メルセデス・ベンツ CクラスのトップモデルであるAMG C63は未だ発売されていませんが、今回は、米国「Car and Driver」による、発売を控えたメルセデスAMG C63の試乗レポートを日本語で紹介します。


C63

アンガーマネジメントは感情をコントロールするために行われる手法だ。怒りは我々をコントロールしないし、人格を決めることもない。10から逆に数を数えてみれば落ち着く、その程度のものだ。ただ、メルセデスAMGはこんなものとは何の関係もなさそうだ。でもそれでいい。怒れるAMGこそ我々が愛するものであり、むしろ怒っている方がいい。先代C63ほど怒りを象徴した車はなかった。

しかし、一見すると新型C63にその精神は受け継がれていそうにはない。2014年に発売された新型Cクラスはよりラグジュアリー寄りの道を選び、静かで落ち着いた車となり、スタイリングは洗練された乗り物の象徴でもあるSクラスの影響を強く受けている。ただ、新しいCにも、AMGの「敵意」が潜んでいるという点では、心配する必要はなさそうだ。欧州仕様のC63セダンを短いながらも試乗した結論として、新型も依然怒りに満ちていると言える。

新型C63にはこじつけの精神も受け継がれている。V8エンジンは、昔ながらの大排気量6.2L自然吸気エンジンから、4.0Lのツインターボユニットにダウンサイズされているが、車名はC63のまま変わっていない(このエンジンはC63クーペやワゴンにも搭載される予定で、あるいはコンバーチブルにも設定されるかもしれない)。ただ、フィーリングや音の面では、かつての6.2の強烈な印象を新しい4.0Lも持っている。新エンジンはAMG GTに搭載されるM178型と多くの部分を共有しており、ターボブーストやイグニッション、燃料マップがうまくチューニングされているため、従来のエンジンの圧倒的なレスポンスやリニアな加速が見事に再現されている。

このV8エンジンは標準のC63では最高出力476PS、最大トルク66.2kgf·mを発揮し、1万ドル程度(正式な価格は発表されていない)余計に支払うと、エンジンチューニングが変更され、最高出力510PS、最大トルク71.3kgf·mとすることもできる。従来の6.2Lエンジンには、457PSから517PSまで、4つのエンジンバリエーションが設定されていたが、新しいV8ターボエンジンはそのどのエンジンよりもトルクで勝っている。車重は1,800kg近かった従来モデルから軽量化しているかもしれないが、実際に測定してみないとそこは分からない。現時点では、新型モデルもおよそ1,800kg程度となると予想している。

最高速度は、C63Sは290km/hで、標準モデルは249km/hでリミッターがかかる。いずれのモデルにも7速ATが組み合わせられ、トルクコンバーターの代わりに多板クラッチが備わっている。ローンチコントロールは標準装備で、0-100km/h加速はそれぞれ3.9秒、4.0秒とアナウンスされている。変速は早いが、AMG GTの7速DCTほどの早さはない。パドルシフトによりマニュアル変速も可能だ。BMW M3には6速マニュアルトランスミッションが設定されている。これは現代的なオートマチックほど速くはないかもしれないが、しかしトランスミッションとドライバーの間にコンピューターは介入しない。一方、C63には3ペダルMTは設定されず、この点には怒りも感じる。

C63の太いステアリングにより、AMGエクスクルーシブフロントサスペンションに装着されたミシュランパイロットスーパースポーツタイヤを操舵する(言うまでもなく、リアタイヤもミシュランだ)。ステアリングアシスト力はドライブモードにより変化する。いずれのモードでもステアリングのフィードバックはダイレクトで、タイヤから伝わる情報を確実に伝える。これはM3に対するアドバンテージだ。

フロントエンドのグリップは絶大だ。C63のフロントトレッドは標準モデルのCクラスよりも拡大されており、リアサスペンションは標準モデルと構造的には変わらないが、専用のチューニングが施されている(リアにはLSDも装備される)。3モードの電子制御サスペンションは、ダンピングの度合いを硬めから過酷まで選択できる。とはいえ、19インチホイールを履くSモデルでも旧型C63よりは乗り心地がいい。一つ残念なのは、ミシュランのタイヤがあらゆる路面状況でうるさいという点だ。

AMG GTを除いて、AMGのラインアップには基本的に4WDモデルがラインアップされるようになったが、C63には後輪駆動モデルしか設定されない。この決定には賞賛を贈りたい。おかげで面白い車になっている。それには以下のような理由がある。LSD(標準のC63では機械式、Sモデルでは電子式)が備わっているとはいえ、コーナーの出口でうまくパワーを伝えるためには忍耐と腕が必要であり、ゼロスタートは難しいが楽しく、バーンアウトすることもでき、特に2段階のスタビリティコントロールを完全オフにすれば、大いにドライバーを苦しめてくれる。そして、もし運転技術がないなら、C63に怒りを感じることだろう。

かなり強化されたAMGスポーツシートはオプション設定であり、最大限に腰を固定してくれる。インテリアに見られるAMGらしさとしては、コントラストカラーのステッチや、ピアノブラックのパネル、それにカーボンファイバーアクセント入りの専用のメーターパネルなどがある。先代Cクラスよりもホイールベースは80mm延長されているものの、リアシートのスペースは依然タイトだ。

エクステリアでは、フロントフェンダーがわずかに盛り上がってワイドとなり、フロントバンパーの下部には威圧的な溝が配されている。とはいえ、これでも旧型C63のアグレッシヴさには敵わない。ただ、旧型の表情は威圧的と言えるが、しかし新型の表情はより怒りに満ちているように思える。もし新型C63がアンガーマネジメントのセッションに出席でもしようものなら、5分としないうちに椅子を蹴散らせて飛び出して行ってしまうことだろう。非常に爽快な話だ。


2015 Mercedes-AMG C63 / C63 S-Model Sedan First Drive