かつて、スズキ・スイフトをベースとしたコンパクトカーが日本でもシボレー・クルーズとして販売されていましたが、現在は欧米などでクルーズの名称のコンパクトセダンが販売されています。

今回は、米国「Car and Driver」によるシボレー・クルーズの試乗レポートを日本語で紹介します。なお、この文章はクルーズが発売された2009年当時のものです。


Cruze

北米では大宇によって開発された車がそれなりの数販売されてきた。1980年代後半に登場したポンティアック・ルマンのほか、影の薄かったモデルとしてはスズキ・リーノにスズキ・フォレンツァがあり、他にもシボレーの格安車、アベオがそうだ。それに一時は大宇ブランドがアメリカで展開していたこともある。

大宇が開発した車に対する評価は芳しくなかったにもかかわらず、シボレーは新型シボレー・クルーズの開発主導権を大宇に託した。クルーズは世界中で売られる本物の世界戦略車であり、アメリカにはシボレー・コバルトの後継車として投入される。さらに、クルーズにはGMのデルタIIプラットフォームを使う最初のモデルでもある。このプラットフォームは今後、シボレー・オーランドや新型オペル/ヴォクスホール・アストラ、そしてアストラのビュイック版であるベラーノにも採用される予定だ。

クルーズが最初に投入されるのは欧州市場であり、北米市場では1年遅れで発売される。我々はスペインのビスケ湾で行われたクルーズの発表の場でクルーズの試乗を行った。ただ、ヨーロッパでは、GMはオペル/ヴォクスホール・アストラが同じクラスで大きな販売台数を有しているため、クルーズはさほど力を入れて売られるということはないだろう。クルーズはあくまでも大宇・ラセッティおよび大宇・ヌビラ(それぞれ北米ではスズキ・リーノおよびフォレンツァとして販売されていた格安車)の後継車として投入される。

しかしアメリカではクルーズの果たす役割は大きく、GMにはクルーズを真面目に開発する必要性があった。クルーズはオハイオ州ローズタウンの工場で製造される予定であり、GMはクルーズの販売台数がGM車の中でも大きな部分を占めることになると予想している。北米での発売までの1年間で、メイン市場に投入されるのに先立って車もブラッシュアップされることだろう。

また、このモデルがシボレーの新しいデザイン戦略を初めて採用している点でも、クルーズは重要なモデルと言える。今後のシボレーがどうなっていくかまではまだ分からないが、少なくともクルーズに関しては、どのアングルから見てもそれなりにスタイリッシュに見えると言える。フロントエンドはアグレッシヴかつパワフルで、リアはワイドに見えるし、テールランプの形状はBMW 7シリーズやレクサス・LSとも似ている。オリジナリティが一番足りないのはおそらくサイドビューだろう。こういったルーフラインやウインドウラインは様々な車に見られる。もっとも、クルーズのようなコンパクトセダンにはあまり見られないが。走っている姿を見れば、プロポーションは良く思える。クルーズはほとんどのライバル車(正直に言って多くが不格好だ)とは違い、力強くて格好良い。

欧州仕様車には当初、4気筒ガソリンエンジンが2種類(113PSを発揮する1.6Lエンジンと、141PSを発揮する1.8Lエンジン)と150PSを発揮する2.0Lターボディーゼルエンジンが設定され、2.0Lディーゼルには後に125PS版も設定される予定だ。5速MTが全モデルで標準となり、1.8Lガソリンモデルには6速ATもオプションで設定される。米国では、1.8Lのガソリンエンジンのほかに、142PSを発揮する1.4Lの4気筒ガソリンターボエンジン(複合燃費は17.0km/Lとなると想定されている)が発売される予定だ。また、264PSを発揮するハイパフォーマンスな2.0Lターボ Ecotecエンジンを搭載した「SS」も設定されるかもしれない。ただ、GMのHPVO(High Performance Vehicle Operations; GMの高性能車開発部門で、シボレーのSSシリーズやキャデラックのVシリーズの開発を行う)は現在活動停止中だ。

クルーズには画期的な新技術が使われているというわけではないのだが、剛性も高く、重心は低かったりと、真面目に設計された車といえる。GMによると、ボディや構造部の65%には高張力鋼が用いられているという。フィット&フィニッシュも現在販売されている他のGMのコンパクトカーと比べると向上しており、ボディパネルの間のチリもずれが少ない。これは成形・組立工程がいずれも正確になっていることの表れと言えよう。実際に走ってみると、剛性の高さや遮音対策のおかげで静粛性が高くなっている。

