イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」の司会者の1人、ジェレミー・クラークソンが英「Driving.co.uk」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。
今回紹介するのは、BMW i8のレビューです。

我々は石油に依存しすぎている。誰もがそれを自覚している。誰もがその長期的解決策が水素だということを知っている。しかし、政府というものはえてして長期的解決策というものを嫌う。次の日の午後までしか有効でない解決策を好む。なぜなら、次の日の午後も自分たちが働いているからだ。なので、政府はハイブリッドカーの時流に乗って、トヨタ・プリウスやその亜種を購入する人々に対し、補助金の交付などの優遇を行っている。
非常に頭に来る。普通のガソリンエンジンと超重量級のバッテリーによって駆動するモーターの両方を積んだ車を作ることがエネルギー危機の解決策であるはずがない。誇示的消費によって生じた問題を、誇示的消費によって解決するなど、間抜けの極みだ。
結局、事実は以下の通りだ。自宅の車庫にある13Aのソケットから充電できるプラグインハイブリッドカーの登場により、電力の需要は急増し、現時点でさえ電力供給の不足という問題を抱えているロンドンのような都市では大きな問題が起こることだろう。
これが我々が今立たされている状況だ。ではここで、2014年に最も熱望され、話題となった車、BMW i8を見てみよう。
なぜこの車が大きな話題となったのか理解してもらうため、主要スペックをここで紹介しよう。0-100km/h加速は4.4秒だ。そして他のBMWのハイパフォーマンスカー同様、最高速度は250km/hに制限されている。にもかかわらず、ハイブリッドパワートレインのおかげで57.4km/Lという燃費を叩き出す。
読み間違えたわけではない。五十七・四キロメートル毎リットルだ。燃料電池車は一切の燃料を用いずに1,000km/hを出すことができるかもしれないが、それはあくまで非現実的な理想論にすぎない。しかし、アイザック・アシモフの小説から飛び出してきたような見た目のi8は、手押し車と同等のランニングコストでありながら、ポルシェ・911の領域にまで入り込みうる。
動力源は2つ存在する。リアには、後輪を駆動するイギリス製の3気筒 1.5Lターボエンジンが搭載され、その排気量の小ささにもかかわらず231PSを発揮する。フロントには、前輪を駆動する電気モーターが搭載され、起動したその瞬間から25.4kgf·mという途方もないトルクを発揮する。
つまり、前輪はトルキーなモーターで、後輪はパワフルな小排気量エンジンで駆動するということだ。正直、ここからは嫌な予感しかしない。延々と円を描いてスピンし続けるか、2つに割れるか。いずれにしても、この車を運転するにはバック・ロジャーズの遺伝子が必要そうに思える。
しかし違う。この車を運転するために必要なことは、ミニスカートを脱ぎ捨てることだけだ。というのも、ガルウイングドアを開け、太いシルを跨いでこの車に乗り込めば、多くの威厳を失ってしまうからだ。
しかし、一度乗り込んでしまえば至って普通だ。普通のカーナビがあって、普通のエアコンがあって、普通のカップホルダーがある。ただし、注意して見てみると、これまでのBMWよりも材質が軽くて薄っぺらいことに気付く。室内はまるでアルファロメオ・4Cのようだ。
しかし、重いバッテリーを積む車は、軽量化のためのあらゆる工夫を要するため、室内が薄っぺらいのも必要なことだ。ウインドウすらも薄い。そしてスターターボタンを押してみると何も起こらない。いや、ライトは点灯するし、ディスプレイも立ち上がるが、音はしない。少し混乱しながらも、シフトレバーをドライブに入れて出発しよう。
すると、非常に複雑な構造を持つにもかかわらず、普通の車と全く同じように運転することができる。これは途方もない偉業だ。しかし、運転した感覚は普通の車とは違う。この車はおよそ1.5トンの車重でありながら、羽毛よりも軽く感じられる。怖くなるほどに軽く感じられる。この感覚について数分間考えてみたが、こう表現するべきだろう。素晴らしい感覚だ。
しかも、街中を走っている限りはほとんどの場合、恐ろしく静かだ。力強い加速が必要なときだけ、リアのエンジンが始動して補助を行う。しかも、実際にエンジンがかかったことを体感することはできない。しかし、街を出て、車の掃けたM1に入り、シフトレバーを左に倒してスポーツモードに入れ、そしてアクセルを踏み込む。するとこの車はしっかりと変速し、しっかりとグリップする。さらに、この小排気量エンジンの音は、まるでフェラーリのV12のように陶酔させてくれる。
