イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」の司会者の1人、ジェレミー・クラークソンが英「Driving.co.uk」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、ミニクーパーのレビューです。


MINI COOPER

なぜ多くの車の見た目は凶悪なのだろうか。私には分からない。そして、可愛らしい車はなぜ壊滅的に失敗するのだろうか。日産・マイクラ(日本名: マーチ)がいい例だ。我々はマイクラを初めて見た際に鼻で笑った。そして、ボディカラーにショッキングピンクがあると知って再び鼻で笑った。

BMWは近年、車の印象を柔らかくしてきていたが、今では電気自動車でさえボディが限界まで引き伸ばされてかろうじてエンジンとタイヤを覆っているかのようなデザインになっている。まるでスーツの上からも筋肉の形がわかるナイトクラブの用心棒のようだ。

しかし、1台だけ例外がある。X3だ。これはただのダサい車でしかない。

長らく、車は大きな猫のごとくデザインされている。しかし、ステージのセンターに立つのは猫の優美さではない。尻だ。何故なら、猫の尻はパワーとスピードの象徴だからだ。

可愛い車はどこかおかしい。なぜなら可愛いということは弱いということだからだ。可愛いことはすぐに泣き出すことを意味し、そしてロマンティックコメディを見たがることを意味する。誰もそんな車は欲しがらない。ロマンティックコメディを見るような可愛い人ですら欲しがらない。最初に言ったように、その理由は分からない。

この点について、読者は今回の主題の車の写真を指さして言いたいことがあるかもしれない。「ミニはどうなんだよ」と言いたいことだろう。誰もがミニを好きだ。しかし、それはストライプといかしたデカールで飾られた場合の話だ。

たとえ22歳のネイルサロンで働く女の子であっても、ミニを買う理由は、ラリー・モンテカルロで旧型モデルが3回優勝したことを辺縁系の底で知っているからのはずだ。そしてもう1つの理由は、クリスタルパレスサーキットで圧倒的にパワフルなアメリカのマッスルカーたちを打ちのめしてきたからのはずだ。

ただ、数ある車の中で、ミニは違っているということは認めよう。ミニは他のどの車よりも親しみやすい。躾けられた子犬のようだ。ただ、子犬のように飼い主に噛み付くポテンシャルがあるからこそミニは人気なのだ。

そして新型の話になる。既にかなり大きかった先代モデルよりも、全長は伸び、全幅は広がり、全高もわずかに高くなって、多くの人はこれをもはやミニと呼べるだろうかと疑問に思うことだろう。そんな疑問は好きに抱けばいいと思うが、大型化の理由は、小さな車ではもはやEUの新しい安全基準にほとんど適合できないからだ。ただ、事故をしても生き残る代償として、駐車する場所を見つけられなくなった。

とはいえ、実のところ私はボディサイズの増加にそれほど困らなかったのだが、サイズの拡大が室内空間の拡大に繋がらなかったことについては疑問に思っている。リアシートは狭いし、荷室スペースは冗談のようだ。巨大なテールゲートを見ればその先には広大な荷室スペースが広がっているものと思う。けれど、実際にあるのはアフターエイト(チョコレート)の箱ほどの大きさの荷室だ。

他にもある。新型ミニクーパーには1.5Lの3気筒エンジンが搭載される。これは非常に賢いエンジンで、燃費もいいし、驚くほど洗練されている。しかしパワーはない。ボディにミニクーパーという名前、それにストライプは、エンジンの実力とは乖離している。

数字を見れば何もかもが素晴らしい。ボディは大型化されたが軽量化されたという。また、トルクも出力も十二分にあるというが、しかし実際にアクセルを踏んでみれば、その楽しさは深い深い睡眠と同じくらいだ。ステアフィールはいいし、操作性も高く、超ハードなランフラットタイヤを履いているにもかかわらず、乗り心地は「問題あり」程度だ。ただし、エンジンが68.77588km/hで音を上げてしまうため、300万km/hでのコーナリング性能については知りようがない。

また、冗談ではなく、試乗したモデルにはスピードメーターが3つついていたので速度を正確に把握することができる。1つは普通のスピードメーターで、もう1つはオプションのヘッドアップディスプレイに表示されるスピードメーターで、そしてもう1つはダッシュボード中央にあるディナープレートサイズの「管制室」に表示される。

ただ、正直に言えば、中央のスピードメーターは他の役割も果たす。実に様々な役割だ。そのどれもが衝撃的で底知れない。突然、理由もなくオレンジ色に変わったりする。時々、狂ったように光りだす。かと思えば、パステル色になり、ライラック色になる。何日も考え、私はこれにも理由があるのではないかと思い至った。例えば、ライラックは国際的に認められた「警報」の色だ。

「いけない、デフコン4になった。ライラックの警報を鳴らさないと。」

で、それがどうしたのだろうか。1つ目のスピードメーターの右にあるオレンジのライトがちょうど今消えた。それは何を意味するのだろうか。これは燃料計だ。しかもこの燃料計は実際の燃料タンクよりも大きい。この車は何度もガソリンを満タンにしなければならない。

真面目な話、私は今までにこれほど混乱させる車に乗ったことはない。確かに、パソコンをマックに変えれば慣れるのに時間はかかるが、ミニには慣れることすらできなかった。衝突防止システムのスイッチを押してオンにした後、もう一度押したら再びオンになったというメッセージが流れる。

iPodを接続しようとしてみるが、どんなことをしても私のプレイリストを再生しようとはしなかった。続いて、スポーツ、ミッド、エコモードのスイッチを押してみる。すると、2つの出来事が起こる。遅くなり、そして、3つ目のスピードメーターがまるで大晦日のシドニーハーバーブリッジのように熱狂的に光り出す。

私はかつてのミニが好きだった。思うに、かつてのミニは真面目と不真面目をうまくブレンドしたおかしな車だったと思う。マーティン・シックススミスの役もアラン・パートリッジの役もこなすスティーヴ・クーガンのような車だった。猛スピードで走ったかと思えば、駐車違反をしても見逃してもらえた。なぜならミニだからだ。しかし、新型はどうだろうか。………。どこか生意気で、実際のところ、大きすぎてもはやかつてとは違う。それに、私の頭の中では、クーパーという名前と3気筒エンジンはどうしても結びつけることができない。まるで、4.5mのシングルスクリューのボートを「サンダーライダー」と呼ぶような話だ。

けれど、読者がこんな話に耳を傾けないということを私はよく知っている。私はフォード・フィエスタの方がいい車だし、フィエスタSTこそが最高のハッチバックの1台だということを顔面蒼白になるまで語ることができる。けれど誰もがミニを欲する。

おそらく、もう少しお金を積んでスリリングな2Lエンジンを載せるクーパーSを購入するか、いくらかお金を節約してONEを購入するか、あるいはいっそディーゼルを購入した方がいいだろう。とはいえ、私は誰がどう無駄遣いしようと知ったことではないし、それで得をする人間もいる。


The Clarkson review: Mini Cooper (2014)