今回は、フィリピン「CarGuide.PH」による、トヨタの新興国向けミニバン「イノーバ」の試乗レポートを日本語で紹介します。


Innova

9年とは誰にとっても長い年月だ。9年前、YouTubeが生まれ、ヨーゼフ・アロイス・ラッツィンガーはベネディクト16世となり、トヨタはアジアの実用車に革命をもたらす新型車を生み出した。その車の名前はトヨタ・イノーバだ。もちろん、それ以降、同じクラスにさまざまなモデルが投入されている。しかし、時代がいくら変わろうと変わらないものもあるようだ。イノーバがまさにそれであり、この車は2005年の発売以来ほとんど変わっていない。イノーバは2回のフェイスリフトを経て販売が続けられ、依然として競争力を持ち続けている。

「V」のグレードバッジを持つ今回の試乗車は最上級グレードに当たる。これは「E」や「G」といった一般大衆的なグレードの購入者とは壁を挟んだ、上流階級のためのグレードといえる。ジョリビー(フィリピンの地場ファストフードチェーン)よりもバーガーキングを選ぶ人のためのグレードだ。ただ、「V」とほかのグレードを見分ける手段はリアに装着されるバッジ1つだけだ。とはいえ、エリート主義的な人ならこれを気に入らないかもしれないが、それ以外の人ならばこれで問題ないだろう。イノーバのデザインは非常に落ち着いており、これはいいことだと言える。フェイスリフトされた現行モデルは好き嫌いが分かれる部分もあるが、それでもプロポーションは悪くないし、デザインは現代的だ。個人的には、大型化されたフロントグリルや新デザインのフロントバンパーのお陰で存在感を増してこの点はいいと思うのだが、一方でリアに追加されたガーニッシュはどこか品がないように思える。

外装からはVとそれ以外で大した違いは見られないが、内装は大違いだ。ドアを開ければミルクカフェ色のレザーシートが出迎えてくれる。そして同様にステアリングやシフトレバーにも本革が用いられている。このレザーは文句がつけがたい代物だ。ソフトだが長距離の乗車にも適しており、材質は上級SUVのフォーチュナーに用いられているものに非常に似ている。ただ、シートを汚しかねない幼い子供がいる親はこの明るい色のシートを敬遠するかもしれない。わずか2週間の試乗でも暗めのジーンズからシートに色が移ってしまったので、何年も乗り続ければどうなるかは想像に難くない。また、レザーシートの他にもそれなりの木目調パネルが装着されている。

とはいえ、レザーにしろ木目調パネルにしろ、シート自体がまともでなければ話にならない。まるでエコノミークラスからビジネスクラスにアップグレードするかのごとく、イノーバの2列目シートはベンチシートから2席がセパレートとなったキャプテンシートになっている。これにより良くなることも悪くなることもあるが、個人的には全体的に見ればむしろ悪くなっているのではないかと思う。いい面としては、キャプテンシートになったことで左右の席が別個にスライドしたりリクライニングしたりできるようになっている。それにアームレストは忙しい会社役員にも束の間の休息を与えてくれる。ただ、実用性の面で、乗車定員が8人から7人へと減っている。それに2列目シートを畳んだり跳ね上げたりすることができないので3列目へのアクセス性も悪くなっている。それに、ラゲッジスペースの拡張性がボディサイズを考慮すれば少し不足していることも問題だ。

これらの違いの他は、Vの装備内容はGとほとんど変わらない。HIDヘッドランプやヘッドレストモニター、バックカメラなどといった高級車的な装備は付いていない。ただ、LEDメーターやバックセンサーなどは装備される。2014年モデルではハンズフリーフォン付きのタッチスクリーン式ナビゲーションシステムが新たに備わったが、これはフィリピンのAVT社製だ。そしてAVT社製ナビの例に違わず日光で画面が見づらくなるし、反応が非常に遅い。従来モデルに付いていた富士通テン製のラジオの方がいいと思う人もいるかもしれない。

interior

メカニカル面は9年前の発売時とほとんど変わっていない。パワーソースとしては依然として2.5LのD-4Dコモンレールターボディーゼルエンジンが搭載される。可変ノズルターボではなく、最高出力は103PS、最大トルクは26.5kgf·mを発揮する。まるでミキサーに砂利を突っ込んだかのような騒音を発するものの、パワーは十分だ。基本的にスムーズかつトルキーだし、乗員を満載していても十分に加速してくれる。燃費性能も非常によく、2週間の試乗での平均値は9.09km/Lだった。4速ATも出しゃばらずにスムーズに働いてくれる。それに踏み込めばしっかりとキックダウンしてくれる。

イノーバは外見からではフレーム構造の車には見えないかもしれないが、プラットフォームはピックアップトラックのハイラックスやSUVのフォーチュナーと共有している(トヨタIMVプロジェクトの一環だ)。シャシの共有など珍しいことではないが、イノーバではハイラックスやフォーチュナーよりもずっと素直な乗り味を実現しているという点は注目に値するだろう。低速では安定しており、道のくぼみにもうまく対処する。道の悪い場所ではわずかにガタつき感じられるが、その原因のほとんどは取り付けのしっかりしていない3列目シートのせいだ。高速道路では非常に安定しているし、風切り音も抑えられている。ただ、ステアフィールは曖昧でトラック的だし、ロック・トゥ・ロックが多いので旋回時にはステアリングをたくさん回す必要がある。それでも、アイポイントは高いし、500mmの水深渡河性能も兼ね備えており、イノーバは素晴らしいミニバンと言える。

イノーバはスポーツセダンや高級クルーザーからは程遠いし、そうあろうともしていない。ただ、設計が古いとはいえ、家族を乗せるという実用的な面では賞賛に値するモデルだ。イノーバVはそれなりの高級感を備えてはいるが、それでも上流階級のファミリーカーとはなり難いだろう。その最大の理由が価格だ。2.5Vの価格は他の5シーターSUVや、それどころか5シーターコンパクトクロスオーバーSUVともバッティングする。さらに下のグレードであればファミリーカーとしてお買い得と言えるが、Vはお買い得だとも言えない。


Review: 2014 Toyota Innova 2.5 V