ジャンクション9の近くで紛れもないフェラーリ・275 GTSに出会い、しばらくの間並走した。私がフェラーリの中でも最も好きなその車と自分が乗っているi8を比べ、私はどちらのほうが好きだろうかと考えこんでしまった。それほどまでにi8は良い車だ。
言及しておかなければならないこともある。デフォルトのコンフォートモードで走っていると、バッテリーのチャージは非常にゆっくりと行われるため、そこから電気だけで走行するeDriveモードにしても、大体の場合は電気が足りないというメッセージを受けることとなる。しかし、スポーツモードにすると話は変わる。
アクセルから足を離すたび、ブレーキを踏むたび、エネルギーがバッテリーへと供給される。しかし、以前に試乗した三菱のハイブリッドカーとは違い、これを体感することはできない。ブレーキフィールは至って普通だ。そして素晴らしい。ステアリングも同様に素晴らしく、ナーバスで気まぐれなところもあるが、それでも今までに乗った中でも最高の電動パワステだと思う。
ある程度走ると、バッテリーの航続可能距離は16kmになった。BMWによると、もし電源に繋いで満充電すれば航続可能距離は40kmになるという。そのために充電するかどうかはともかく、16kmでも大概の人にとっては通勤に十分な距離だろう。
つまり、職場に向かうときには電気だけで静かに走行することができる。しかし、気分に応じてポルシェ・911に変貌させることもできる。この車はスポーツハイブリッドだが、マクラーレン・P1やポルシェ・918スパイダーなどの他のスポーツハイブリッドとは違う。手に届かない価格ではない。
この車は非常に凄いため、普通の車なら大問題となるような欠陥も見過ごすことができる。ウインドウは下まで下がらないし、ドアのアームレストに腕を置くこともできないし、トランクは笑えるほどに狭いし、後方視界は危険なほどに悪い。
リアシートは全く使えないし、乗り心地も悪い。つまり、車としては改善を要する。しかし、それでもこの車は偉業と言える。
トヨタは世界に、もしハイブリッドカーが欲しければ、楽しさという概念を捨てなければいけないという考えを浸透させた。しかし、BMW i8は必ずしもそうでないということを証明した。
それでも私は、ハイブリッドというのは間違った道を突き進んでいると思う。けれど、i8をもってすれば、全く違った道を進むのも、少なくともとても楽しくはある。
The Clarkson review: BMW i8 (2014)
今回紹介するのは、BMW i8のレビューです。

我々は石油に依存しすぎている。誰もがそれを自覚している。誰もがその長期的解決策が水素だということを知っている。しかし、政府というものはえてして長期的解決策というものを嫌う。次の日の午後までしか有効でない解決策を好む。なぜなら、次の日の午後も自分たちが働いているからだ。なので、政府はハイブリッドカーの時流に乗って、トヨタ・プリウスやその亜種を購入する人々に対し、補助金の交付などの優遇を行っている。
非常に頭に来る。普通のガソリンエンジンと超重量級のバッテリーによって駆動するモーターの両方を積んだ車を作ることがエネルギー危機の解決策であるはずがない。誇示的消費によって生じた問題を、誇示的消費によって解決するなど、間抜けの極みだ。
結局、事実は以下の通りだ。自宅の車庫にある13Aのソケットから充電できるプラグインハイブリッドカーの登場により、電力の需要は急増し、現時点でさえ電力供給の不足という問題を抱えているロンドンのような都市では大きな問題が起こることだろう。
これが我々が今立たされている状況だ。ではここで、2014年に最も熱望され、話題となった車、BMW i8を見てみよう。
なぜこの車が大きな話題となったのか理解してもらうため、主要スペックをここで紹介しよう。0-100km/h加速は4.4秒だ。そして他のBMWのハイパフォーマンスカー同様、最高速度は250km/hに制限されている。にもかかわらず、ハイブリッドパワートレインのおかげで57.4km/Lという燃費を叩き出す。
読み間違えたわけではない。五十七・四キロメートル毎リットルだ。燃料電池車は一切の燃料を用いずに1,000km/hを出すことができるかもしれないが、それはあくまで非現実的な理想論にすぎない。しかし、アイザック・アシモフの小説から飛び出してきたような見た目のi8は、手押し車と同等のランニングコストでありながら、ポルシェ・911の領域にまで入り込みうる。
動力源は2つ存在する。リアには、後輪を駆動するイギリス製の3気筒 1.5Lターボエンジンが搭載され、その排気量の小ささにもかかわらず231PSを発揮する。フロントには、前輪を駆動する電気モーターが搭載され、起動したその瞬間から25.4kgf·mという途方もないトルクを発揮する。
