イギリスの大人気自動車番組「Top Gear」の司会者の1人、ジェレミー・クラークソンが英「Driving.co.uk」に寄稿した試乗レポートを日本語で紹介します。

今回紹介するのは、メルセデス・ベンツ GLA45 AMG 4MATICのレビューです。


GLA45

ご存知の通り、近年、映画史史上かつてないくらいに超大作映画というものが少なくなっている。私が子供の頃は、コンスタントに多種多様の超大作映画が生まれていた。ウエスタン映画に歴史映画、戦争映画、それにジュリー・クリスティーの出演する壮大な叙述詩もあった。かつては、『アラビアのロレンス』を見に行った翌週には『荒鷲の要塞』を見に行き、続いて『戦争と冒険』を見に行った、という具合だった。

そして私は、『戦争と冒険』を再び見た。というのも、銀幕の中で乳房を見たのはその映画が初めてだったからだ。そして、バスの金をなくしたと言ってまたもう1度見たものだった。

ところが今は全く違う。『アイアンマン』があって『アイアンマン2』があって『アイアンマン3』がある。そして、アイアンマンがキャプテンアメリカやらウルヴァリンやらと共演してみたりもする。

モンスター映画にも同じことが言える。『エイリアン』に『エイリアン2』、『プレデター』に『プレデター2』がある。そしてそれが終われば『エイリアンVSプレデター』が出てくる。となれば、いずれエイリアン・プレデターVSアイアンマン・ウルヴァリンが公開されることだろう。

けれど私はこのようなことを気にはしない。私はロバート・ダウニー・Jrが好きだし、『アベンジャーズ・アッセンブル』は大好きだし、スカーレット・ヨハンソンがパツパツのズボンを穿いている映画ならばどんなものでも見るつもりだ。ただ、最近のあらゆる大作映画が金属の骨を持つ人間か巨大なハンマーを持つ人間の話だという点は少し悲しくもある。

車についても同じようなことが言える。ハンバーやウーズレー、ヒルマンなどといったブランドが消滅したとか、そういう話ではない。あらゆるものが似たようなものになったのだ。

シュコダ・オクタヴィアとフォルクスワーゲン・ゴルフは同じだ。同様に、アウディ・A3も、セアト・レオンも同じだ。そして、ゴルフでない車は、フォルクスワーゲン・ポロかフィアット・500のどちらかだ。例外として、フィアット・500Xもある。これはアルファ・ロメオだ。

ロールス・ロイスは実のところ多くのコンポーネントをBMW 7シリーズと共有しているにもかかわらず、その事実を巧みに隠している。そうであることを知りながらも、実感することはできない。

同様のことがベントレー・コンチネンタルGTにも言える。ここ何ヶ月かで700回と言ったかもしれないが、私は今この車に大層惚れ込んでいる。ただ、もしこの車を買えば、乗り込む度に、実際のところはフォルクスワーゲン・フェートンに乗り込んでいるということを自覚することだろう。

こういった問題を解決するためには、メルセデス・ベンツを買えばいいと思う人もいるかもしれない。なにせ、メルセデス・ベンツの中身は他ならぬメルセデス・ベンツなのだから。ただ、残念ながらメルセデスはここ数年で完全に狂ってしまっており、つまり、今のメルセデスの中身は我々の嫌いなメルセデスかもしれない。

かつて、メルセデスのラインアップは非常にシンプルだった。かつては、ミドルサイズカーと、ラージサイズカーと、超ラージサイズカーしかなかった。そのどれもが、機能的で、抑えが効いていて、仕上がりが美しく、そして味わい深かった。ところが、メルセデスはハリウッドと同じ道を突き進み、同じもののバージョン違いを何百万も作っている。今や、地球上のすべての人間各々のためのメルセデスが存在する。

しかも、このどれもが、なんと表現すればいいか…ちゃちだ。メルセデスは、長らくブラウン・バッグという名前の男にデザインされていた。冗談を言っているわけではない。もっとも、本当の名前はブルーノ・サッコで、これをイタリア語から英語に訳した名前がブラウン・バッグなのだが。

ともかく、ブラウン・バッグ氏は素晴らしかった。彼は宝石やら光物を好まなかった。しかし、彼は退任し、その後釜に付いたのはエルトン・ジョンの眼鏡さえ少し地味だと評するような人間だった。最近のメルセデスのフロントを見てみれば分かる。デザインのアクセントが100万はある。明らかに過剰だ。ヘッドランプウォッシャーの付いた成金の部屋だ。

そして、先週通して私が乗っていた車も例外ではない。メルセデス・ベンツ GLA45 AMG 4MATICという名前は、4WDのAクラスの車高がわずかに上げられ、わずかなオフロード走破性が与えられ、そしてスポーティとするために再び車高が下げられたことを意味する。そして、最終的にこの車は、ノーマルのハッチバックよりわずか7cm背が高いだけにもかかわらず、ルーフバーが付いた車となった。結局、この車は車高が高いわけでは全くない。

そして、デザインを見てみれば、なんとも色々なものが付いているではないか。リアにはベントやらアルミのキッキングプレート、それにリアスポイラーが付いており、好みに応じてオプションで既に付いているスポイラーの上から別のスポイラーを取り付けることもできる。メッキのバッジもたくさん装着されており、灯火器類はまるでアメリカのパトカーの屋根に付いているライトのようだ。そして、結果、おばあさんの部屋にあるものよりも多種多様なものが付いている。

フロントをあまりに長い間見つめていれば寄り目になってしまう。そして、ボンネットには確かにパワーバルジがあるし、フロントフェンダーには「TURBO」の文字まである。

ただ、こんなことを気にする必要はない。なぜなら、この車はなんとも速いからだ。多くのホットハッチに2Lターボエンジンが搭載されているが、この車ほどの熱さを感じさせるものはない。アクセルを踏み込んで4.8秒後には100km/hになっている。

しばしば、ゴルフRが最高にして最速のホットハッチと言われるが、このメルセデスとドラッグレースをすれば、フォルクスワーゲンなど見えなくなってしまう。なぜなら、GLAの室内に溢れるメッキの眩しさにやられてしまうからだ。もとい、この車は非常に、非常に速く、ハンドリングも素晴らしいからだ。たとえ雨が降っていて道が滑りやすくなっていたとしても、4WDシステムが路面をしっかりと掴み、爆発的な加速を続けることができる。

室内には素晴らしい部分もある。シートは素晴らしく、シートベルトはドライバーを締め付けることでどれくらい太っているかを認識する。まるで、SMプレイのように。また、ドイツのカーナビは渋滞している場所を正確に教えてくれる。おかげで、先週はギルフォードを出た後に2時間は節約することができた。

この車で、本当の意味で欠点と言えるのはスロットルの特性だけだ。これはGLAクラスすべてについて言えることだ。アクセルペダルを踏んでから実際に加速し出すまでには1秒はかかり、渋滞したラウンドアバウトでは大問題となる。

おかげで気が変になってしまいそうだった。とはいえ、この車のデザインほど変ではないし、なんとか私は耐え切ることができた。また、私はこの車がどういう類の車なのかということもよく分からない。着座位置の高いホットハッチなのだろうか。着座位置の低いSUVなのだろうか。あるいは、新種のクロスオーバーなのだろうか。

ただ、正直なところ、そんなことは気にもならない。私なら、普通のAクラスを買ってお金を節約する。


The Clarkson review: Mercedes GLA AMG 4Matic (2015)