操作性も高い。急ハンドルを切っても安全マージンは確保されているし、その後は良質なアンダーステアが現れ、スタビリティコントロールがジェントルに介入する。油圧式のパワーステアリングは低価格車としてはフィードバックもいいが、装着されているタイヤが16インチもしくは17インチの太めのタイヤであるにもかかわらず、スポーティさは欠片も感じられない。

欧州仕様に設定されるガソリンエンジンでは、いずれもスポーティさを感じることはできないが、とはいえ1.6Lエンジンはあらゆる状況に十分に対応できる。このエンジンのスロットルレスポンスはリニアではないのであまり好きになれないのだが、それでも1.8Lエンジンよりはこちらを選ぶべきだろう。1.8Lエンジンは1.6Lエンジンと大して速さでは変わらないにもかかわらず、こちらは踏み込むとやかましい。ただ、1.8Lエンジンには6速ATも設定されている。このATは、普通に運転している限りでは変な動きも見せず、高速巡航時には回転数を低く保ってくれるのだが、飛ばすのには向いていない。恐ろしく応答性が悪く、エンジンの持つポテンシャルをかなり抑制してしまっているように思える。

ディーゼルエンジンは全く違う。しっかりとした5速MTと組み合わせられており、ガソリンモデルよりもよっぽど運転が楽しい。最大32.6kgf·mの大トルクが広い回転域で発揮され、車列の隙間に入り込んだりするのも簡単で、最高速度は211km/hだ。ただ、ディーゼルモデルは高いし、フロントが結構重くなるので車の俊敏性を損なう。クルーズに必要なのはガソリンターボエンジンと言え、幸いな事にその発売予定はちゃんとある。1.4Lターボの(そして願わくは2.0Lターボの)登場までは、パワートレインはシャシの能力に及ばない。

長距離旅行には、クルーズのインテリアは素晴らしい。ルーフラインはクーペ風であるにもかかわらず、ヘッドルームは十分にあるし、レッグルームも非常に広い。トランク容量は450Lと大きく、リアシートを畳むこともできる。ただ、フロントシートの背もたれの角度を調節するレバーの位置は手の届きづらい位置にあり、この点は残念だ。

全体的な室内の印象は、先代モデルに当たるリーノ/ラセッティやフォレンツァ/ヌビラと比べると圧倒的に優れている。「プラスチッキーな印象をなくしたかった」とはGM大宇のデザイン部副部長、キム・テワンの言葉だ。ダッシュボード上部はファブリックもしくはレザーで覆われ、昔のコルベットを彷彿とさせる。天井部分にも高級感のある布素材が用いられており、同クラスの他のモデルとは一線を画している。

クルーズは世界戦略車のため、北米と欧州のいずれの安全基準もクリアしなければならない。シボレーはIIHSおよびユーロNCAPのいずれでも高い評価を得て、トラクション・スタビリティコントロールおよびABSを少なくとも西ヨーロッパ仕様車では標準装備とすることを約束すると言っていた。ただ、それ以外の市場向けの仕様は未だ明らかにされておらず、北米仕様にも十分な安全装備が備わることを願いたい。

クルーズの北米での発売は2010年中に予定されており、最初はセダンのみの投入となる予定だ。ローズタウンでの生産は2010年4月に開始される予定となっている。2011年にはプラットフォームを共有するミニバンのシボレー・オーランドの発売が予定されており、これが米国投入の予定されていないクルーズのステーションワゴンモデルの代わりとなる。また、5ドアハッチバックの開発計画もあるが、米国で発売されるかは定かではない。米国での販売価格は発表されていないが、ヨーロッパではかなりお買い得な価格設定となっている。ドイツでの価格は同程度の装備を備えたラセッティよりも1,500ユーロ安く、非常に魅力的な価格といえる。

米国でのライバルとなるのは、フォード・フォーカスやダッジ・キャリバー、トヨタ・カローラ、ホンダ・シビック、日産・セントラ、フォルクスワーゲン・ジェッタなどだ。これらのモデルと比較しても、クルーズには優位性がある。設計の古いフォード・フォーカス(ただ、2010年にモデルチェンジが予定されているため、新型とは互角となるかもしれない)や作りの粗いダッジ・キャリバーではクルーズに敵わないだろう。フォルクスワーゲン・ゴルフやジェッタの方が運転するのは楽しいが、こちらは値段も高い。また、カローラはクルーズと並べてしまうと恐ろしく平凡に見える。

皮肉なことに、大宇ブランドが拠点の韓国を除いて姿を消してしまった今になって、ようやくこのブランドが輝き始めたようだ。


2011 Chevrolet Cruze Review