つまり、前輪はトルキーなモーターで、後輪はパワフルな小排気量エンジンで駆動するということだ。正直、ここからは嫌な予感しかしない。延々と円を描いてスピンし続けるか、2つに割れるか。いずれにしても、この車を運転するにはバック・ロジャーズの遺伝子が必要そうに思える。
しかし違う。この車を運転するために必要なことは、ミニスカートを脱ぎ捨てることだけだ。というのも、ガルウイングドアを開け、太いシルを跨いでこの車に乗り込めば、多くの威厳を失ってしまうからだ。
しかし、一度乗り込んでしまえば至って普通だ。普通のカーナビがあって、普通のエアコンがあって、普通のカップホルダーがある。ただし、注意して見てみると、これまでのBMWよりも材質が軽くて薄っぺらいことに気付く。室内はまるでアルファロメオ・4Cのようだ。
しかし、重いバッテリーを積む車は、軽量化のためのあらゆる工夫を要するため、室内が薄っぺらいのも必要なことだ。ウインドウすらも薄い。そしてスターターボタンを押してみると何も起こらない。いや、ライトは点灯するし、ディスプレイも立ち上がるが、音はしない。少し混乱しながらも、シフトレバーをドライブに入れて出発しよう。
すると、非常に複雑な構造を持つにもかかわらず、普通の車と全く同じように運転することができる。これは途方もない偉業だ。しかし、運転した感覚は普通の車とは違う。この車はおよそ1.5トンの車重でありながら、羽毛よりも軽く感じられる。怖くなるほどに軽く感じられる。この感覚について数分間考えてみたが、こう表現するべきだろう。素晴らしい感覚だ。
しかも、街中を走っている限りはほとんどの場合、恐ろしく静かだ。力強い加速が必要なときだけ、リアのエンジンが始動して補助を行う。しかも、実際にエンジンがかかったことを体感することはできない。しかし、街を出て、車の掃けたM1に入り、シフトレバーを左に倒してスポーツモードに入れ、そしてアクセルを踏み込む。するとこの車はしっかりと変速し、しっかりとグリップする。さらに、この小排気量エンジンの音は、まるでフェラーリのV12のように陶酔させてくれる。
ジャンクション9の近くで紛れもないフェラーリ・275 GTSに出会い、しばらくの間並走した。私がフェラーリの中でも最も好きなその車と自分が乗っているi8を比べ、私はどちらのほうが好きだろうかと考えこんでしまった。それほどまでにi8は良い車だ。
言及しておかなければならないこともある。デフォルトのコンフォートモードで走っていると、バッテリーのチャージは非常にゆっくりと行われるため、そこから電気だけで走行するeDriveモードにしても、大体の場合は電気が足りないというメッセージを受けることとなる。しかし、スポーツモードにすると話は変わる。
アクセルから足を離すたび、ブレーキを踏むたび、エネルギーがバッテリーへと供給される。しかし、以前に試乗した三菱のハイブリッドカーとは違い、これを体感することはできない。ブレーキフィールは至って普通だ。そして素晴らしい。ステアリングも同様に素晴らしく、ナーバスで気まぐれなところもあるが、それでも今までに乗った中でも最高の電動パワステだと思う。
ある程度走ると、バッテリーの航続可能距離は16kmになった。BMWによると、もし電源に繋いで満充電すれば航続可能距離は40kmになるという。そのために充電するかどうかはともかく、16kmでも大概の人にとっては通勤に十分な距離だろう。
つまり、職場に向かうときには電気だけで静かに走行することができる。しかし、気分に応じてポルシェ・911に変貌させることもできる。この車はスポーツハイブリッドだが、マクラーレン・P1やポルシェ・918スパイダーなどの他のスポーツハイブリッドとは違う。手に届かない価格ではない。
この車は非常に凄いため、普通の車なら大問題となるような欠陥も見過ごすことができる。ウインドウは下まで下がらないし、ドアのアームレストに腕を置くこともできないし、トランクは笑えるほどに狭いし、後方視界は危険なほどに悪い。
リアシートは全く使えないし、乗り心地も悪い。つまり、車としては改善を要する。しかし、それでもこの車は偉業と言える。
トヨタは世界に、もしハイブリッドカーが欲しければ、楽しさという概念を捨てなければいけないという考えを浸透させた。しかし、BMW i8は必ずしもそうでないということを証明した。
それでも私は、ハイブリッドというのは間違った道を突き進んでいると思う。けれど、i8をもってすれば、全く違った道を進むのも、少なくともとても楽しくはある。
The Clarkson review: BMW i8 (2014)
