前回は、6.2L V8スーパーチャージドエンジンを搭載するモンスターセダン、ダッジ・チャージャー SRT ヘルキャットの試乗レポートを掲載しましたが、ダッジは同じエンジンを搭載する2ドアクーペのチャレンジャー SRT ヘルキャットもラインアップしています。

今回は、米国「Car and Driver」によるダッジ・チャレンジャー SRT ヘルキャットの試乗レポートを日本語で紹介します。


Challenger

新たに悪魔のようなマッスルカーが誕生した。新しいチャレンジャーはフォード・マスタングやシボレー・カマロの脅威となることだろう。ダッジ・チャレンジャー SRT ヘルキャットには6.2LスーパーチャージドV8 HEMIエンジンが搭載され、タイヤも魂も溶かし尽くす最高出力717PS、最大トルク89.9kgf·mを発揮し、悪魔の旋律を奏でる。

マッスルカーの開発とはそもそも、相手に先んじることを目的としたゲームであり、671PSのフォード・マスタング GT500を超える車が出てくるのも当然の話ではある。とはいえ、700PSの壁がこうも早く越えられるとは予想していなかった。ヘルキャットはマスタングGT500よりも46PS、カマロZL1よりも129PS出力で勝っており、さらにダッジ・バイパーのV10エンジンよりも68PS勝っている。

これだけの大出力を実現するため、鍛鋼製クランクシャフトや高周波焼入れを行ったロッドにクランクジャーナル、それに専用にチューニングされたダンパーが用いられている。鍛造コネクティングロッドは強化エンジンブッシュやカーボンコーティングされたピストンピンと共に鍛造アルミ合金ピストンを支持する。アルミニウム製のシリンダーヘッドは熱処理されており、これによりコストが高くなるだけではなく、ダッジによると組立も大変となっているそうだ。そしてこの熱処理によって耐熱性が向上しており、簡単に言えば、真夏に15回連続で0-400m全開加速を行っても、シリンダーヘッドが溶けることはない。なぜこんなことが言えるかといえば、実際に試したからだ。

過給はアルミニウム製のインテークプレナムの下部に設置されたIHI製のスーパーチャージャーにより行われる。また、左側内側のヘッドランプの中央部にはエアインテークが存在し、デュアルインタークーラーにより加熱した空気が冷却される。過給圧は最高のバランスが考えられ、11.6psiに設定されており、6.4L 自然吸気エンジンを搭載するチャレンジャーが10.9:1という圧縮比をとっているのに対し、ヘルキャットでは9.5:1となっている。SRTのパワートレイン開発主管であるクリス・カウランド氏によると、エンジン部品の90%以上は新設計となっているという。

ヘルキャットには2種類のキーが付いている。黒いスペアキーを使うと出力が抑えられ、最高回転数は4,000rpmでリミッターがかかり、1速が使えなくなってシフタップのタイミングが早くなり、そしてESCがオフにできなくなる。また、パドルシフトやローンチコントロール、ドライブモード機能も無効となり、ヘルキャットをちょっと凶暴な猫までに抑える。

しかし、赤い鍵を使えば、あらゆる制限のなくなった裏の世界へと赴くことができる。ダッシュボードのプッシュエンジンスターターを押せば6.2L V8がケルベロスのような咆哮を響かせ、深みのあるエグゾーストサウンドはスーパーチャージャーの唸りによってアクセント付けされる。結果、腹の底に響くような不吉な音が響き、これはまるで古びたザ・ストゥージズの『ファンハウス』のレコードに針を下ろすかのようだ。カウランド氏によると、社内会議でどれくらいの音を響かせるか長々と議論したそうだ。そして、大音量派が勝利を収めたようだ。

全長7.6kmのクライスラーの楕円形テストコースでの試乗では、エグゾーストがソロを演じ、そのピッチはエンジンの回転数に従って上がっていった。ただ、音量は回転数だけでなく、直径7.5cmのデュアルエグゾーストパイプのそれぞれに備わるバルブの動きにも連動している。電動式のエグゾーストバルブはエンジンキャリブレーションと協調して作動し、最終的には完全に開いたフォルテッシモの状態に至る。

出力特性はリニアで、フル加速してもトルクの出方も自然だ。160km/hまでは9秒以下で到達し、240km/hまで8速ATを介して加速していった(トレメック製の6速MTも設定されるが、今回は試乗できなかった)。少し踏めばまだパワーの余裕がたくさんあることがすぐに分かるし、シャシは操作に対して従順なので、240km/hでエアコンをいじったりすることもできる。4ラップしても水温計に大きな変化はなかった。

標準装着の300km/h超の速度レンジ対応の275/40R20 ピレリ P ZERO NERO オールシーズンタイヤは20インチ鍛造アルミホイールに組み合わせられ、これを装着するため、ホイールアーチの形状はベースのチャレンジャーからわずかに変更されている。オプション設定される同サイズのP ZERO サマータイヤへの変更は強く推奨される。フロントブレーキには15.4インチのツーピースローターにブレンボ製の6ピストンキャリパーが備わる。

ヘルキャットを発進させるのは大事だ。ハーフスロットル以上踏み込めば後輪のピレリがスモークを上げ、車がベールに包まれて隠れるかのようになってしまう。コンソールにある専用のボタンを押せばローンチコントロールが作動し、ホイールスピンを抑えることができ、ヘルキャットを青信号からの加速でヒーローへと仕立てるが、それでも調教された猫と言えど噛み付くことはある。

ヘルキャットを走らせる専用コースがなくとも、パフォーマンスページという機能を用いれば、0-100km/h加速ラップタイム、0-160km/h加速ラップタイム、Gフォース、0-200mおよび0-400m加速を記録することができ、この車の能力の一端を計り知ることができる。また、リアルタイムの出力やトルク、過給圧、吸気温度、オイル温度・圧などといった車の状況のパラーメーターを知ることもできる。

ヘルキャットの車重は2,040kg程度と予測され、これは6.4L 自然吸気 HEMIエンジンを搭載するチャレンジャー SRT 392と比べるとおよそ85kg重い。チャレンジャーの中でも油圧パワーステアリングを採用しているのはヘルキャットのみだ。また、SRT 392同様、ヘルキャットにもエンジン出力やトランスミッション、トラクション、サスペンションセッティングを変更する「ドライブモード」が備わっており、自分の好みにカスタムしたモードを選択することもできる。

ヘルキャットには、カマロZL1のようなシャープな応答性や、マスタングGT500のような一触即発の狂気はないが、扱いやすいパワーや快適なインテリア、それに独特のスタイリングも相まって街中で最も映える車と言えるだろう。


2015 Dodge Challenger SRT Hellcat First Drive