を示すのだが、このエンジンの粗さにはどうにも耐えられない。
ランドローバーは現在新しいエンジンの開発に取り組んでおり、2015年後半頃にはディスカバリースポーツにも搭載されるそうなので、もしこの車に魅力を感じても、その時まで待つべきだろう。
また、値段が高いので、貯金も始めるべきだ。今回試乗したモデルのベース価格は42,995ポンドで、確かにこれはボルボ・XC90の価格と比べても悪くはない。高級感がある魅力的で広大な7シーターと考えても、やはりこの価格設定は悪くない。ただし…。
この車がこれよりもかなり安いフリーランダーの後継車であると公言されていることを考えると、この価格設定は理解できない。
それに何よりの問題が、盗難の危険性だ。ランドローバーやレンジローバーはギャングに大変人気があり、気付かぬ間にアフリカへと船で運ばれてしまう。さらに悪いことに、上級グレードに装備されるキーレスエントリーシステムはセキュリティを破るのが難しくないそうだ。実際、現在ロンドンの一部地区ではレンジローバーの新型車は警察によく止められる。というのも、レンジローバーのドライバーが本当のオーナーでないことはよくあることだからだ。
私は飲酒などしていないので止められようと何ら問題はないが、果たして他のオーナーは…。
The Clarkson review: Land Rover Discovery Sport (2015)