クライスラーグループのダッジブランドは日本からは撤退していますが、アメリカ本国では現在でも展開を続けています。そんなダッジブランドからは、6.2L スーパーチャージャー付V8エンジンを搭載したセダン、チャージャー SRT ヘルキャットというモデルが販売されています。

今回は、米国「Car and Driver」によるダッジ・チャージャー SRT ヘルキャットの試乗レポートを日本語で紹介します。


Charger

今、ダッジファンは喜びを禁じ得ないだろう。言うまでもなく、その理由はコンパクトセダンのダッジ・ダートにはないし、一時期SRTブランドで販売されてダッジブランドに舞い戻ったスポーツカーのバイパーもその理由ではない。ダッジファンの笑顔の理由はただ1つ、ヘルキャットという名前にある。

ヘルキャットのスーパーチャージャー付大排気量V8エンジンを知っているだろうか。スーパーチャージャーを働かせるためだけに80馬力を要し、そのスーパーチャージャーは3x4mの面積から、1分間におよそ29,000Lの空気を吸い込み、燃料噴射装置はパイントグラスなら6秒で満タンにできる。

しかも、そのエンジンは最高出力717PS、最大トルク89.9kgf·mを発揮し、おかげでダッジ・チャレンジャー SRT ヘルキャットは単なるマッスルカーではなく、0-100km/h加速3.6秒、0-400m加速11.7秒(203km/hでゴール、いずれもCar and Driverによる計測)、公称最高速度320km/hを実現する5シーターのスーパーカーと言える。

そして、ダッジはその凶暴なエンジンをチャージャー SRT ヘルキャットに載せ、最速の市販セダンを作り上げた。0-100km/h加速はダッジによると3.7秒で、0-400km/h加速は11秒フラット、最高速度328km/hだという。このパフォーマンスについては我々はまだテストしていないが、今回はバージニア州およびウェストバージニア州の田舎道で試乗し、サミットポイントモータースポーツパークのサーキットでもテストした。

フロントフェイスは幅広でニタニタした表情に見える。チャージャーはヘルキャットとしてはより成熟したモデルかも知れないが、ペダルを踏む度に制御しきれないという感覚が伴う。チャレンジャーヘルキャット同様、チャージャーヘルキャットも非常に速く、事実サーキットでも速く、職場での閲覧は非推奨という表現が最適な音を発する。ただ、サスペンションはサーキットやドラッグレース主眼というより、むしろ街乗りでのパフォーマンスを発揮するためにチューニングされているため、チャージャーはそれでもチャレンジャーほど近寄りがたい車ではない。

SRTのチーフエンジニアであるラス・ルーディスエリ氏は以下のように語っている。
"コンセプトは少し違います。チャレンジャーは足回りの硬い、ロールの少ない車にしたかったのですが、チャージャーでは乗り心地によりこだわっています。それでも、サーキットで失望するような走りにはなっていませんが、ただサーキット向けの車ではありません。"
実際、スプリングやショックアブソーバーはソフトになっているし、スタビライザーは細くなっているし、トラクション・スタビリティコントロールシステムが許容するスリップ量も変更されている。こういった変更は4ドア化やロングホイールベース化、それに2,075kgという車重や56:44(チャレンジャーヘルキャットは57:43)という前後重量配分も考慮されたものだ。

とはいえ、サーキットの走行でもほとんど問題はない。シャシ・パワートレインのセッティングを「トラック」モードに変えてサミットポイントのコースを攻めたのだが、すぐにこの車のシャープなターンイン性能や素直でしっかりした挙動を気に入った。運転していて車の大きさは常に感じる(ホイールベースは3,058mmと長い)が、ステアリング(他のチャージャーは電動パワステだが、ヘルキャットのみ油圧パワステとなる)はフィードバックに富んでいるし、極限状態でのグリップも非常に良い。コーナーの出口でハードな加速をするとリアは滑りだすが、その動きは素直だし、少しカウンターステアを入れれば持ち直す。走りはスムーズで、これはもはや凶暴な「猫」ではない。

予想通り、加速性能は圧倒的だ。加速によって重力は90度回転して背中にかかってくるし、強化された「トルクフライト」8速ATの電光石火の変速によって地球の引力などもはや感じられなくなる。サーキットのストレートでは、赤いスピードメーターの針が240km/hを指すまでシートに背中を押し付けられ続けた。ヘルキャットを現実の速度まで減速させるのは、ブレンボ製のブレーキで、フロント6ピストン、リア4ピストンのブレーキキャリパーが、フロント15.4インチ、リア13.8インチのディスクを押さえつける。BMW M6グランクーペやメルセデス・ベンツ CLS63 AMGなどといった他のハイパワーセダンもサーキットでのパフォーマンスは高いが、チャージャーはよりナチュラルで、スピンやスリップもしやすい。

チャージャーヘルキャットは街中でもスリルがある。駆動輪側の重量配分が大きくなっているせいか、運転しはじめてすぐ、パワーがチャレンジャーよりも扱いやすいと感じた。ロングホイールベースのお陰で高速域で姿勢を立て直しやすくなっているし、少なくともサスペンションの設定を「ストリート」モードにすれば乗り心地もスムーズだ。チャレンジャーヘルキャット同様、チャージャーにもタイヤにはワイドな275/40R20のピレリ P ZEROが装着されており、その恩恵もあることだろう。四輪とも同サイズなため、ローテーションをすることもでき、この点はメリットといえるだろう。人に見せつけるため、そして何よりドライバー自身が楽しむための走りをすれば、自ずとリアタイヤは磨り減るだろう。タイヤスモークを上げながらバーンアウトをし続ける姿は、実にクールだ。

ヘルキャットのデザインは人目を引くし、2015年モデルとしてマイナーチェンジを受けた標準モデルのチャージャーでさえ威圧的なのに、ヘルキャットではそれ以上の悪人面に変貌している。チャージャーには、SRT 392にもSRT ヘルキャットにも共通で大型エアインテーク付きのフロントバンパーやNACAダクト付きの大きく膨らんだエンジンフードが備わる。リアでは、トランクリッドにリアスポイラーが装着され、リアバンパーは缶サイズのエグゾーストと一体化しており、ディフューザーも備わっている。サイドシルプロテクターは、マットブラックもしくはカッパーの20インチ「スリングショット」ホイールをフロントとリアで視覚的に繋げている。

長らくの検討の結果、我々はようやく結論に辿り着いた。64,990ドルというこのチャージャーの最も悪魔的なモデルの価格は、チャレンジャー SRT ヘルキャットよりも2,300ドル高いが、チャレンジャーよりもよっぽど合理的な買い物だ(特に、妻の発言力を考慮した場合)。室内は快適だし、リアシートは大人の使用にも耐えるし、トランクも広い。

シボレー・カマロ ZL1やフォード・マスタング GT500といったライバルを有するチャレンジャーとは違い、チャージャーにはあまり競合するモデルがない。近くて遠いライバルは、値段にして2倍から3倍はする。また、ガソリンの高騰という向かい風を抜きに考えれば、チャージャーヘルキャットはチャレンジャーヘルキャット以上にダッジブランドに大きな利益をもたらしうる。どちらが売れるか楽しみだ。この点については、ダッジは「市場が決める」とコメントしているし、私も自分の好きな方を選べばいいと思う。


2015 Dodge Charger SRT Hellcat First Drive